第十三章: 街道の整備とバジリスク
オルジさんはここから見張り台までの道を広げるために街道周辺の木々を切り倒すことを提案した。街道がしっかりとできれば交通を増やすことができる。将来村を作って村人を招く時にも便利である。
道幅は6mを基準にしようという。
それは広すぎるという意見もあったが、この街道は幹線道路になるのだから将来を見越して広くてもいいというのがオルジさんの意見だった。
手間を考えれば最初は小さく作って段々広げてゆこうというのがゲイリーの意見だったが、多分、オルジはここの木を早く市場に持ってゆきたいことは分かったので広い道を優先することにした。
ということで俺とオルジさんとその手下は小屋の中で寝ることになった。ゲイリーはみんなと外で寝るといって聞かなかったので外で寝ることになった。
俺が外で寝るといった時にはゲイリーは「若様は中で寝てください。」って強硬に主張したくせに、である。
翌日からは小屋から麓に向けて6mの道を作ることになった。まず、太い木を二本切って6mの幅に平行に並べる。そして、でこぼこがあると周りから土を入れたりしてならすのである。
木こり部隊の中には斧の扱いに開眼したものが出て来たようである。時々現れるホーンラビットを木を切り倒しながら斧で一刀両断することができるようになった。
ゲイリーはなかなか強者に育って来ましたなあと満足げである。
オルジさんはまだまだ切り株を引き抜くことはできないので地面を平らにならすことはいい加減でよくて、とにかく木を切ってその両側に枠を置くことが大事だという。
王都の騎士団員の中でもサムとマイクとアンドリューはガンガン木を切り倒しまくっている。レットとキアリはもう3人にはついて行けないので少し腐っているが、それでも木材を運ぶのも嫌なようで、木を切る仕事はなんとか続けている。
切った木はオルジさんたちがその寸法を図り、大工さんが長さを整えて、トゥラニア騎士団のものが街道の端に据え付けたりひと所に集めたりした。
俺は地図をもとに街道の方向を決めて丸太を置く位置を支持していた。
木を切る係りの人たちは最初は魔獣が出るとトゥラニア騎士団を呼んでいたのだけれど、段々面倒になってもう自分たちの斧で片付けるようになって来た。
トゥラニア騎士団の団員は斧部隊が倒したホーンラビットや鹿、小さなボアなどの死骸を集めて肉を取る作業の方が増えて来たのである。
初日はフライ山の麓まで道を作ることができた。けれども、平地に入ると中々進まない。街道の端に置くべき木材が足りないので王都騎士団だけでなくトゥラニア騎士団も木を切り倒す作業に加わって、街道の周辺の木をもっと広く切る必要が出て来たのである。
そんなある日、王都騎士団のマイクが俺に変な魔獣がいると報告に来た。どうやら木を広範囲に切り倒していると湿地を見つけたらしい。そこに変なトカゲの親玉みたいなのがいるということである。
俺は湿地にいる変な魔獣を見た。八本足のトカゲみたいで凶悪な目つきをしている。
「ヤバ過ぎる。」
慌てて手の動きで撤退を命令した。
バジリスクである。
バジリスクはトカゲににている魔獣だがそもそも足が八本あるという凶悪さである。その目は睨みつけたものを石化させるという謎の怪光線を発射する。みんなを撤退させたのはそのためである。団員が石にされてしまっては大ごとである。
俺はアスカロンを抜いた。
今の所バジリスクは俺の方に気がついた様子は見せていないが、あの手の魔獣の怪光線は鏡に反射させれば効果は無くなるのがお決まりである。鏡の盾などがあればいいのだけれど、残念ながらそんなものはない。そのため剣に反射した魔獣の姿を頼りに魔獣退治をしようということになる。
剣に映ったバジリスクの姿を確認しているとホムラが何をしているのかと聞いてきた。
バジリスクの石化の呪いを避けるためにやっているというとか弱い人間はご苦労なことだという。
じゃあ俺が目を閉じるから誘導してくれというと我はそんな面倒なことはしないと引っ込んでしまった。
あまり役に立たない奴だ。
バジリスクは八本足なので沼でも沈みにくい。逆にいうと俺が思慮もなく沼に突っ込んだら底なし沼に沈みかねない。
こちらからはバジリスクに向かう道はなさそうなので、結局、大回りして沼の淵を回って向こう側に回ってゆく。
剣に反射させることで視認すると視野が狭くなるのは避けられない。
沼のこちら側に来ると周囲にオオカミの形に見える石やツノの生えた石が結構転がっている。恐らく、この辺りまで石化の怪光線の効果があるということだろう。
いきなりバジリスクがうおおと吠え始めた。思わずそちらを見そうになるが、石になってはたまらない。剣の方に集中して直接バジリスクを見ないようにする。剣に反射した姿を見る限りバジリスクはこちらを向いて何やら睨みつけているようである。石化の光線が発射されているかどうかはわからない。敢えてこの身で確認したくもない。
沼を歩けるのかわからないので俺は沼の側で立っていたのである。そうすると、バジリスクは俺が石に変わらないことを訝しんだのかもしれない。少しづつこちらに近づいてきた。
剣に反射した姿を見ていたせいで距離感がおかしくなってしまっていたのかもしれない。急に獣の息遣いが感じられたと思うとバジリスクが噛み付いてきた。俺は危うく飛び下がったが、後一瞬遅れていたら腕の一本くらい持って行かれていたかもしれない。
けれどもバジリスクが陸に上がってきたのはチャンスである。
ホムラは無心でやれとか言ってくるけれど、もっと何かできないのだろうか。
剣に映るバジリスクの姿から大体の位置を想定して目を閉じて感を振るう。幸いザクっとした手応えがあってバジリスクの体に当たったらしい。切ったらすぐに俺は後ろに飛び退いた。噛み付かれるのは嫌である。
剣で反射してバジリスクの姿を確認してみるとどうやら肩口を少し切り裂けたらしい。バジリスクは痛みのためか大暴れしている。
と、バジリスクは猛然と俺に八本の足を総動員して俺に突進してくるようである。俺は剣をセットしてタイミングを測った。
八本足の地響きと獣の息遣いを感じながら目を閉じたまま剣を突き出した。
ゴリっと骨を切り裂いた感じを受けて俺はやはり後ろに飛び下がった。バジリスクの血は浴びると毒である。剣は血に染まっていてもう反射で映してはくれない。
俺は泉の源泉のところに行って剣を洗うことにした。骨を切った感触あったが、さすがアスカロンである。刃こぼれはないようだ。
そのまま泉から流れる清水に剣を浸して血糊を洗い落とした後、改めて剣にバジリスクを映してみると、首を半分ちぎられたような姿で大量の血を流したバジリスクはもはやぴくりとも動いていなかった。
俺はきっちりとバジリスクの首と胴体を切り離した後、大きな布を持って来させてバジリスクの首をその大きな布で包んだ。まだ石化の怪光線を出さないとも限らないじゃないか。
ホムラは骨を切ったくらいでは刃こぼれしないアスカロンの凄さを自慢している。
「でもホムラは今回何もしなかったよね。」
「いや応援はしたぞ。」
「はあっ」
俺は盛大なため息を吐いた。
オルジさんは俺のところにやってきて「こんな恐ろしい魔獣がすぐ近くにいたなんて。」と震えていた。
「まあ、私が退治したけれど。」
「それは若様が規格外なだけです。我々凡人が相対していれば半分以上が石にされていたでしょう。」
沼地を調べてもらうと深さは深くはなかった。あのまま飛び込んでもくるぶしくらいまで浸かるだけで済んだらしい。
「誘き出すだけ大変だったな。そのまま有無を言わせずに切り伏せても良かったのか。」
「そんなことを言えるのが若様らしいですな。」とゲイリーは笑った。
どうやら泉の水は毒は入っておらず飲むことができるものだった。将来的には街道を往来する馬車の水飲み場として使えるのではないかということになり、泉の横には太い杭を立ててスペンサー家の所有であることを明示することになった。
地図上ではバジリスクの泉はフライ山と見張り台の真ん中くらいの場所だった。その日はそこで作業を中断してフライ山の小屋の方に帰った。街道がしっかりできてきたので迷うことがなくなり、結構素早く行き来ができるようになった。
オルジさんによるとあれだけ木を切ったら太陽の光が入るようになったので下草は太陽の光に弱いので刈らなくても自然に枯れてゆくのではないかということだった。あとは人夫を入れて木の切り株を処理したいみたいだったが、あのバジリスクみたいなのがまた出てくると人夫では対応できないことを心配していた。
ゲイリーは俺が学校に行かなければならないから早くここを切り上げて王都に帰りたいということを言った。小屋には交代でトゥラニア騎士団員を常駐させて開発をもっと進めたいということだった。
そうか、学校か。
この国では王立学園が始まるのは9月である。
そこから3年間学校に通って卒業すると一人前扱いされるようになる。
ヘンリーさんは入学の準備はこちらでやっておくからギリギリまで旧領にいて構わないと言ってくれていた。けれども、もう夏なのであまりのんびりしてはいられないのである。
オルジさんはとにかく見張り台までは道を作り上げたいみたいである。見張り台からナッシュビルの村まではいずれにせよ王都騎士団、ウォーレン伯の管轄ということになる。
学校に行くとなるとテレジア王女も来るわけである。それまでに何か実績を残しておかないと国王陛下が嫌味を言い出しかねない。常駐できる小屋を立ててナッシュビルから小屋までの街道を再建したと言えば当面の実績にはなるだろう。
まだまだ村を作るのは先だが、オルジに木材を売らせてそこで収入ができればトゥラニア騎士団を再び独立させることもできるはずだ。
街道が維持できれば村人を呼び寄せることもできるに違いない。そうすれば失地回復のステップを登っていけるはず。まあまだ取らぬ狸の皮算用だなあ。
もっともオジムは既に街道のナッシュビル側半分はウォーレン伯に警護を頼み、その先はトゥラニア騎士団に警護を頼むというプランを立てているようだった。
「あのバジリスクの泉はいい目印になりましたね。あそこまでをウォーレン伯にお願いしてそこから先をゲイリー騎士団長にお願いすればうまくいきそうです。」
「ガハハ、俺は騎士団長なんて柄じゃねえが、団員を4人ずつ二週間交代であの小屋に詰めさせたら負担も少ないだろうと思う。」
「我々商人キャラバンが食料などを持っていくならば孤立化はしないでしょうからね。」
「俺も長期の休みにはここに帰ってきて開発を手伝うよ。」
そう俺がいうとゲイリーは「若様もここに帰ってくる。こここそが我らの故郷なのです。」と感動したようにつぶやいている。
オジムさんは「次の目標はフライ山に山砦を作ることです。資材は運んでおきますので来年の今頃には作り上げられるようにしたいですね。若様の夏休みは山砦で楽しんでいただきたいものです。」と言う。
そうなのである。村を作っても魔獣に襲われては困る。その防衛のための拠点が必要である。山砦ができたらトゥラニア騎士団も全員がこちらに常駐できるようになるはずである。
「サムやマイクのように鍛えればトゥラニア騎士団の水準に達するものが生まれることがわかったのも今回の遠征の成果ですね。」とトーマスが言う。
結局、あの王都騎士団の5人は全員が斧技術に開眼したのである。斧を使って少々の魔獣なら狩ることができるようになった。マリウス騎士団長もきっと喜んでくださるに違いない。
その後もオークやオーガの群れに遭遇することはあったのだが、鍛え上げられた「斧部隊」やトゥラニア騎士団の力で十分に撃退することができ、数日のうちに街道は見張り台まで到達したのである。
見張り台の小隊長はドワイトさんだった。
俺たちはドワイトさんとの再会を祝した。
ドワイトさんは「本当に街道を再現するとは信じられないよ。失地回復とか言っていたのは嘘じゃなかったんだな。」と感心していた。
オルジさんは「ええ。当面はこの森の木を切って王都に運びたいと思いますのでご支援の程よろしくお願いします。」と言う。
ドワイトさんは「でもなあ。俺たちじゃ魔獣退治には力不足だぜ。」と頭をかきながら言う。
そこで俺たちは「斧部隊」を紹介した。
「あ、お前らサミュエルやマイケルじゃないか。王都にいたんじゃないのか。でもなんだか逞しくなっていないか?」
サムやマイクはニカッと笑って親指を上に立てると、ドワイトさん達に外に出るように言い、周囲の木を切りながらブラックウルフやホーンラビットなどを見つけるとガンガン斧で仕留めはじたのだった。
ドワイトさんは信じられないという目で彼らを見ながら「す、凄い。何ヶ月か前に王都で会った時には普通の騎士団員だったのに。」と唸るように言った。
「マリウス騎士団長に言われて連れてきたんですよ。ここで鍛えたらこんなに強くなったんです。」
ドワイトさんは「これはウォーレン伯に報告しなければ」と言って俺たちについてナッシュビルの村に行くと言い出した。
ナッシュビルの村に着くとウォーレン伯は俺たちの帰還を歓迎してくれた。一通りの挨拶が済むとドワイトさんは「ウォーレン伯、こいつら、凄いんです!元は王都騎士団の普通の団員だったのですが。いつの間にか鍛えられて魔獣を簡単に仕留めるくらいになっていました!」
ウォーレン伯は突然ドワイトさんの話を聞いて、何のことかわからないようで目を白黒している。
俺は「ああ、マリウス騎士団長に鍛えてくれと何人かの団員を預けられたのです。彼らは期待に応えてくれました。伯爵にご披露できるよな。」と言った。
もう斧を自分の体の一部のように使いこなせる連中である。館の大広間に立ったサムやマイクは自信たっぷりに笑みを浮かべた。
「うん、よく鍛えられた連中だ。」とウォーレン伯はつぶやく。
目配せしあってタイミングを測った彼らはいきなり斧を振り回したり宙に投げ上げたり目まぐるしく斧の妙技を見せた。
ウォーレン伯はもう声も出ないくらい驚いていた。
ドワイトさんは「ここには魔獣はいませんが、あいつらホーンら罰だと言わずブラックウルフと言わず、木を切りながら退治してゆくんですよ。」と言う。
すかさずゲイリーさんが「わしらトゥラニア騎士団に任せてもらえればやる気のあるやつならいくらでも鍛えてご覧に入れますよ。」と売り込んだ。
ウォーレン伯は思わず「むむむ」と唸り、「欲しい」と呟いた。
ゲイリーは「今後、フライ山の開拓小屋に我が騎士団員を常駐させる予定です。このナッシュビル村には何人かのバックアップ要員を置きますのでその宿泊費用と訓練費用をいただけましたら喜んで訓練しますよ。」と言う。
ドワイトさんは目をキラキラさせながら「伯爵、どうせこの村の宿屋は使われていないのですからそこを借り上げれば良いではないですか。」と伯爵に言う。
オルジさんは「ところで、今後、この森から木材を王都に運ぶ予定なのですが、その警護料として通行料を支払うことになると思います。つきましてはその額の相談を。」と話しかけた。
通行料と聞いてウォーレン伯の目は$マークになった。
「う、うむ、しっかり介護するには騎士団員の訓練も必要かもしれんな。」
ウォーレン伯はそう言い残してオルジさんと奥の部屋に行ってしまった。
どうやらオルジさんとウォーレン伯の話し合いはうまく行ったようである。
ゲイリーさん達は騎士団員の訓練をする代わりにナッシュビルでの滞在を認められた。
オルジさんは「お金を回すことが経済の発展につながるのです。」とすまし顔で言った。
ナッシュビルの村で開拓小屋に行く団員達とナッシュビルに残るゲイリーさん達と別れの挨拶をして俺は王都に戻ることになった。
オルジさんも一度王都に戻り、街道を整備したり木を切ったりする人夫を連れて戻ってくるらしい。
「それでやはり護衛は冒険者ギルドの冒険者達に頼もうと思っているのですよ。」そうオルジさんは言った。
冒険者か。あのままアリシアとパーティを組めていたら俺も冒険者として2人で冒険していたかもしれなかったのである。
アリシアももう聖女になってしまったし、道が分かれてしまったよなあ。もう二度と会うこともないのかもしれない。そう思うとちょっと感傷的になりながら王都への馬車から外を見ていたのである。




