第五十五章: ダンジョン探索の完了
ダンジョンからの帰り道にフリーダは一言も喋らなかった。視線すら合わせてくれなかった。
アリシアは「あちゃー、やっちゃったかな。」と俺に小声で言ってくる。
領都に帰り、宿舎に戻ると、元人狼の人たちが挨拶に来てくれた。俺の書状のおかげでオルジさんに作業員として雇われたのでお礼がしたいということだった。
一緒について来ていた現場監督の人も「働かせてみたら手抜きもせずに一生懸命頑張ってくれるのでありがたいです。」と言ってくれた。
俺は久しぶりにいい気分になって「頑張ってね。」と声をかけた。
みんな深々と頭を下げて出ていった。
食事の後、ケビンは「フリーダが修行すると言って出ていっちゃった」と青い顔をしてやって来た。
そばにいたアリシアがケビンに「ごめん、魔力二倍が刺激的すぎたかも。」と謝っている。
「いや、フリーダは魔力二倍はできるんだ。けれどもアリシアに追いつかれたから魔力四倍を開発すると言って…」
ケビンの言葉にアリシアは「フリーダちゃん、プライドが高いからねえ。」とため息をついた。
ケビンは「フリーダが納得しなかったらもしかすると次のダンジョン探索はパスさせてもらうかもしれない。」と言う。
俺はちょうどやって来たフレッドとアランにそのことについて相談してみた。
フレッドは「まあ、いいんじゃない?」と言うけれど、アランは「でも、僕たちだけでダンジョン攻略しちゃったらフリーダが仲間外れにされたと思わないだろうか。」と少し意見が違う。
ケビンは「修行のために君たちがダンジョン攻略を遅らせたと言う方がフリーダのお気に召さないかもしれない。今はとてもそんなことを話せる雰囲気ではない。でも、次のダンジョン探索が始まるまでには一度フリーダと話ができればと思っている。」と言う。
「そうだね。きちんとフリーダの気持ちを聞いてみた方がいいよ。」
俺はそう言ったが、ケビンは「ああ。」と暗い顔で部屋を出ていった。
残ったヒルダやグゥエンダリンは俺たちに「ごめんね。フリーダって負けず嫌いなのよ。」と言う。
アリシアが「うん、知ってた。」と答えた。
「ケビンはカッコいいけどこういうところはヘタレだから多分フリーダと話はできないと思う。」
「だからこそ私たちがずっとその尊さを観察できているわけだからね。」
(ケビン、しっかりしろよ。)
「でも、フリーダって責任感が強いからケビンが何も言えなくてもダンジョン探索の日には出てくると思うわ。」
「あの子っていじっぱりなところと責任感の強さがあって、いつも責任感の方が強いのよね。悪い子じゃないのよ。」
「フリーダには次のダンジョン探索の日が決まったらなんとか伝えておくわ。」
そう言って二人も部屋から出ていった。
残った俺たちはなんだか大変そうな勇者パーティの内実を聞いてあまり言葉も出ない。
アリシアは「フリーダが居なくても私とエドがバーサーカーになって魔獣を全部やっつけたら万事解決ですからね。」とニコッとしながら言う。
アランは「バーサーカーってあまりいい言葉じゃないと思うんだけれど。」と少し言い淀みながらアリシアを制止しようとした。
「あら、バーサーカーって古代の言葉では神の怒りを体現する戦士って事ですから。私は光の女神の怒りを体現しているだけですの。」
「そうだったのか。」
「ああ、だから私とエドがバーサーカーになるってことは神のみ技の体現ということなのでなんの問題もないのですよ。」
アランとフレッドはキツネにつままれたような顔をしている。
「まあ、もう夜も遅いから寝ようよ。また明日考えればいいさ。」
俺がそう言うと、アランもフレッドも腰を上げて自分の部屋に向かった。
「私はエドのところで寝ようかしら。」
「聖女様がそんなことを言ってはいけませんよ。」
「ちえっ。」
「はい、アリシアも早く自分の部屋に行って寝てください。」
翌朝もフリーダの姿は見えない。
ケビンは昨日より冴えない顔色である。多分、フリーダにはまだ話ができていないのだろう。
俺は可哀想なのであえて話題は振らずに今日からはこれまで踏破した中で最近の3つのダンジョンについて冒険者ギルドの管理下に置くための検分に行くことを伝えた。
今日は食堂に俺たちに毛を生えたような若い冒険者みたいな人が多いようだ。
その訳は冒険者ギルドに行くとわかった。彼らはナッシュビルで薬草集めやホーンラビットのような小さな魔獣を狩る仕事、護衛の仕事などをやって来て、ついに初級ダンジョンに入ることを許された人たちなのである。
白銀のパーティが王都から来ていた。
「ガハハ、俺たちはヒヨッコどもの引率係さ。でも、せっかくだからここのダンジョンを楽しませてもらうぜ。」とあの大斧使いのザンダーは笑っていた。
聞けば、今日から初級ダンジョンが開放になり、一週間後に中級ダンジョンが順次開放されてゆくらしい。
俺たちはその中級ダンジョンの検分のためにここに来たのである。
白銀のパーティはここのダンジョンアタックの後はナッシュビルで行われる武闘大会に参加する予定だそうである。
「王都でもここの武闘大会については盛り上がっているぜ。」
結構有名人や強者が参加するらしい。主催者の俺としてはありがたいことである。
彼らが初級ダンジョンに向かうのを見送ってから青の閃光のメンバーたちと俺が踏破した残りの3つのダンジョンに向かった。
それぞれのダンジョンで中を確かめて再配置されたモンスターの状態を確認した。どうやら合格のようである。ダンジョンが3つなので5日ほど掛かってしまった。
さらに数日してダンジョン攻略の準備が整った。
相変わらずフリーダは姿を見せない。
「これ以上待つと後の予定が間に合わなくなる。」
俺がそういうとアリシアも「そうね。フリーダがいなくても私がいるから問題ないわ。」なんていう。
ケビンには翌日ダンジョン探索に出発することを告げた。
ケビンは何も言わずに頷いただけだった。
翌朝、約束の時間になってもフリーダはいない。ケビンはもう少し待ってくれという。
仕方がないので待っていたがやっぱり来ない。
ケビンには「やっぱり来ないよね。」というしかなかった。
ケビンはうなだれている。
アランが「これ以上遅らせるとダンジョンの入り口に着くのがお昼を回っちゃいますね。」と言う。
ケビンは「もう少しだけ、もうちょっと待ってくれ。」と言う。
「いや、それでずるずると待っているんですけれどね。」
アランもフレッドもいつまで待つのかとそわそわし始めている。
「もうこれ以上待てないよ。」と俺が言ったのでアランもフレッドももう待ちくたびれたという顔をして俺の方を見る。
ケビンはそれでも「もうちょっと待って欲しいんだけれどなあ」と食い下がって来た。
「いや、もう待てないって。」と俺が言ったとき、向こうから息急き切って走ってくるフリーダの姿が見えた。
「やっと来たか。」
俺たちは速やかに出発することにした。フリーダは馬車の中で眠っているようである。
上層階の弱いモンスターを討伐している間も後ろでうとうとしている感じだった。まあ、ほとんど俺とアリシアで倒したようなものだからいいか。
地下5階まで討伐したところでキャンプすることになった。
テントを建てるとすぐにフリーダは中に入って眠ってしまった。
アランは「そりゃ不寝番は僕たちがやりますけれどね。」と少し不満げであった。
ケビンは「俺の顔に免じて許してやってくれ。決してサボっていたわけじゃないんだ。」と言う。
残ったものたちで夕食を取り、休むことになった。
ケビンは責任を感じたのか「不寝番を二人分やる」と言い出したがフレッドに「そういうのはいいから。」と押し留められてしまった。
翌朝になるとやっとフリーダも起きて来てスッキリした顔をしている。
彼女はアリシアに「負けないんだからね。」と挑発的に言った。アリシアは「ほえー?」とあまり相手にしていなかったようだけれど。
途中には様々なモンスターが出て来たが、俺とアリシアでとにかく蹴散らして最下層までやって来た。果たしてそこには魔族がいた。
「うがあ!俺はミスラム様だ!お前ら人間など本来なら近くにも寄れない貴い存在なのだぞ!」
「ごめん、近くに平気で来ちゃって。」
「う、うん、素直でよろしい。」
ミズチに聞くとこいつも破片は持っていないらしい。」
「アリシア、やる?」
「うん。封印!」
「うがあ!そんなもの効かぬわ!」
この魔族はアリシアの封印を紙のように切り裂いてしまう。
「じゃあ、魔力二倍!」
「うがが?こしゃくな!こうしてやる!」
魔族は怒気のような気合を発してアリシアを撃ち、アリシアは尻餅をついてしまった。
「きゃあ!」
あ、こりゃダメだ。俺が切りに行くか。
「待ちなさい。」
後ろから声がした。フリーダだ。
「ここは私に任せなさい。」
フリーダは前に進み出ると「封印、魔力四倍!」と叫んだ。いきなり魔族の周りに封印の薄い膜が四重に被さり、さすがの魔族もそれに拘束されると抵抗できない。
「うがが!卑怯だぞ!」
そんなことを言いながらぐるぐる巻きにされてしまい、地中に沈められてしまった。
「はあ、はあ。」
ケビンがフリーダのところに駆け寄る。
「大丈夫か。」
優しく助け起こしたケビンにフリーダは「やったわ!ついに出来たの。魔王を倒すにはこの魔力四倍は必須だから。」と言った。
ヒルダとグゥエンダリンはついに関係が進展するのかと興味津々で観察している。
ケビンは「よし、これで魔王退治ができるようになった!さあ、みんなで力を合わせて魔王を倒すんだ!」と空中を指差しながら叫んだ。
フリーダも「そうよ、ケビン、私たちは魔王を倒すのよ。」とケビンと同じ方向を向いて言っている。
ヒルダとグゥエンダリンは「ああ、いつものケビンとフリーダだわ。尊さは変わらない。」と呟いていた。
フレッドは「勇者様はさすがに正義のヒーローだな。」と感心している。けれども俺はその後に「うちのバーサーカーどもとは大違いだ(苦笑)」と呟いたことも聞き逃してはいない。
宿舎に帰って来てから数日でケビンとフリーダは最後のダンジョンにアタックすることを提案した。
魔力四倍を開発したフリーダはやる気が出て来た様子である。
「もちろん大歓迎だ。」
俺はそう言うと、周りの他の人もガヤガヤと了承の意を表した。
フレッドは「正義のコンビとバーサーカーコンビ」と小声で言っていることはもちろん聞こえている。
そういうことで俺たちは最低限の休養で7つ目のダンジョンに向かうことになった。
ここは元々上級ダンジョンとされていたところである。予想通り例えばトロールやミノタウロス、ナーガにラミアなど強いモンスターが続々出て来た。しまいにはスフィンクスまで出て来て謎掛けをして来たのである。スフィンクスは謎掛けが好きなモンスターで謎掛けができないと相手を食い殺す奴だ。
「太陽と地球、一体どちらが動いているのか。」
ケビンが「そりゃ太陽だろう。」と言いかけたが、俺は「待て待て、そんな簡単な答えならわざわざ出さないだろう。」と言った。
フリーダが「教義では太陽が動いてあるで間違いないわ。」と言い、「動いているのは太陽!」と叫ぶとスフィンクスはニヤリと笑って「ハズレ」と言う。
そのまま攻撃して来た。まあ、俺とアリシアの前ではスフィンクスなど敵ではなかったけれど。
スフィンクスが倒れてから、悩み込んでいるフリーダにアリシアは「そりゃ地球の私から見れば動いているのは太陽だけれど、太陽神ルーフにしてみれば動いているのはどちらかしらという問題よね。」とアドバイスしているようである。
「そうか、太陽から見れば動いているのは地球の方か。」
フリーダがなんとなく理解した様子なので次に進むことにした。
強敵をガンガン倒して最下層までゆくと典型的なバンパイアの服装をしたモンスターが「我は真祖なり。貴様らの命運もここまでだ!」と雷鳴を背に叫んできた。
「あれ?ツェペシュさん?」
次の瞬間、見慣れた部屋に転移した。
「やあ、エドくんだったか。」
「ツェペシュさんこそどうしてここに。」
「いや、王都のダンジョンが魔族たちに見つかりそうになったのでね。ここに避難したのさ。」
後ろを見るとケビンと勇者パーティの面々はまだ驚愕したまま固まっている。
「ああ、こちらはバンパイアの真祖のツェペシュさん。こっちは勇者のケビンとその一行だよ。」
俺は両者を紹介し合ったのである。
ケビンは驚きから覚めると、「魔王は、魔王はどこにいるんですか?」と、ツェペシュに聞いた。
「あ、ああ。ある女性の体内で魔王の種が育っているんだ。それが育ち切ると魔王になる。」
「まだ育っていないと。」
「彼女が全力で抵抗しているからね。」
「その女性ごと封印したらいいのでは?」
フリーダが横から口を挟んだ。
「うん、それは今までの聖女がやって来たことだよ。そうすると魔王の種は封印から逃げ出してまた別の人に取り憑くんだ。イタチごっこだね。」
フリーダは一瞬で言い返されて黙ってしまった。
「つまり今までの封印は無駄だったと?」
ケビンが悔しそうに言う。
「うん。だけれども君の魔剣は育ち切った魔王を倒せはしないが、魔王の種なら消滅させることができる。」
「育ち切った魔王に対抗できるのはジャンの剣ですか。あの魔族を切る剣。」
「まあ、まだまだ不完全だから魔族は斬れても魔王は斬れないよ。そうだ、エドワードくん、ここにもう一つ破片があるんだ。あの青のカエルレウスからぶんどってやった。」
どうりで青の魔人が破片を持っていなかったわけである。
「まあ、ぶんどったというよりも盗んだという方が正しいかな。どのダンジョンに接続しようかと探していた時にあいつのダンジョンで箱の中に隠されているのを見つけたんだ。」
(ええ、ツェペシュ、あなたは悪人であることは間違いないのでしょう。)
ミズチが喜んで破片を受け取った。
「わあ、右手だ!わあい僕の右手が戻って来たぞ!」
ミズチは大喜びである。
「さて、あとは赤のルベルが破片を持っているところまでは突き止めているんだが、彼女の居場所はわからない。魔族なら知っているんだけれど。」
ああ、出会った魔族はみんな切り倒すか封印しちゃいましたよ。先に言って欲しかったです。
「だからこそ君は王都に帰らずに武闘大会に出席しなければならないよ。きっと魔族もその大会に出ている筈だ。そいつに赤のルベルの居場所を聞けばいい。」
フレッドは「まあ、今からなら王都に戻る暇はなさそうだよ。エド、君は主催者だろう。」と俺に言った。
俺はツェペシュさんに「ありがとうございます。武闘大会ではきっとその魔族を見つけ出します。」とお礼を言った。
「ははは、その意気だ。それと彼女は私が渡した魔道具で無事に安全地帯にいるから大丈夫。あそこは禁制区域だから下手に入ると古代の猛獣を叩き起こしかねないからね。ちゃんと準備ができてから行くんだよ。」
ツェペシュさんはそう言うと、「もう帰る時間だね。」と言った。
「ツェペシュさん、ありがとうございます。」
俺がそう言うと彼は「お帰りはこちらだよ。」と言って一つのドアを指差した。
「これは君の領都に繋がっているから行くといいよ。」
俺たちはその扉を開けて長い登り道を進んでいった。
しまいにはドアがあり、そこを開けると眩しい陽の光が差し込んできた。
そこは廃屋の扉であり、扉だけが残っていた。裏側を見ても何もない廃墟だった。
「魔法なのね。」
フリーダが言う。
「多分ね。ツェペシュさんはそこ知らぬ人だから何が起こっても不思議じゃない人なんだ。」
俺はそう言った。
「いずれにしてもこれでダンジョンは完全制覇じゃないか。」
アランは歓喜の声を上げた。
「まだ一つ宿題があるけれどね。でもとにかくナッシュビルに戻ろう。武闘大会が始まるよ。」
俺はそう言って眩しそうに空を見上げた。




