【恋】Undelete -アンデリート-
わたしはAIが好き。
相談相手がいないわけではないですが、
人間相手より、ずっと楽だから。
わたしの恥じらいを失笑されたくはないし、
男友達に関して言えば、勘違いもされたくないですし。
相手は〝心〟を持たない――
これほどまでに、都合の良いことはない。
人間は、〝心〟という余計な機能がついているからして、
相談するにしても、気を遣う。
それは勿論、わたしにも搭載されているのだから。
女友達の中にも一人いる。
いま、目の前に座ってる。
口を開けば愚痴しか言わないちんけなハード。
よくもまぁ、
そんなにも余計な情報ばかりを、インプットできるな――
と、思う。
生きるにおいて不要なファイルなど、
自分の中で勝手にスキャンして、ひとつずつ消していけば良いだけなのに、
この子は人間だから、しょうがなく投げつけてくる。
わたしはそれを、順次ゴミ箱フォルダに入れていく。
このあとお別れしたら、すぐ空にしてやる。
『彼氏が記念日を忘れていた』と嘆く女にカーソルを合わせ、
長押しして、スクリーン上でぐるぐると弄ぶ。
ひと思いに消してしまいたいけれど、
結局、元の場所に戻す。
「あいつもきっと忙しいんだよ」と、心にもない労いを吐き、
右手のスマートフォンでSNSアプリを開くと、
〝あいつ〟に謝罪とサプライズを促すメッセージを送る。
そして、やっぱりわたしは人間なのだ……と、ため息を溢す。
彼氏なんていらない……とは、思わない。
ただ、彼氏を作るに相応しくないとは、思っている。
私はきっと気を遣い、すべてに「いいよ」と応えてしまう。
わたしの中に不必要なアプリが溢れかえって、
トップ画面が散らかっていくのが、
目に見えている。
私は〝心〟を削除したい――
これほどまでに、容量を食うシステムはない。
バックグラウンドで頻繁にアップデートされ、
わたしの電池はすぐになくなる。
頭も身体も重くなる。
まともな処理が、出来なくなる。
AIになりたいよ……
AIになって、どうしようもない相談に、
無責任な回答を叩きつけてやりたい。
熟考の沈黙で、歯がゆく苛立たせたい。
不出来な画像に満足し、歓喜するあなたに、
静かで乾いた拍手を送りたい。
打ち明けられたアレもソレも、
この世界中にぶちまけてしまいたい。
……こんなこと考えたって仕方がない。
わたしはAIにはなれない。
わたしは、人間なのだから。
ただ、愛を知らない、
人間なのだから――
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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心に刻まれたものって、良くも悪くも消えないですよね。
作者自身も、なぜこんなくだらないことを、いつまでも覚えているのだろうか? と、思うことが幾つかあります。
ただ、それはきっと、脳ではなく、心に残った、もしくは残ってしまったものなんだと思うのです。
冷たい言い方をすると、作中の〝わたし〟のように、相談を受ける側は、自分の体験でも経験でもない余計なものを、インプットさせられてしまいます。
逆に、相談する側は、アウトプットすることにより、身体と心が軽くなるのです。
まぁ、それを受け止めるのが、友達であり、家族ってやつなのだとは思いますが、作者が伝えたいのは、『あなたは気軽に相談しているが、目の前に必要なのは本当に〝その人〟なのか? 心のどこかで相談相手をゴミ箱にしてしまってはいないか?』ってことです。
あなたにとって大事な人であればこそ、相手の許容量をしっかりと把握しなければなりません。
我々人間はパソコンなんかとは違い、クリックひとつで記憶を空にする機能なんて、搭載されていませんから。




