【独】遺伝
二階の窓から放り投げられた――
それが、私の父親との思い出。
耳の先っぽをちょん切られたり、木材の角に頭を打ち付けられたり、
門限を破れば、服を剥ぎ取られたりした。
「門限を破るような奴は、俺の息子ではない。
それなのに、なぜお前は、俺の息子みたいな顔をして、
俺の息子の服を着ている?」
素晴らしき、私の父親の言い分だ。
全裸で玄関先に放たれると、不思議と安堵する。
それが、私の小学四年生。
別に慌てずとも、もう少ししたら母親が帰って来て、
両親の壮絶な喧嘩の横で、ちゃんと大人しく泣いていれば、
難なく家の中には入れる。
私は、幸せだと思っている。
丁度良い不幸せを手に入れた……と、思っている。
私が出会った人の中には、より壮絶な幼少期を過ごした人もゴロゴロいる。
世界に目を向ければ、なおさらに。
それこそ、創作の余地も無いほどに。
親父へ――
私は、お前が憎い。
中途半端な不幸だけ背負わせて、
お前だけのうのうと生きようというのか。
『今は更生しました』みたいな顔をして、
私の過去も、なきものにしようというのか。
許せないのだ。
今この文字を打ち込む指が、思考が、
お前からの遺伝子だと思うことが。
私がこうして、お前を題材にしてしまうことが。
勘違いするな。
お前なんて、不幸の中でも、大したことない。
その辺に転がる石ころだ。
いや、欠損したアスファルトの破片だ。
まったくもって、地球の自転に関与してはいない。
それでは何故、愛しいのだ。
何故、私の心はお前を許そうとしているのだ。
――私は恐れているのです。
それが、歳を重ねた結果なのか、
広い世界を知った代償なのかは分からない。
ただ単純に、この純度の高い憎しみや、
私だけの大切な不幸が、風化していってしまうことが。
全てを許せば、私は傑出した存在になり得るのかもしれない。
崇高な魂を持ち得るのかもしれない。
しかし、果たしてそれは、私なのだろうか。
私である意味が、証明できるのであろうか。
親父へ――
私はもう少しの間、
お前を憎み続けることを選びます。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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30作目という節目に相応しくないかもしれないなと思いもしたのですが、結局これも私であり、私の中にある過去であり、私の作品という個性なのだから、受け入れるしかないなと。
皆様におかれましては、誠に勝手ながら、受け止めてもらうしかないなと。
それぞれにとって、理想の父親像ってのは、違うと思います。
私に関して言えば、正直、恨んでいるくらいの関係性の方が〝無〟よりはましだなと思っています。
まぁそもそもに、作中ではなんかかっこつけて、こじつけて、喋ってますが、実際の私はそんな出来た人間ではないので、至極単純に今後も許すことはないでしょう。




