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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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【怖】階段の奥


 私の実家の階段は、玄関を入ってまっすぐ、

一番奥にあります。

ちょうど半分のところで、90度に曲がるよくある形。

特段古い家でもなく、私の部屋も2階にあるからして、

毎日上り下りしていたのを覚えています。


ただ、私の記憶の中で、

なぜか不気味に光るのです。

呼ばれると言いますか……

こちらへ来いと、戻ってこいと、

手招きされる感覚があるのです。


 つい先日、久々に実家に帰ったときのことです。

長旅に疲れた私は、

着くなりすぐに、眠気に襲われました。

玄関先に座り、重たいブーツを脱ぎ、

なんとなく、元自分の部屋に向かいたくなって、

階段へ向かおうと――


「やめなさい!」

母親の声でした。

訳を聞けば、両親だけになった今、

二階は物置状態になってしまっていて、

見られるのが恥ずかしいと。

確かに、私の父親と母親は、

片付けの出来ない人間でして、

今の二階の状態も、容易に想像がつきます。

別に今更恥ずかしがらずとも……。


 そんなわけで、私は仕方なく、

一階の仏間で仮眠を取ることにしました。

久々の和室。畳の匂い。とはいかず、

もう何年取り替えられていないのか分からぬ畳から、

イグサの香りがするはずもなく、

破れたままの障子に、山積みの洗濯物。

我が親とはいえ、なんとも情けない……

が、これでこそ我が実家なのかもしれないと、

しんみりと受け入れ、隙間を探して横になる。


 すんなりと、眠りに落ちた――

ふと、子供の頃が蘇る。

勿論、実家に帰って来たことで、

当たり前に浮かんでいるのだろうと分かり切った明晰夢めいせきむ

ランドセルを玄関に放り投げ、

友達の家へと踵を返す私の背中に掛けられる言葉。


「わたしも連れてってよ!」

「ダメだよ! みんなに嫌われちゃう」

「わたしには嫌われてもいいんだ」

「……分かったよ。ちょっとだけね」


私は靴を脱ぎ捨て、階段を上る。

子供からすれば急勾配のため、先へ、先へと、手をつきながら。

折れ曲がった先には……誰もいない。

「……部屋の中か」と独りこぼして、また上る。


二階の右手、

最初のドアが私の使っていた部屋。

不思議と深呼吸をし、息を整え、

ドアノブに手を掛ける――


寸前、部屋の中へとドアが開く。


掴む物を失くした右手が空を切り、

前につんのめる。


その右腕を、ガシッと掴まれる。


どうしようもない力で、中に引っ張り込まれる――


なんとか転ばずに済んだ私の前に、

満面の笑みを浮かべる少女が立っていた。

さっきまで泣いていたのだろうか……

うっすらと瞳が潤んでいる。

「ごめんね」と、私は咄嗟に謝る。

「ううん、来てくれたからもう大丈夫」と、

少女はまた一段と口角をあげる。


懐かしい光景だった――

自分の背丈より大きな引き出し。

それぞれの段に、目一杯に貼られたカラフルなシール。

当時好きだったキャラクターの玩具。

一年がかりで作った、イルカの絵のジグソーパズル。


茶色いカーテンから漏れる夕焼けも、

部屋の奥の勉強机も、

私の中から消えてしまったはずのものが、

鮮明に蘇る。


(なるほど、昔のまんまで残してあるのが恥ずかしかったんだな。

子供離れできない自分を、見せたくなかったんだ。

寂しい思いをさせてしまっていたんだな)


「ありがとう。私を呼んでくれて」

「ううん、わたしも久しぶりに会えて嬉しかった」

「これからは、もう少しこまめに会いに来なくちゃな」

「わたしには?」

「勿論、君にも」


そう言って、私は部屋を飛び出し、転がるように階段を下りる。

急いで靴を履き、玄関のドアノブに手を掛ける。

今度はしっかりと、掛かる。

なんとなく分かったのです。

玄関のドアが、この夢の出口だと――


 刹那、私は元居た仏間で目を覚ます。

ひどく懐かしい夢だった。

眠りの余韻に頭を抱え、深く息を吐き、

独り溢す。


「……君とは、誰だ?」


私は中学生のときに、この家に養子に来た、一人っ子だ。

あの部屋も、この記憶も――



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】










——————————


初のホラーチャレンジ、お疲れさまでした(自分に)。

とても悩んだんですが、ホラーって作者考察書いちゃダメなのではないかと……。

なんで、色々散りばめられた材料から、各々好き勝手に広げて下さい。


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