第三十六章: ツェペシュの棲家(4)再挑戦
そうこうしているうちにフレッドとアランの剣や鎧の修理が終わったようである。
お昼休みにはキャシーも加わり、女性たちは機嫌良く話をするようになっている。
アランはその後もポツポツと靴箱にラブレターと思しきものが入れられている様だけれど、本人はタウンハウスの隣にある伯爵家の末娘とお茶をする様になって楽しんでいるらしい。彼女は学園には入らなかったそうである。
彼女はアランをお茶に誘うらしく、昼下がりにお茶とお菓子を食べてぼーっと何もせずに1時間くらい二人で並んで座っているらしい。特に話もしないのだそうである。
アリシアは「そんなの何が楽しいのかわからないわ。」とご不満な様子であるが、トレーシーは「その人その人で幸せな形は違うから。」と言い、キャシーも「そうです。王女殿下のおっしゃる通りですわ。」と言う。
キャシーがフレッドに色目を使う女を見つけると睨みつけるので最近はギャラリー女子の姿も減っている。
それについて聞かれるとフレッドは「いや、僕は浮気はしないし。」としか言わない。
「じゃあ、今週末にツェペシュの棲家の地下10階からの再挑戦をやろうか。」
俺がそう言うとみんな頷いた。
フレッドは「待ってました。」とおどける。
金曜日の昼に潜って日曜日の夜に出てくるという二泊三日のスケジュールである。
じゃあ準備しようと言うことでそれぞれ解散になった。フレッドは颯爽と帰っていった。
俺もポーション類を補充しないといけない。
今回は魔法が使われる可能性があるので魔力補充ポーションも持ってゆこう。トレーシーがメインで使うはずだが、彼女が魔力の使いすぎで魔力切れになるリスクはできるだけ抑えたい。
そういうことで俺はまたヘンリエッタの薬屋に行って相談することにした。
ヘンリエッタの薬屋はよく儲けているらしく、少しづつ店が拡張されている。最近はニールだけでなく店員の数も増えている。ヘンリエッタ自身は部下を雇って制約に専念していることが多く、店先には出ていないことが多いらしい。
俺が先ぶれで予約していたため、予約の時間にはニールもヘンリエッタも店頭にいてくれた。
ヘンリエッタもニールもやはりデュラハンの話を知っていたみたいで、普通のポーションよりも効果の大きい中級ポーションを勧めて来た。ちょっと値段は高いが今の俺なら支払えない訳ではない。解毒剤と魔力補充ポーションも追加で購入して店を後にした。
俺の鎧はケンドゥスのところで調整してもらっている。鎧をとりに行くとケンドゥスはやはりあのデュラハン騒動を耳にしていたらしく鎧を俺に渡しながら「早くツェペシュの宝玉を持って来いよ。」とハッパをかけられた。
「善処します。」
俺はそう答えて店を後にした。
さあ、再挑戦だ。
♢♢♢
金曜日の授業を終えると昼食をとってあのダンジョンに向かう。俺たちの話が広がったせいかチラホラとダンジョンに向かうパーティの姿が見える。
俺たちは入り口の横の岩壁に手を当てる。
岩壁は幻影の扉であり、中に入ることができる。
因みにダンジョンに入っていないギルド職員が検証のため入ろうとしたが、彼にとってその岩壁は幻影ではなく入らなかった。恐らくはあの地下10階のセーフティゾーンに行った人だけが使えるようになる仕組みがあるのだと思う。
俺たちはポータルの魔法陣を起動して地下10階のセーフティゾーンに戻って来た。
幸いまだ他のパーティが地下10階に到達したという形跡はない。
「じゃあフロアボスだね。」
俺が言うとアランが「扉を開けるよ。」と扉を開け、みんなが中に入った。
現れたのはけむくらじゃのオオカミの顔をしたヒューマノイドである。
「人狼か。」
「相手にとって不足ないな。」
俺たちは休養十分なこともあって気力十分で数人の人狼に戦いを挑んだ。
アランもフレッドも騎士になったことで自信がついたのかもしれない。人狼相手に一歩も引かずに戦っている。
アリシアは相手がアンデッドではなかったからか応援に回っていた。
俺は多人数の人狼がアランとフレッドを包囲しないように側面から援護した。
トレーシーは火の玉の呪文を唱えて援護した。
もう今の俺たちにはこれくらいの人狼は大した敵ではなかったが、アリシアは「はい、ちゃんと傷を見せてよ。人狼の傷を放っておくと自分も人狼になっちゃうことがあるからね。」と丁寧に回復魔法をかけていた。
今までのパターンではフロアボスに出て来たモンスターが次の階のメインの敵になっている。
地下11階は狼男だけではなくネズミ男やトラ男、ハイエナ男やジャッカル男と人狼の亜種の動物男がわんさか出て来た。
トラ男とクマ男は獰猛なので苦戦したが、トレーシーの火の槍の連発でなんとか沈めることに成功した。
けれども、トレーシーは早くも魔法を使いすぎて魔力切れの危険が迫っていた。
「じゃーん、そこで魔力補充ポーション!」
俺が魔力補充ポーションを取り出すとトレーシーははっきりと嫌そうな顔をした。
「うええ、そのポーションは苦いから嫌なんだよね。」
「じゃあ10階に戻って一旦退却する?」
「それも嫌。」
「まさか私から口移しで…」
最後まで言う前に後ろからアリシアに頭を叩かれた。
「エド、私の前でなんてこと言うの?」
「ごめんなさい。」
トレーシーは心を決めたようで「仕方ないわ。飲むわよ。」と言い、小さなフラスコに入っている濃い緑色をした液体を一気に飲み干した。
「あら、思っていたより不味くはないわね。」
「ヘンリエッタのポーションは他の店のものより飲みやすいからね。」
そのまま少し休憩しているとトレーシーの魔力は次第に回復して来た様子である。
じゃあそろそろフロアボスと戦おうか。
俺はボスフロアの扉を開けた。
ボスフロアの真ん中にはロッキングチェアが置いてあり、筋骨逞しい男がパイプを燻らせながら座っていた。彼は頭にターバンを巻き、しっかりと刈り込んだ口髭とポニーテールのように編んだ髪を持ち、首には蝶ネクタイを結んだ青い肌の巨人であった。
「これはこれは淑女方、紳士方」
この謎の巨人は良い声で語り出した。
「我が部屋にようこそおいでくださいました。私は指輪の精、ランプの精など色々やっておりましてな。どなたか望みの指輪か魔法のランプをお持ちでないかな?思いのままに城を作ろう、もしくは魔法のじゅうたんがお望みかな?」
俺は答えた。
「残念ながらどれも持っていないよ。」
「おや、それではあなた方は我が主人ではありませんな。」
「そりゃ君とは初対面だからね。私も初対面のものにマイマスターなんて言われたら気持ち悪いよ。」
「それはなかなか高潔でいらっしゃる。」
「高潔と言われるほどのこともない。」
「ではここでお帰りください。それが一番平和に解決できます。」
「はあ?私たちは通らせてもらうよ。」
「そのためには力を示すべきですね。さあ、かかってきなさい。」
この謎の巨人、おそらくは精霊の王ジンであろう、は俺たちを挑発したいようだった。
フレッドは「エド、もうやっていいか。」と剣を抜いている。アランも同じく剣を抜いた。
「力を示せっていうんだから、やろうじゃないか。」
二人ともやる気満々である。
「仕方がないな。行け!」
二人は剣を振りかぶって巨人に切り掛かった。
「ホホホ、そんなもので私に切り掛かるのですか。ご自分の手に持っているものをよくご覧なさい。」
巨人が気持ちの悪い笑い声を上げた。
フレッドとアランが持っているはずの剣を見ると剣はいつの間にかバラの花束に変わっている。
二人が驚いていると巨人は言った。
「このジン様は美しい女性からバラの花束をもらうのは大歓迎ですが、このような男からもらう趣味はないのですよ。」
「えっ、おじさんキモい。」
トレーシーが思わず言った。
その言葉にジンはショックを受けているようである。
「こ、この私がおじさんですって?」
「そうよ、あなたはおじさんよ。イケメンはこのエドのような人のことを言うのよ。」
いきなりアリシアも加勢してきた。
ついでに俺に抱きつくものだからそれを見たトレーシーが「あ!アリシア、私のエドを取らないでよ!」と反対側から抱きついてきた。
さすがのジンも呆気に取られていたようだが、気を取り直したように言った。
「こ、この!精霊の王ジン様の前で痴話喧嘩をする奴らは初めて見たぞ!」
その途端にフレッドとアランが白黒ぶちの子犬に変わって「わん、わん」と吠えながらあたりを走り回り始めた。
それを見たアリシアとトレーシーは「きゃあ!可愛い子犬ちゃん!」と子犬たちを抱きかかえようとして子犬を追いかけ始めたのである。
「あ、あ、あ、天然ね。この天然には私も敵わない。私の負けね。」
そう言うとジンからは空気が抜けたようになって空中を舞いながら小さくなってついには消えてしまった。
そして、ジンの声で「次の階を甘く見ないことね。はははははは!」と言う声が聞こえたと思うと下への階段が現れた。
ふと見るとすでに子犬の姿はなくフレッドとアランが立っていた。アリシアとトレーシーは「子犬が消えてフレッドとアランになっている!」と驚いている。
四人は「エド、これは一体どういうことよ!」と声を揃えて叫んでいた。
そんなこと俺に聞いたってわかるものか。
「とにかくそこに下への階段がある。アランとフレッドは剣を拾ってこいよ。」
♢♢♢
気を取り直した俺たちは階段を降りて行った。
階段を降りて次の階に出ると草原だった。うららかな陽気でポカポカとあったかい。
「なぜこんな地下にお日様があるんだ。」
アランが頭の上にはてなマークを出しているような気がする。
「多分、魔法で作った人工太陽ね。よく見ると作り物ってわかるわ。」
確かによく見ると「空」は天井に貼り付けたテクスチャであり、太陽は球形ではなく円盤状で空のテクスチャに貼り付いている。
地面には奇妙な帽子を被った身長30センチくらいの色とりどりの服を着た小人が走ってゆくし、空中には蝶の花やトンボの羽のような様々な羽を持つ同じくらいの大きさの小さな女性が集団で漂っている。中には妖精龍のような小さな龍も混じっている。
少し歩くと「休憩所」という札の下がった部屋があり、中に入るとどう見てもセーフティゾーンである。その横にはどう見てもフロアボスの部屋があるが扉を開けようとしても鍵がかかっているらしく開かない。
この階では今まで特に危険なエンカウンターには会っていないけれども俺たちは一旦、セーフティゾーンに入ってどうするか相談することにした。
「とりあえずはあのボスフロアの鍵を見つけることだよね。」
「でも手がかりすらないよ。」
「うーん」
どこに何を探しに行っていいのかすらわからない。
「その辺りを駆け回っているあの小人を捕まえて聞いてみればどうだろう。」
フレッドは言った。
「礼儀を失するような真似はダメですよ。」
トレーシーは言う。
「ああ」
フレッドはその辺りを駆け回っている小人のうち一人の首根っこを捕まえてひょいと持ち上げた。
「うわわ、何をする!」
捕まえられた小人はジタバタ暴れているがフレッドに掴まれたまま逃げられない。
「お、下ろせ!下郎め!」
フレッドは意に介さずその小人に「あのフロアボスの部屋に入るための鍵はどこだ。」と聞いている。
小人は「ふん、そんなこと教えるものか。」とそっぽを向いている。
トレーシーは「フレッド、その小人さん、怒っているじゃない。地面に降ろしてあげて。」とフレッドに言う。
「王女殿下、お言葉ですが、こいつを地面に降ろしたら逃げてしまいますよ。」
それを聞いた小人は「わ、私はレプラコーンの王子、ロマノ・クワセメシ3世と申します。こんな無礼な猿ならともかく王女殿下の前で逃げることは致しますまい。」と言う。
「ねっ、逃げないと言っているから降ろしてあげて。」
「王女殿下の命令には逆らえませんね。」とフレッドは彼を地面に降ろした。
ロマノ・クワセメシ3世はいきなり跪くと「王女殿下、私の妃となって一緒にレプレコーンの国を治めましょうぞ。」と言い出した。
トレーシーはよほど驚いたみたいで「でも私、婚約者がいるの。もう結婚が決まっているんですのよ。残念ながらあなたとは結婚なんてできませんよ。」とまともに返している。
ロマノ王子はそんなことは意にも介さないように「私はひ弱い人間と違って勇猛なのです。口だけの人間どもとは違いますよ。」となおも迫っている。
トレーシーは思わず俺の方を見て「まあ、それじゃ、あなたもドラゴンを倒したことがあるの?私の婚約者様は山のように大きなドラゴン、妖精龍なんかじゃない本物のドラゴンを倒した勇者なのですよ。」と返事をしている。
「そ、そんな。口だけではなんとも言えるのです。人間は嘘つきですから。」
王子はブルブルと震える声で言う。
「エド、あの青い龍の鱗ってあったわよね。見せてあげて。」
トレーシーは俺に言う。
「仕方がないですねえ。」
俺はマジックバッグの中に残っていた直径50センチはあろうかと言う大きな青龍の鱗を出してあげた。
ロマノ王子は自分の身長の倍くらいある鱗を見て呆然としている。
トレーシーは「まあ、これくらいの龍を倒さないと私の婚約者にはなれないのですよ。で、鍵のありかはどこなんですか?」と王子に言っている。
王子は「ああ、鍵は南のよい魔女と西の悪い魔女が持っている。それをエメラルドシティの大魔法使いに繋げて貰えばよい。」と言う。
王子はニヤリと笑うと続けて「南の魔女が好きなのはピンク色のアザミの花、西の魔女が好きなのは黄色いチューリップだ。間違えたら激怒して食い殺されるから気をつけて渡せよ。」と言った。
トレーシーは「どうやっていけばいいの?」と王子に聞いている。
「ああ、それはそこの黄色いレンガの道を辿っていけばいいよ。」と王子はすぐ向こう側にある黄色い道を指差した。
俺たちは全員で王子にお礼を言ってからその黄色いレンガ造りの道を進むことにした。
道端には色とりどりの花が咲き乱れている。アリシアがその中からピンク色のアザミの花と黄色いチューリップの花を見つけてそれぞれ花束を作った。
どんどん進んでいくと小さな家が見えてきた。
「ここがあの王子が言っていた南のよい魔女の家なのかしら。」
アリシアが悩んでいた。俺たちもノッカーを鳴らそうかどうか迷っていると道を誰かが歩いてくるのが見えた。よく見てみると青いギンガムのドレスを着てエプロンを着け、日傘をさしたネズミが手押し車を押しながら歩いてくるのだった。
「ネズミさん、このお家は誰のお家なの?」
アランがネズミさんに聞いている。
そりゃネズミは返事しないだろうと思ったらネズミは「ここ有名な南のよい魔女さんのお家ですよ。」と返事した。
俺は(ここの動物たちは喋れるのか)と驚愕したが、アランは何でもないようにお礼を言っていた。
俺がノッカーを鳴らすと中から「どうぞ」という声がして扉が内側に開いた。
「初めましてお邪魔します。」
俺はそう言って中に入った。
「おや、珍しいお客さんね。どなた?」とやや小太りの老女は俺に聞いてくる。
「私はエドワード・スペンサー伯爵と申します。お近づきの印に。」
そう言って俺はピンクのアザミの花束を差し出した。
その途端、老女は「私にアザミを差し出すとは!キリン!出てきたこいつらを食い殺しておやり!」と叫んだ。
虚空から麒麟(当然みなさんが動物園で見るあの首の長いキリンではない。聖獣であるキリンだ)が現れた。
フレッドとアランは慌てて剣を抜いているが、麒麟は襲ってくる気配はなさそうである。
「ははは、私は邪悪は食い殺すけれどね。そうでないものには無益な殺生はしないんだよ。」
麒麟がそういうのを聞いて俺はアランとフレッドに剣を下げさせ、改めて黄色いチューリップの花束を渡した。
「あら、チューリップね。花瓶に生けなくては。」
魔女はそういうとどこかからかガラスの瓶を出し、水を入れてチューリップをその瓶に入れた。
「私ってチューリップが大好きなんだよね。最近は忙しくてチューリップを取りにいく暇がなかったからよかったわ。」
老女はチューリップを見てニコニコしている。
いつの間にか麒麟の姿はなくなっていた。
「それでどんな御用なの?」
「あの、フロアボスの部屋の鍵がここにあるってレプラコーンの王子に聞いたんです。」
「ふろあぼすの鍵?うーん、あっ、あの魔法の鍵のことね。あれは半分が私、もう半分が西の魔女のところにあるはずよ。」
「多分それです。」
「渡すのは構わないけれど、鍵は大魔法使いのところで繋いでもらわないと使えないわよ。」
「エメラルドシティの大魔法使いですね。」
「知っているならば話は早いわね。」
彼女は後ろの長持ちから半分だけの鍵を出してきていった。
「これを持って西の魔女を訪ねるといいわ。彼女は悪い魔女だったことにされているけれど本当はいい子だし、私も彼女が元気でやっているか心配なの。もし会った時には私からよろしくって言ってあげてね。」
俺たちは南のよい魔女にお礼を言って再び黄色い道を辿り始めた。
♢♢♢
夕刻になって、と言っても太陽の位置は変わらないので空のテクスチャの色がオレンジ色になって太陽の光が弱くなっていただけだが、俺たちは奇妙な塔の前にいた。
変に捻じ曲がって黒い屋根の尖塔がいくつもついた塔である。
恐らくここに西の魔女が住んでいるに違いない。夕刻なのでコウモリたちもバタバタ飛び始めている。
とりあえずノッカーをノックすると建て付けが悪く、蝶番の油も切れている扉がギーッと大きな音を立てて開いた。
中に入ると塔の壁に造られた螺旋階段がずっと上に続いている。
俺たちはその螺旋階段を延々と上り続けることにしたのである。
どこまで登ってもまだまだ天井すら見えてこない。俺の光球の呪文でも上を照らすことはできず闇に隠れているゴールを目指すのにみんな段々と疲れてきた様子である。
俺は「じゃあ私は飛行の魔法で上まで行ってみるので皆さんは降りて下で待っていて!」と言い残してやっと習熟した飛行の魔法で上に飛んでいってみることにした。
トレーシーや他の人たちは「えっ、エドだけずるい。」とぶうぶう文句を言っているけれど、そんなの無視である。
どんどん上に飛んでゆくとしまいには天井があり、そこに階段が吸い込まれている。
天井の穴に入るとドアがある。
ノックをすると「誰?」という返事があった。
待っているとややあって扉が開いて顔色の悪い痩せた女が顔を出した。
すかさずアザミの花束を出して「南の魔女がよろしくと言っておられました。」と言う。
扉を閉められないように靴を扉の隙間に差し込んだ。
それを見た彼女は「まあ、入りなさい」と扉を開けてくれた。
中に入ってよくみると魔女は緑色の肌をしていた。そりゃ多くの人に喜ばれにくい色だよなあ、と思う。
「で、何が欲しいの?」
「南の魔女が半分持っていた魔法の鍵の残り半分です。」
「はっ、そんなものが欲しいのね。」
彼女は花束をテーブルの上にばさっと置くと魔法で長持ちを開け、そこから鍵を浮かばせてこちらに持ってきた。
「フン、これでいいでしょう。」
魔女はもう面倒くさそうな表情をしていた。
「あ、あの、この花束、花瓶に水を入れて生けましょうか?」
俺がそう言うと魔女は「水?水ですって!お前はもう吹き飛ばしてやる!」そう言って暴風を起こしたらしい。俺は必死で鍵を掴んだまま窓から外に吹き飛ばされてしまった。
そのまま浮遊術でふわふわと地面に降りてゆくと、丁度塔を降りてきて地上に出た他のパーティメンバーの上に着地してしまった。
アランやフレッドは俺の重みをまともに受けて「グエッ!」と叫んでいる。
アリシアは「エド、重いじゃないですか、何するんですか。」とよくわからない文句をあげている。
俺は「喜べ、西の魔女から鍵の半分をもらってきたぞ。」といった。
そうすると塔の上から「うるさい、お前らみんな吹き飛ばしてやる!」と言う声が降ってきて、俺たちはみんな一緒に空の上に吹き飛ばされてしまった。
♢♢♢
ヒューヒューと風を切る声が聞こえる。
あたりはもう闇に閉ざされている。夜である。
どんどんと飛ばされてゆくと向こうに明らかに夜なのに輝いている街みたいなものが見えてきた。
近づいてくるとそれは確かに街である。それもかなり大きな街であった。
街のあちこちに尖塔がある。そんな尖塔にぶつかって怪我するのはゴメンである。
俺はみんなに浮遊術をかけた。
そうして緑色の屋根にふわりと着地することができた。
もう外は真っ暗であるが下ではまだまだ街の明かりが煌々と輝いている。
「ここはどこなんだろう」
俺がそう言うとトレーシーが答えた。
「こんなに緑色の街ですもの。」
「エメラルドシティか。」
俺はそう答えたけれどあまりに都合が良すぎないか。
いずれにしても屋根や上にいたのでは寒いので下に降りることにした。屋根から見ると都合よくバルコニーが出っ張っている。
屋根の縁に手をかけてバルコニーに飛び込んだ。そこは広い部屋で真ん中に大きな机がある。机には小柄な男が座っていた。
お互いに叫びそうになるのを堪えていると先に冷静になったのは小男の方である。
「お前らは誰だ。何しにきた。」
俺は返答した。
「俺たちは魔法の鍵を見つけた。それを繋いでもらおうと思ってエメラルドシティの大魔法使いのところに来たんだ。」
「大魔法使いとは俺のことだ。」
その小男は言った。
アリシアが後ろから驚いたような声をあげた。
「南の魔女はエメラルドシティの大魔法使いは雲を突くような大男だって言っていたわよ。」
小男はため息のようなものをついて言った。
「魔法というのは本来あるものを違ったように見せかけるものだ。」
後ろで何か言いたそうな雰囲気を感じるが俺は全力でそれを押し留めて本題に戻す。
「で、あなたがその大魔法使いというならばこの二つの鍵の部分をくっつけて一つの正しい鍵にして欲しいんだ。」
俺は南の魔女と西の魔女にもらった鍵の部分を見せて言った。
小男は再びため息をつくと「ああ、簡単なことだ。」と言った。そして机の引き出しを取り出すと一本の鍵を取り出した。
「ほら、これだよ。」
俺は唖然としてその鍵を手に取った。
トレーシーが我慢できなくなったように「それは魔法じゃないわ。」と言ってしまった。
小男は「ふふん、嬢ちゃん、これは布で隠していないから魔法には見えないだけだ。布で隠せばそれは魔法になる。全てはそういうものなんだよ。」とむしろ胸を張って言うのである。
多分このことを議論しても何も答えは出ないだろう。
俺は静かにトレーシーを止めた。
「それで大魔法使いに聞きたいんだが、ここからこの魔法の鍵を使う扉に行きたいんだが、どうやっていけばいいかな。私たちはここにはあの西の魔女に吹き飛ばされてきたから帰り道がわからないんだ。」
「ああ、私もここには熱気球で来たんだよ。大嵐に吹き飛ばされてね。懐かしのアメリカに帰る道はどこにあるんだろう。まあ、それはいいとして。さあ、ここに大魔道書がある。それによると、むむむっ。」
そう言いながら彼は部屋に通じる一つの扉を開けた。
「ここにポータルがある。このポータルを起動するとこの国の中だけならば行きたいところに行けるんだ。けれども戻ってはこられない。さあ、行くかね?」
後ろでは「魔道書は関係なくない?」という囁き声が上がりそうだったので俺は手でそれを制した。
「では大魔術師よ、私たちはこのポータルを使いたいと思う。」
「じゃあこの部屋に入った入った。」
「ポータルの魔法陣が光ったら行きたいところを念じて!」と大魔術師はいう。
程なく魔法陣が光り始めてきた。
「さあみんなをフロアボスの扉の前に連れて行っておくれ!」
ヒューっ!
俺たちは気がつくとあのフロアボスの部屋の前に立っていたのである。
あたりはもう朝焼けがさしていて太陽も少しづつ輝きを増しているようだった。
「えっもう朝?」
みんなは驚いているが、そもそもここはダンジョンの中であるし、あの太陽も人工のものである。気にするだけ無駄と言える。
「よし、みんな準備は十分かい?」
俺はフロアボスの部屋の鍵を開けた。
扉を開けるだと中には骨になったドラゴンが立っていた。
「スケルトンドラゴンだ!」
「ああ、ついにアンデッドちゃんが戻ってきたのね。」
アリシアだけが感極まった声を出していた。
さあ戦闘準備だ。
ダンジョン探索編です。
言うまでもなく有名作のオマージュです。ああ、映画を見に行きたい。
ちょっと一万字超えたのでこの章はこの辺でやめときます。




