【人】君よ、桜よ
少しずつ暖かくなってきたな。
まだまだ夜は寒いけれど、それでも、
春が近いのは感じている。
高校生たちを筆頭に、
中学生、小学生と、卒業していく。
卒業か……
私が最後に卒業したのはいつだろうか。
学校ってわけじゃなくって、
なにかから胸を張って離れられたのはいつだろうか。
私はずっと、
自分自身を留年し続けているのではないだろうか。
毎年この季節になると、そんなことを思うのです。
子供の頃は明確にあった春が、
年を追うごとにぼやけていきます。
鮮やかなピンクではなく、
薄く滲んだ桜色。
君に会いたくはないのだけれど、
きっとそれは許されまい。
私の心情などお構いなしに、
君は優しく微笑むのだ。
楽しさと切なさの狭間で、
胸を高鳴らせた春。
街を変え、社会に飛び出し、
未知なる魅力に憑りつかれた春。
数々の別れと、新たなる出会いに、
瞳と心を潤した春。
いつの間にか渦に飲まれ、
ため息だけが残った春。
どんな春でも、君は笑う。
私の心が萎れていても、
君は満面に咲き誇る。
君よ、桜よ——
なにをそこまで彩るのか。
どうしてそんなにも無遠慮に美しいのか。
このくすんだ世界の中で、
義理堅く健気に春を告げるのか。
違う……
くすんだのは私なのだ。
君は、世界が変わらず美しいことを、
春になるたびに教えてくれているのだ。
君の笑顔が眩しいのは、
私の中の卑劣な本性が、
照らされまいと藻掻くからなのだ。
願わくば、私を卒業させてはくれまいか。
すべてを周りのせいにして、
いつまでもうじうじと、地中に籠る私を、
春の陽気な風に乗せて、掘り起こしてはくれまいか。
茶色い種から、神々しい新緑が芽生えるように、
無力な幼虫が力強く這い出て、広い世界を知るように、
色を失くした私の身体を、
君の透き通る花びらで染め上げ、
もう一度、人生を歩ませてはくれまいか。
満開に色づく桜の木を、
私は今年も見上げるだけ。
ただ君に、見惚れるだけ。
ただ君に、励まされるだけ。
君のその微笑みに、私が言葉を返せるのは、
また一年お預けなのかな。
君よ、桜よ——
幹に手を当てて誓うのだ。
今度は私が咲き誇らんと。
誰かに春を報せるように、
誰かに待ち侘びてもらえるように、
この腕を空に伸ばすのだ。
なによりも、
君が、君らしく咲き続けられる、
色彩豊かな世界であって欲しいと願うから。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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もうすぐ春ですね。
私自身、やはり元旦よりも、4月1日の方が、一年の始まりと感じるのです。
そこに、丁度咲き誇る桜の花。
出会いと別れの象徴でもあり、去年の自分を映す鏡でもあるのだと思うのです。
皆さまも、桜の美しさにただ見惚れるのではなく、去年の自分を、また、来年の自分を、思い浮かべてみてはいかがでしょうか。
それが、本来の桜の愉しみ方のような気がするのです。




