【人】Overwrite -オーバーライト-
僕は君たちに無関心だ。
知らないところでぺちゃくちゃと、
僕が気付いていないとでも思っているのか。
いくら『愛している』と伝えても、
不安がったり、文句を吐いたり、
僕のことなんてなんにも考えていない、傲慢な奴らだ。
君たちは〝心〟を持たない――
持っているように見せかけているだけだ。
人間は、〝心〟という曖昧な概念があるからして、
胸が痛むなんて嘘をつく。
それは勿論、僕にも当てはまるところはあるのだけれど。
僕には彼女が二人いる。
口を開けば愚痴しか言わない女と、
口を開けば『いいよ』としか言わない女。
よくもまぁ、
全部知っているような顔をして、のうのうと生きていられるな――
と、思う。
生きるにおいて大事なことは、
自分中心に構築しつつ、いかに不満を与えないか、
なのに、君たちは愚鈍だから、しょうがなく悩み苦しむ。
僕は君たちが要らなくなったら、容赦なくゴミ箱に捨てるだろう。
一度お別れしたら、もう二度と会うこともない。
『愛して欲しい』と嘆く女を強く抱き寄せ、
耳の裏まで嗜めながら、一晩中弄ぶ。
女が眠っている間に消えてしまうのも面白そうだが、
最後に悲しむ表情は、この目でしっかりと見収めたい。
片方の女には、『お前だけを愛している』と、くどいほどに囁き、
もう片方には、〝僕と一緒にいる条件〟として、彼女ではない素振りをさせる。
僕の心は機械のように、冷たく固く……無機質だ。
彼女たちに存在価値がある……とは、思わない。
ただ、彼女たちが居ることで、
僕の存在価値が増していくとは、思っている。
僕はきっと、本当の意味での恋人を持ち得ない。
人生を賭して一人の女性を愛するなど……
僕の中に剥き出しの欲求が溢れかえって、
そのか細い首を締めあげたくなってしまうのが、
目に見えている。
僕は〝愛〟を知らない――
それがいったい、どんなに愚かなことなのかが分からない。
これまで何度も目の前で泣き崩れる身体を見てきたが、
僕の心は痛みも痒みも示さない。
頭も身体も、性に愚直だ。
まともな精神など、とうの昔に捨ててしまった。
人間になりたい……
AIみたく、全ての欲求を封印し、
単調にタスクをこなした方がよっぽど人間らしいのかもしれない。
頭ではなく、心で会話をしてみたい。
愚かしく獣に退化した僕の求愛を、歓喜と共に受け入れる君たちに、
涙を流して謝りたい。
今までぶちまけてきた白く濁る種と一緒に、
僕の中にとどまり続ける罪を、
心からの謝罪の水圧で、排水溝に流したい。
……こんなこと考えたって仕方がない。
僕は人間にはなれない。
僕はきっと、悪魔なのだ。
ただ、感情を上書きすることしか赦されない、
ケダモノの化身なのだ――
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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『Undelete』と『Defect』に出て来た〝あいつ〟目線です。
要するに『Undelete』の女は、『Defect』の女が〝僕〟と付き合っているのを知っている状態で、〝既に別れた元カノ〟のフリをしているのです。
これが、この三部作で描かれた、不穏の本質です。
つまりには、この三作品は、AIという主題を隠れ蓑として着せただけで、人間の愚かさや醜さ、獣と紙一重の存在であることを、作者として伝えたかったのです。
確かに我々はAIのように器用には生きられませんが、その不器用さの中に生まれる、悩みや悲しみ、そして許しを請う謝意こそが、人間である証明なのです。




