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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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38/58

【人】沁みる


「くっ……ぷはぁぁぁぁぁ」


沁みる――

限界ギリギリの素晴らしい温度だ。

だらしなく口が開く。

「あぁ~」と、またひとつ声が漏れる。


温泉ってのは、何物にも代えがたい。

露天ならば尚更にだ。

一面に広がる自然と、生まれたままの姿の自分との対比が、

くだらない悩みを消し去ってくれる。

こんなにも無力なのだから、

どうしようもないではないか。


硫黄の香りはごく僅か。

海水が混じり、塩分は強めの湯だ。

腕の産毛についた小さな気泡たちを薙ぎ払う。

年相応に枯れた肌に、温泉の効能がまとわりつく。


固まった肩甲骨をほぐす。

両腕を高く伸ばす。

脇の下のリンパが、ミシミシとしなる。

肩の力を緩めると、

また「あぁ~」と、仕方なく声が漏れる。


沁みる――

身体ではない。

この干からびた心に沁みる。

孤独の憂いに、愛情への渇望に、

刺激の強い温度が沁みる。


人間、裸になれば、それが全てだ。

温泉の中には、資本主義も立ち入れない。

頭や身体は洗えても、内なる穢れは流せない。

髭は剃れても、罪は赦されない。

どんなに肌が艶やかになっても、

人生の渇きは潤せない。


それでいいんだよ。

この湯に浸かったところで、自分に変化が訪れるわけではない。

なにも変わらない。

だからこそ……

今、湯に浮かぼうとするこれが、

私なのだ。



お読みいただき、ありがとうございました。

誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。


【※この先は、作者による作品解説です。

自己解析・自己考察を含みます。

読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】











——————————


え~っと、温泉感想文ですね。はい。

前作で戦争に触れた結果、軽いスランプに陥りまして……

事実を直視しすぎた結果、なんだか自分が作る架空のお話が、とてもチンケに感じてしまったのです。


それでも、やはり創作を続けなければと思い、とりあえず温泉にでも浸かろうと思ったのです。

軽くのぼせるくらいが、丁度良い人生なのかもな……などと。


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