第三十一章: 第二学年とダンジョン探索
夏休みが終わると社交シーズンは終盤になる。バカンスから王都に戻ってきた貴族たちのための夜会がポツポツと行われる。
そんな中で学園の入学試験が行われ、受験生は悲喜交々を味わうことになる。
ランディもその一人だが、どうやら優秀なランディは無事試練を突破したようである。
「実技試験を免除されたエドワード兄と違って僕は凡才ですから。」
彼は謙遜するが、結構成績は良かったらしい。
入学式では(暫定)生徒会長としてトレーシーが挨拶する。新入生代表はマチアス殿下である。彼は側妃の子供であるが、側妃は俺たちに挨拶をしたことすらなく目を合わそうとしないほどなのに、王子の方はなぜか王宮でも俺やトレーシーに懐いていたのである。彼は「王族が兄弟間で喧嘩するのは国のためにならないでしょう?」と言って明言はしないけれども自分の母親の態度を喜んではいないようだった。そんな第二王子は新入生挨拶でもしっかりと発言できており、挨拶を聞く限りは馬鹿ではなさそうである。
学園は身分差はないという建前ながらA組は大貴族が主で、平民はE組、F組に集められている。本音は身分による差を普通に認めていることは間違いない。
マチアス殿下は当然A組で、子爵令息のランディはD組である。俺はランディを捕獲しに行き、トレーシーがマチアスを捕獲しに行くことになった。
授業終了後に1年のD組に行ってランディを見つけた。ランディは既に何人かの友人ができていたみたいだが、俺が「生徒会に来てくれるかな?」というとその友人たちに断ってから「エド兄様、わかりました。」という。かわいい従兄弟である。
それを聞いて周囲の人は「ランディのエド兄様ってあのドラゴンスレイヤーじゃないの?」「王女様の婚約者という?」などとざわざわとし始めている。いや、有名人はつらいよね。
下級生の注目の的となっている場合でもないので速やかにランディを生徒会室に連れていった。既に生徒会室にはマチアスともう一人の男の子がいた。
「トレーシー、その子は?」
「あっエド義兄様、お久しぶりです。」
マチアスが俺を見て挨拶してくれた。お久しぶりですと言っても2日前に王宮で会っているぞ。
「マチアス、ようこそ。その隣の子は誰?」
「エド兄様、彼は僕の友人のケントです。デボン伯爵家の三男坊なんです。できたらこいつも生徒会に入れたいと思いまして。」
トレーシーは「いいんじゃない?話をしても悪い子じゃないと思うわ。」という。
ということでランディには会計見習い、マチアスには書記見習い、ケントには庶務をやってもらうことになった。
「男の子が増えちゃったから女の子でいい子がいたら入ってもらいたいわね。」
トレーシーが言う。
マチアスはまだ婚約者もいないので女の子には免疫がなさそうである。
「ぜ、善処します。」という声は少し上擦っているようでもあった。
2年生になると始まるのは去年も参加した王都巡回である。A組は去年も参加したので不参加が許されたが、俺たちはリベンジマッチということでいつものメンバーで参加して全力で遺物回収に励んだ結果、獲得数で学年一位の栄誉を得ることができた。
トレーシーも「王者としての威厳を守れたわ。一位を取れなかったら兄上に何を言われたかわからなかったし。」と安堵している様子だった。
その後、学園の裏山にある小さなダンジョンを利用した地下迷宮実習を経て無事に冒険者ギルドに登録される運びとなった。
まあ、ダンジョン実習の時には俺はバーナード先生に「お前は運営側だ。わかるよな。手出しはするな。」と言われたので剣を抜くことすら止められていたのである。
トレーシーもドゥーリットル先生に魔法は使わないでと言われたらしい。
アリシアは「私は誰かが怪我したら回復してあげるね。」と笑っている。
フレッドは「うへえ、それじゃ、パーティの中で攻撃するのは僕だけですか?」と嘆いている。
もっともこの演習で出てくるのは騎士団が捕獲して調整して出してくる弱いモンスターだけである。フレッドもゴブリンくらいは楽々倒せる腕前である。
「僕ばかりひどいですよね。」という哀れな声とは裏腹に彼もしっかりとモンスターを倒していて、俺たちが助ける必要もなく無事にダンジョン試練を突破したわけである。
2年生のクラスは王都の冒険者ギルドで登録することになっている。冒険者ギルドに行ってトレーシーとフレッドも無事に登録することができた。
トレーシーは「この前このギルドに来た時は王女様と言われるばかりで登録したかったのに綺麗にスルーされたんだよね」と言いながら登録票を嬉しそうに眺めている。
今日登録した学生たちはF級である。ちなみに俺は既に名誉ギルド長になっているのでS級扱いになる。アリシアはC級である。
「じゃあ、パーティはこの4人で組みますか。」と俺がいうと、いつのまにかアランが横に来ていて、「あの、僕もこのパーティに混ぜてくれませんか。」という。
「私は別に構わないけれど」とみんなを見回すと「構わないんじゃない?」「僕も歓迎だよ。」「ちゃんと回復してあげるからね。」と反対意見は出なかったので俺たちは5人のパーティで始めることになった。
♢♢♢
2年生からは授業は午前だけのことが多く、午後からは自由研究やダンジョン探索に行くことができる。
但し、最初のF級の学生は初級ダンジョンにしか潜れない。
(そういえば俺がF級の頃は薬草採集ばかりやっていたものなあ)
もちろん、薬草採集という手もあるけれど、フレッドやアランは騎士科なのでモンスターを倒したいだろうから納得しなさそうである。
学園のすぐそばにある初級ダンジョンは最初に挑戦するダンジョンとして学生たちに人気である。フレッドはそこに行きたがっている。アランも控えめながら「最初はみんなと同じダンジョンを経験する方がいいんじゃないかな。」なんて言っている。
「私たちもいるんだし、わざわざ同級生で混み合っているダンジョンに潜らなくても、もっと違うところに行く方がいいんじゃない?」と俺がいうけれどフレッドもアランもガンとして聞き入れない。
「ここのダンジョンは初心者向けだからちゃんとマップが完備しているのです。ほら、これを持ってゆけば完璧です。」
フレッドは自慢そうに過去の先輩が作ったらしいその初級ダンジョンの地図を見せた。
そうだよなあ、俺だってトゥラニアの街道の地図を作るのは大変だった。
アリシアが「そんなにフレッドが言うならばとりあえずはどんなものか知るために行ってみてもいいんじゃない?」というのでまずはみんなでそのダンジョンに挑戦することになった。
当日は俺はいつもの格好だが、フレッドはガチガチに鎖帷子を着込んできている。アランは革鎧だ。アリシアは「あーフレッド、私と同じだね。」という。アリシアも鎖帷子を着込んできていた。
トレーシーが「さてはフレッドとアリシアってばペアルック?」と言い出したがアリシアはあっさりと否定した。
「違うよ、私のはミスリルの鎖帷子だから軽いんだよ。」
フレッドは「王女殿下ぁ〜、私にも婚約者がいることはご存知でしょう。勝手に浮気者にしないでください。」と情けなさそうに言っている。
学園から数分歩くだけで初級ダンジョンの入り口に到達したが、そこは既にダンジョン攻略を目指す2年生たちで渋滞していた。
「あっ、そりゃそうよね。みんな集まるものね。」
フレッドは列の後ろに並ばされることになってバツの悪そうな顔をしている。
入り口には冒険者ギルドの職員がいてダンジョンに入る者にギルドの登録票があるかをきちんとチェックしている。
フレッドは「王女殿下のパーティなのだから早めに入らせるのが当然じゃないか」と職員に交渉しようとしたが、職員さんは「はい、王女殿下といえどもきちんと順番は守ってもらいますからね。ウィル王太子殿下も順番を守って入られたのです。」と誇らしげに言った訳である。
俺は「まあ、順番は来るんだからゆっくり待てばいいよ。」とフレッドを慰めるように言った。トレーシーも「我々王族は国民の模範となるべきですから横暴なことはいけませんね。」と言う。
何組かのパーティがダンジョンに入った後、俺たちの順番が来てダンジョンに入ることになった。地下一階は既に先に入った多くのパーティだらけである。当然であるが魔獣は狩尽くされていて、それぞれのパーティは時間が経ってダンジョン内に再配置されて新しく現れる魔獣を狙うために待っているという状態だった。
「これはさすがに混み合いすぎだから先に進んだ方が良さそうだね。」
俺たちは早々に地下二階に進むことにした。地下二階に進むパーティはまだあまりいないみたいで、地下一階に比べてスムーズに進める。出てくるのはゴブリンくらいなのでフレッドとアランが先導して戦い、時々トレーシーが援護して炎の矢を打つくらいでサクサク前に進んでいけた。
ここからはフロアボスがいる。といっても2体のゴブリンメイジなのでやはり俺の出番はない。アランとフレッドがトレーシーの魔法の援護を受けて早々に全滅させてしまった。
そのため、あっという間に地下三階である。
ここは墓場が模されていて骸骨人間やゾンビなどが出てくる。
アリシアが目をキラキラさせて「ターニングアンデッドしていい?ディスペルアンデッドでもいいよ。」と言うが、まずはフレッドやアランの鍛錬が優先である。
骸骨男についてはアリシアがメイスの攻撃で戦うことを許した。剣だと骨の隙間があるから骸骨男にはなかなか当たらないからね。
アリシアはアンデッドたちをメイスで叩き潰しながら前にどんどん進んでいってしまう。
「おーいアリシア、少しはフレッドとアランの分も残してやれ。」
そういうが、アリシアはどんどん進んでいってしまった。あっという間にボスフロアまで来てしまったが、ボスとして出てきたのは食屍鬼である。
グールは麻痺を起こす攻撃があるので厄介である。
「アリシア先生、ディスペルアンデッドをどうぞ。」
「きゃあ、やっとディスペルアンデッドが使えるわ!いと高き女神よ、その偉大なる力で不浄のアンデッドたちを祓いたまえ!ディスペルアンデッド!」
ところがフロアボスの特殊性なのかディスペルできなかった。グールたちは天の方を向いて蒸発するのを待っているのに消えないのである。
「よし。」
フレッドとアランは天を向いてじっとして消滅を待っているグールたちを剣で屠って行った。多分あのグールたちは昇天したのだと思う。
はい次は地下四階だよ。
「えっ、この地図には地下四階にはおよそ一月かかって到達できるって書いているのですが。」
フレッドは目を白黒している。
「はいはいどんどん行くよ。多分少し強くなっているから気をつけて。」
俺は気軽にそんなことを言った。
フレッドとアランは剣を握りしめて慎重に進んだ。
猛犬の群れやオークソルジャーなどの強目なモンスターにはフレッドもアランも苦戦することがある。そういう時にはトレーシーの炎の矢や火の玉が炸裂する。
20匹以上の猛犬の群れとの戦闘の時には時には俺とアリシアが囲まれてしまったフレッドを救出することもあった。
この階層ではボスフロアの前にセーフティゾーンがあったので一旦休憩することになった。
フレッドは鎖帷子を着ていたが、オークソルジャーの打撃によって打ち身ができていたり猛犬の噛みつき傷もあちこちにあった。アランも似たようなものである。
アリシアは「じゃあ回復呪文をかけるね。」と二人に回復呪文をかけた。
みるみるうちに彼らの打ち身の鮮やか噛みつき傷は消えて行った。
トレーシーはそろそろ栄養補給のために少し食事をしましょうというのであらかじめ持ってきた軽食をここで食べることにしたのである。
「ここのボスフロアを突破したらもう五階が最下層ですね。もしかして今日一日でこの初級ダンジョンを突破しますか?」とアランがいう。
「もちろんそのつもりだよ。」
俺は言った。
地下四階のフロアボスは小ヒュドラである。普通のヒュドラよりは小さいらしいけれど強敵である。今回は俺が先頭になってフロアボスの部屋に入ることにした。
部屋の中に入ると頭が5本の蛇に分かれたヒュドラがいた。
俺はすぐさまその頭を三本切り捨てた。ところが、そのうち一本はいきなり再生を始めて新しく一本の蛇の頭が生えてきた。その頭が俺を激しく突き飛ばしたので俺は後ろの壁にぶつかった。
その時壁の反響が少し妙だった。くぐもって反射して聞こえたのである。(あれ?ここに何か空洞でもあるのかな?)
みているうちに残りの二本も蛇の頭が復活してきた。
「トレーシー、私が蛇の頭を切ったら再生する前にその蛇の頭の切り口に火の魔法を打ち込める?」
「ええ、大丈夫よ。」
トレーシーの側に炎の矢の燃える矢が浮かび上がってきた。俺は慎重に二本のヒュドラの頭を切り落とした。
すかさずトレーシーが炎の矢をヒュドラの頭を切り落とした切り口に打ってその傷口を焼けこげにした。焼けこげた切り口からは新しい首は再生できないようである。ヒュドラは暴れ回って周囲に毒液を撒き散らした。
俺は同じようにして二本の首を切り、トレーサーに焼いてもらった。そうして残りの一本も切り落として焼いたあとはのたうち回るヒュドラの胴体を縦に切ったのである。
縦に切ったヒュドラの体内からは魔石の他に剣が一本出てきた。その剣は刀身が鈍く光っており魔法の剣だと思われた。
アリシアが毒液にかかったアランやフレッドを治療している間、俺は壁の空洞について調べた。やはり一部分に空洞を思わせる響きの変化がある。壁をトントンと叩くと一部分でその反響に違いがある。
フレッドは「地図にはそんなところに何かあるとは書かれていませんよ。」という。
俺は「そうだな」と言いつつ空洞の部分を剣の柄で強く叩いた。
そうすると壁が割れてぽっかりと空洞が現れて中から何か光の玉のようなものかわふわふわと浮かび出てきた。
「なんだこりゃ」
俺はちょっと驚いたけれど、それをつまみ上げてみた。
「お前はなんだ?」
「わ、私は龍の顔だよ。」
心の中に声が響いてきた。
「なんていう龍なの?」
「私はミズチ。でも顔だけだから力はないんだ。」
「えっ?ミズチ?君ってアスカロンの龍の精なの?」
「うーんそうとも言えるかな。でも体がバラバラにされちゃったから竜の精としての力はないんだ。」
アスカロンを抜いてホムラに確認してみると、ホムラは確かにこれはミズチの一部だという。
ミズチによると、彼は古代に魔王にその体を分断されてあちこちにその破片を隠されてしまったという。
「僕の力は魔族や魔王にとって致命的だからね。彼らは僕を滅ぼすことができなかったので体をバラバラにしてあちこちに隠したんだ。」
「そうなんだ。君の体を集めれば魔王や魔族を滅ぼせるということ?」
「まあ、そういうこともあるかな。」
ホムラは「我の場所が少し窮屈になるではないか。」と言っていたが、ミズチの一部を剣に収納することには同意してくれた。
ミズチが剣の中に入ったことはわかったが、顔だけである。剣の力に大きな変動は感じられなかった。
ミズチの声が聞こえるのは俺だけなので周りの人たちは俺が何か気分が悪くなったのではないかと声をかけてくれた。
「ああ、たいしたことはないよ。うん、このダンジョンに来て良かったみたい。」
俺がそういうとみんなよくわかっていないけれど、「それは良かった」と口々に言ってくれたのである。
さて、ついに地下五階、最深部までやってきた。
この階層では食人鬼や毒ガエルの猛攻が待っていた。
俺も加勢して片っ端から魔獣を切り伏せてゆく。トレーシーも魔法で加勢してくれる。アリシアは治癒魔法をかけてくれるので、みんな倒れることなく最後の部屋まで辿り着いた。
ボスフロアの扉を開けると大きな丸い段の上に宝箱があり、その四隅を石像が守っている感じである。
その時、石像がじろっとこちらを睨みつけた気がした。
ゆっくりと四体の恐ろしい顔をした石像が立ち上がり、後ろの羽でパタパタと飛び始めた。俺はアスカロンを構えて突進してゆく。アランとフレッドはそれぞれその石像を攻撃したが、跳ね返されてしまった。
おそらく魔法の剣じゃないと歯が立たないのかもしれない。
アリシアがフレッドとアランの二人を招き寄せた。
アランとフレッドは祝福の魔法をアリシアにかけてもらった。剣も含めて二人の体は祝福により淡く輝いている。彼らが石像を再び攻撃すると彼らの剣は石像をバターのように切り裂いた。
それでも痛みを感じないように襲いかかる石像に一進一退の攻防を続けたアランとフレッドはついに石像を打ち倒すことに成功したのである。
倒された石像は砕けて砂粒になってしまった。
俺は石像の攻撃は見切っていたので全てかわしていたが、アランとフレッドは石像に負わされた負傷をアリシアに治癒してもらっていた。
治療が終わると俺たちは部屋の中央にある宝箱にみんなで近づいたのである。
「じゃあ、やりますね。」と言ってフレッドは剣の先で宝箱の鍵をぶっ壊して蓋を跳ね上げた。
彼の「地図」には「最後の宝箱は罠はないが鍵が掛かっている。」と書いてあったためだ。
「おお」みんなが声を上げた。
やっぱり宝箱を開けるのは楽しい。宝箱の中身をとりあえずマジックバックに突っ込んだ。
見ると「出口」と書かれた魔法陣が光り始めている。
「宝箱の中身はとにかく保管したので出口に向かいましょう。」
俺はみんなを促すと魔法陣の中に入った。
全員が魔法陣に入ると魔法陣が発動し、ふと気がつくとこの初級ダンジョンの入り口のそばに立っていたのである。
もう日は傾いており、ダンジョンから出てくるパーティも多い中、いきなり現れた俺たちはちょっと注目を集めてしまった。
「ドラゴンスレイヤーがいるわけだし、さすがというべきか当然というべきかどちらなんだろう。」と他のパーティが訝しむ中、俺たちはさっさと冒険者ギルドに向かった。
「高レベル冒険者がいるとはいえ速かったですね。」と受付の人も言ってくれた。倒したモンスターの魔石や素材を鑑定してもらった。
受付の人によると、今回の評価でF級の人はE級に上がるらしい。
「えらく早いね。」
俺がそう受付の人に言ったら受付の人は「普通はひと月以上かけてクリアするダンジョンをたった半日でクリアしているのです。当然ですね。」と冷静に返されてしまった。
新しいE級のギルド証は翌日に出来上がるらしい。
俺は言った。
「じゃあ戦利品の分配をしようか。」
ダンジョン探索編
二年生になったエドたちはダンジョン探索を始めます。




