【恋】明烏
君は、知っているかい?
本物の黒って云うのは、
ときに、どんな白よりも透き通るのだよ。
苦味や、渋みに似ている。
それでいて、明け方のように爽やかでもある。
僕をこんなにしてしまったのも、君だ。
別に、画用紙みたく、ベタ塗りの黒で良かった。
何も映したくなかった。
闇夜に紛れたかった。
自分が自分である以外に、必要だとも思わなかった。
それなのに、君が磨いてしまったのだ。
予期せぬ艶を、覚えてしまったのだ。
僕は、君に愛されることで、
透き通る黒を、手に入れてしまったのだ。
烏は淋しくて鳴くのではない。
烏は、見つけて欲しくて鳴くのだ。
嗄れた声の奥にある魅力を、
知って欲しくて、鳴くのだ。
烏は愛を囁くのではない。
烏は、抗えぬ誘惑を囁くのだ。
低く淀んだ声を震わせて、
隣りにいるよと、囁くのだ。
布団の中で絡み合う足は、
ほんの戯れなのさ。
君の耳元で囀る声が、
本当の僕なのさ。
君は、知っているかい?
本物の黒って云うのは、
ときに、どんな白よりも、
人間を狂わせてしまうのだよ。
夕暮れを報せる声であり、
君を目覚めさせる、声でもあるのだ――
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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知ってる方は分かると思いますが、こちらは落語のお話『明烏』をモチーフにさせて頂きました。
――とても堅物な男が、騙されて遊郭へと迷い込んだ結果、誰よりも遊女を虜にしてしまう――
烏の魅力、黒色の魅力が、ほんのりと伝われば作者冥利に尽きます。




