【恋】鍵ひとつ
ドアひとつ。
カギひとつ。
いつまでも二人で居たいなんて、浅はかな妄想だ。
全然、ドラマチックなものなんかじゃない。
このカギは、僕のもの。
君には絶対に渡さない。
僕が一人でこのドアをくぐったら、きっと君は怒るだろう。
僕のことが、嫌いになってしまうだろう。
せめて君が、悲しんでくれたなら、
それだけで僕は、嬉しいのかもしれない。
また出会えるかなんて、馬鹿げた話はよしてくれ。
そんなのは、遠い昔のおとぎ話だ。
僕がちゃちなドラマや、雰囲気だけの映画なんかを、
めっぽう嫌っているのは知っているだろう?
これは、仕方のないことなんだよ。
僕なんてちっぽけな存在に、
覆せるはずのない理なんだ。
じゃあねって……クールに去っていきたいけど、
やっぱりこのドアをくぐるのは怖いな。
これも、仕方がないよね?
僕だって、初めてなんだ。
君が必死になって、僕の背中に抱きついてくれたら、
このドアをくぐらずに済んだりはしないのかな――
駄目みたい……。
身体が……身体が勝手に前に進んでしまう。
君と離れたくない――
もう一度、君の顔を見たい――
それなのに……脚が、今まで大して動かなかった脚が……
くそったれ……今ごろ動きやがって……
悔しいのかな……もう前も見えない――
――君は今、僕の横に居てくれているのかい?
手を握ってくれているのかい?
ごめんな……僕にはもう、なにも分からないんだ。
ただ、ドアをくぐるしかないんだ。
ドアの向こうが、天国ってやつなら良いな。
あれだけ死後の世界を否定しておいて、卑怯だよな。
もっと君と居たかったな。
ちゃちなドラマや、雰囲気だけの映画でも良いから、
もっと君と、愛し合いたかったな。
先に逝くよ。
このドアの先にも世界が広がっているのなら、
僕は待っている。
何年でも、何十年でも、
君が同じドアを開いてくれる時を。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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天国への扉ってやつですね。
よく擦られてるネタなので避けていましたが、私なりの表現が出来そうだなっと、深夜に思いついてしまったので、一気に書き上げました。
今の世界情勢が、私の脳に訴えかけたのだと思います。
〝死〟ってものは、どうしようもなく絶対的ですが、だからこそ、私たちは必死に考え、必死に毎日を楽しまなければならないのだと、そう思うのです。




