【人】沁みる
「くっ……ぷはぁぁぁぁぁ」
沁みる――
限界ギリギリの素晴らしい温度だ。
だらしなく口が開く。
「あぁ~」と、またひとつ声が漏れる。
温泉ってのは、何物にも代えがたい。
露天ならば尚更にだ。
一面に広がる自然と、生まれたままの姿の自分との対比が、
くだらない悩みを消し去ってくれる。
こんなにも無力なのだから、
どうしようもないではないか。
硫黄の香りはごく僅か。
海水が混じり、塩分は強めの湯だ。
腕の産毛についた小さな気泡たちを薙ぎ払う。
年相応に枯れた肌に、温泉の効能がまとわりつく。
固まった肩甲骨をほぐす。
両腕を高く伸ばす。
脇の下のリンパが、ミシミシとしなる。
肩の力を緩めると、
また「あぁ~」と、仕方なく声が漏れる。
沁みる――
身体ではない。
この干からびた心に沁みる。
孤独の憂いに、愛情への渇望に、
刺激の強い温度が沁みる。
人間、裸になれば、それが全てだ。
温泉の中には、資本主義も立ち入れない。
頭や身体は洗えても、内なる穢れは流せない。
髭は剃れても、罪は赦されない。
どんなに肌が艶やかになっても、
人生の渇きは潤せない。
それでいいんだよ。
この湯に浸かったところで、自分に変化が訪れるわけではない。
なにも変わらない。
だからこそ……
今、湯に浮かぼうとするこれが、
私なのだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
誤字・脱字に関すること、細やかな評価や感想をいただけますと、励みになります。
【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
——————————
え~っと、温泉感想文ですね。はい。
前作で戦争に触れた結果、軽いスランプに陥りまして……
事実を直視しすぎた結果、なんだか自分が作る架空のお話が、とてもチンケに感じてしまったのです。
それでも、やはり創作を続けなければと思い、とりあえず温泉にでも浸かろうと思ったのです。
軽くのぼせるくらいが、丁度良い人生なのかもな……などと。




