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第十二章: 王都騎士団と再度の旧領探索

マリウスさんに頼まれたこともあり、ゲイリーさんに日程の調整をお願いしていた。ゲイリーさんからは一週間後に指南の日程はどうかという返事があった。それで、俺とランディは騎士団に特別武術指南役として教えにゆくことになった。

ランディは「僕は教えられる方ですからね。」と爽やかに笑っていた。

俺とランディはヘンリーさんの馬車で騎士団に向かった。

騎士団にはマリウスさんとアランも来ていた。マリウスさんは「今日はよろしく頼むよ。」と俺に挨拶してくれた。

ランディをアランに預けて俺は騎士団員の方に向かった。

騎士団ではゲイリーさんをはじめとするトゥラニア騎士団の団員からは熱狂的に迎えられたが、王都騎士団の団員たちはむしろ険悪な感じだった。

ゲイリーさんに事情を聞くと、ゲイリーさんにコテンパンにされた団員達は俺のような小僧を返り討ちにして鬱憤を晴らしたいらしい。

そう言ってゲイリーさんは皮肉そうに笑っていた。

俺は参加する騎士団員全員を集めて言った。

「皆さんの中で私に挑戦したい人は誰ですか?まずは一人一人いきましょう。」

そうするといの一番に出てきた男がいた。

「俺はレイモンドだ。第一騎士団筆頭だ。まずは俺が挑戦する!」

「どうぞ」

そうして試合場に行き、木剣を手に取った。

レイモンドはブチ切れて「きっ騎士たるもの真剣を手放してなるものか!」と騒いでいる。

「ああ、そちらは真剣で構いませんよ。」

「こっこのガキめ!」

ゲイリー以下のトゥラニア騎士団員は笑っているが、王都騎士団の面々はもう顔面蒼白である。

立ち会っているマリウスさんは「エドワード君も真剣でいいのではないか。」ととりなすように言うが俺は「当たらなかったら木剣であろうと真剣であろうと変わりませんからどちらでもいいですよ。」と言う。

レイモンドさんは顔面に青筋を立てて「は、早く試合しろ!逃げるなよ!」って凄んでいる。

「じゃあ試合、しましょうか。」と俺が言うとレイモンドさんは「早く審判を呼べ!試合するぞ!」と怒鳴っている。

マリウスさんも仕方なく審判を呼び、試合を開始することになった。

初めの合図とともにレイモンドさんは撃ち込んでくる。太刀筋は悪くないのだが、やはり斬撃のスピードは遅い。俺でなくても難なくかわせるのではないか。

彼の自慢の斬撃が当たらないということで、レイモンドはめちゃくちゃに撃ち込んできた。

けれども俺は紙一重の間合いで全て避けた。

今度は俺の番だと言うことで、俺はレイモンドの打ち込んでくる剣の腹に右左から計3回撃ち込んでやった。3回目の打撃で彼は剣を取り落としてしまった。レイモンドは彼の体ではなくて剣だけを攻撃されてしかもその攻撃で剣を取り落としたことで呆然としている。

俺が「まだやりますか?」と聞いたけれどレイモンドは反応すらできていなかった。

マリウス騎士団長がパチパチと手を叩きながら出てきて「レイモンド、もういいでしょう。剣を拾って引きなさい。」と言うと項垂れたレイモンドは静かに剣を拾って引き下がっていった。

俺は言った。「じゃあ今度は10人対1人でやりましょうか。」

けれども王都騎士団員の方は誰も手を上げようとはしない。

「大丈夫だよ。私は木剣しか使わないし剣にしか打ち込まないよ。」

どうやらゲイリーさんが我慢できなくなったようで「ああ、せっかく若様が相手してくださると言うのに何意気地のないことをしているんだ。そんなら俺様が選んでやる!」と言い、勝手に相手役を選び始めた。

ゲイリーさんに指名されてそれでも逃げるのいうのは流石に憚られたようで、当てられた人は気が進まない様子をありありと見せて立ち上がった。

ゲイリーさんは「よしよし、立ち上がっただけ見込みがある」と笑っている。

「皆さんが私に一太刀でも入れられたら皆さんの勝ちですからね。私は皆さんの獲物を撃ちますから皆さんが全員獲物を手放したら皆さんの負けということになります。」

彼らは試合場に入った。多くは木剣を持っているが何人かは真剣や槍を持っている。

審判が始めの合図をするとみんなはヤケクソのようにこちらに撃ち込んできた。やはりスピードが緩いので難なくかわすことができる。

そうして数人の武器をこちらの木剣を打ち込むことで取り落とさせた。と、俺の背後から隙ありとみたのか槍が突き出された。

俺は体を沈めて槍の攻撃を交わした。剣の間合いより槍の方が長い間合いを持っている。槍を掴んでグッと間合いを詰めて槍の手元を木剣で強打するとさすがに槍を持っていられなくなって彼は槍を取り落としてしまった。

残った団員達も次々と武器を撃ち落とされていったが、1人の団員はわざと自分から武器を捨て、俺を羽交締めにしようとした。無論、そういう動きを読んでいた俺はスルッと彼の羽交い締めから抜け出したわけである。

「うん、武器に頼らずに体術で羽交締めにして敵の動きを封じるのはいい工夫だと思う。」

俺は評価してこう解説した。

そうしながらも着々と武器を撃ち落として全員を敗退させてしまった。

もう王都騎士団員は諦めの表情である。

マリウス騎士団長は「いかがでしたでしょうか。」と聞いてきた。

「ええ、太刀筋は悪くないのです。けれどもスピードが緩いので。動かない野菜を切るならば問題ないでしょうが魔獣は逃げてしまうでしょう。」

と俺が答えると、マリウスさんは「ではどうすればいいですかねえ。」とさらに聞いてくる。

「そうですね。素振りをもっとやって斬撃の速さを鋭くしましょう。最低千回の素振りが必要ですね。」

俺が素振りを始めた。

ゲイリーさんが「皆、若様に続いて素振りせよ!」と怒鳴る。

皆が広がって素振りを始めた。

「じゃあ、2倍速で!」

俺は一回の打ち込みで2回打ち込み始めた。トゥラニア騎士団員は何事もないかのように2倍速でついてくるが、王都騎士団の団員で2倍速についてこられた人は1割もいない。

「じゃあ4倍速で!」

トゥラニア騎士団は大体ついてきていたが、王都騎士団の面々は皆腕を止めてしまった。

俺は8倍速をやろうかと思ったが、うちの連中しかやっていないのなら無意味だということで素振りは中止した。

ゲイリーさんは「我がトゥラニア騎士団に入るためにはこの4倍速が基本だからな。」と大笑いしていた。

マリウスさんが来て「エドワード様、やはり身体強化魔法でしょうか。」と聞いてきた。

「そうですね。この後8倍速、16倍速と進めてゆくためにはやはり身体強化魔法が必要ですが、4倍速までは時々根性で達成する猛者がいないことはありませんね。」

「は、8倍速、16倍速ですか。想像を絶する世界ですね。」

マリウスさんの顔はちょっと引き攣っていた。

その時「皆様お疲れでしょう。お飲み物をお持ちしましたわ。」という声が聞こえた。

見ると、テレジア姫と侍女たちが飲み物を持って来ていた。侍女たちは冷たい果実水を次々と団員に配っている。

俺のところにはテレジア姫が手ずからグラスを持って来てくれた。

「エド様、お疲れでしょう。お怪我はありませんでしたか?」

「心配してくれてありがとう。この通り元気です。」

「よかった。」

テレジア姫は俺の左腕につかまるようにして体を寄せて来た。いつもながらこうされた時にどう対応すれば良いのかわからないのでじっと動かずにしている他はない。嫌な気分ではないけれど。

周りを見ても侍女たちも騎士団員も微笑ましく見守っているという感じである。その中で俺だけがドギマギしているというのはなんだか不公平である。

ちらっと横を見るとテレジア姫からはすうすうという寝息が聞こえて来た。

俺にもたれかかって安心して眠れるってことはまあいいかと彼女を起こさないようにそっと果実水を飲むことにした。

それから少しすると、彼女が少し動いた時に目が覚めたらしい。

「あ、あの、私眠ってしまっていましたか?」と赤い顔でわたわたしている。

「大丈夫ですよ。姫様もお疲れでしょう。」

俺がそういうと、「ああ、昨日はあなたのことを考えて眠れなくて、あっ、そういうわけではなくてですね。」と姫様はなんだか自分で墓穴を掘っているようであった。

「えっと、今日はクッキーを焼いて来たのですがお召し上がりになりますか?」

気を取り直したようで姫はそんなことを言ってくる。

「是非いただきましょう。」

彼女はほっとした表情で持っていたバッグから何かを取り出した。

「は、初めて焼いたクッキーなのでおいしいかどうかはわからないのですけれど。」

(あっこれ砂糖と塩を間違えていても『おいしいよ』って言わないといけないやつだ。)

綺麗なハンカチの上に出されたクッキーを一粒摘んで食べてみた。結構おいしい。

「おいしいね。」

俺がそういうとテレジア姫は明らかにホッとした表情をした。

そうすると、姫は意を決したようにクッキーを一粒摘み上げて「はい、あーん」と言った。

(え、何?何のこと?)

俺は意味がわからずに内心ドキドキしてフリーズした状態だった。

「わ、私が食べさせてあげますからエド様は口を開けて!」

(そ、それは恥ずかしい。)

「も、もしかしてウィル様が来たりしたら恥ずかしいんだけれど」

「兄上は今日は別の御用があって城にいませんから大丈夫です。」

「じ、じゃあ口を開けるよ。」

あーん。

彼女の指がすぐと俺の口に触れると口の中に甘いクッキーが入って来た。

絶対俺の顔は真っ赤っかである。

「じゃあ今度は私がアーンしますからエド様がクッキーを入れてくださいね。」

いったい俺は何をさせられているのだろう。

そう言って彼女はあーんと口を開けた。

「じゃあ、クッキーを入れるね。」

俺は一粒クッキーを彼女の口に放り込んだ。

「お前、こんなことした以上はちゃんと領地を回復して可愛いわしの姫君を妻として迎え入れるんだぞ」という国王陛下の幻聴が聞こえてしまいそうだ。

横ではテレジア姫が「うふふっ、エド様大好き。」と言って俺の腕にしがみついているようだ。何だか口から魂が抜けてゆきそうである。

幸い、姫君の侍女たちが「姫様そろそろお時間でございます。」と言って来てくれたので彼女はニコニコ顔で去って行ったのだった。

ふらふらと立ち上がってランディとアランのところに行くとランディは「エドワード兄様も順調に大人の階段を登っているんですね。」と冷静に感想を言ってくれた。

アランは「姫君に好かれるっていうのも大変だなあ。」と驚きとも同情ともわからないことを言ってくれた。精神力をずいぶん消費したことには変わりがなかった。


♢♢♢


数日後、俺はゲイリーと商人のオルジを呼び出した。2回目の旧領探索の打ち合わせだ。

ゲイリーはマリウスからの依頼として王都騎士団の団員から何名かを連れて行って欲しいということを言って来た。

「まあ、5〜6人ですかね。」

「そうだな。戦力には数えられないからなあ。」

「マリウス騎士団長にしてみれば魔獣退治の力をできるだけ早くつけたいようですね。」

「給料を出してもらっている以上は仕方ないな。」

「ところでオルジ、できたら今回は監視小屋を立てたいのだが大丈夫だろうか。」

「ええ。作りつけのドアや窓などを用意して丸太で一気に小屋を組んでしまいましょう。」

「そうしてくれると助かる。」

「そのため、大工と私の部下と私で3人が同行したいのですが構わないでしょうか。」

「それくらいなら大丈夫だよ。」

「ではよろしくお願いします。」

こうして次の旧領探索はフライ山に小屋を建てることが第一の目標になった。

トゥラニア騎士団員とゲイリーが選んだ5人の王都騎士団員、そしてオルジの仲間3人がメンバーである。

ヘンリーさんは今回は同行せず、「また珍しいモンスターの首を持って帰ったら剥製にしてあげるよ。」と言われた。ランディは一緒に行きたがったが、夫人の一喝で止められてしまった。

マリウス騎士団長の許可を得て再び俺たちは馬車に乗ってナッシュビルの村へと向かったのである。

ナッシュビルではウォーレン伯と面会して探索の許可をもらった。ウォーレン伯からは俺が男爵位をもらったことについておめでとうを言われた。

小規模な宴の後、俺たちは翌日にはフライ山に向かうことにした。

見張り台までの道は騎士団員が熱心に下草を刈っていたようで、歩きやすいものだった。

見張り台の小隊長は別の人だったが、顔馴染みの人で「こんな魔獣の森に繰り出すなんて変わっているよなあ。」なんて言ったが、暖かくなってから魔獣が活発化しているから注意しろとアドバイスしてくれた。

その日のうちにフライ山に着きたかったので早速見張り台から出発したが、たった1ヶ月の間に再び下草は生い茂っており道は分かりにくくなっていた。

オルジは「やはり木を切って道幅を広げる必要がありますね。木の太さは十分ですからこの辺りの木は十分に売れると思います。でも、運ぶためには荷車が通れないと運びきれないでしょう。」という。

「善処しよう。」と俺が答えた。

この状況で荷物を運ぶことにぶうぶう言っていた王都騎士団は黙って荷物を運び始めた。トゥラニア騎士団は下草を刈る部隊と魔獣を警戒する部隊に分かれた。

見張り台を過ぎるとやはりホーンラビットやブラックウルフなどが襲撃して来た。

俺も手伝って半分くらいの魔獣を仕留めたが、飼い慣らされた魔獣と違って「野生」の魔獣はすばしっこくて王都騎士団には対応が難しいよなあと思わせるものであった。それでも夕暮れまでにはフライ山に辿り着いた。夕食はホーンラビットの肉を使った料理である。

オルジたちや連れて来た大工さんは積んである木材の様子を調べ、水場や土地の傾斜などを調べてどういう小屋を建てるのか検討していた。

夕食後、オルジさんと大工さんは俺のところに来て、木材の様子は良好で、明日の一日あれば小屋を作ってしまえるだろうということを言ってくれた。

また、山の木をもっと切って「人間の領域」を広げて他に危険な魔獣がいないかについて確認する必要があるというのがオルジさんの意見だった。

翌朝、俺はトゥラニア騎士団を二手に分けて一隊を小屋を作るグループとしてもう一隊を木を切るグループの護衛にした。王都騎士団の団員には木を切ってもらうことにしたのである。

小屋を建てる方のグループはゲイリーに監督してもらい、木を切る方は俺が対応することになった。

オルジさんはもしかするとスターンさんが持っていたものかもしれないけれど、古いフライ山の見取り図を持っていた。

彼によると、今回小屋を建てている場所よりも北東の方に山砦を築くのに適当な場所があるのだという。今回建てる小屋は水場があるので最初の拠点として使うが、ゆくゆくは数百人が使えるような本格的な山砦を作るために場所を確保するのが良いという意見であった。

今回はそこまで切り開けるかどうかはわからないが、そこを目指そうというのである。

5人の王都騎士団員はオルジの指示通りどんどんと木を切ってゆく。

主人とその部下は切り倒された木の太さを測定したり高さを測定して記録して行った。

木を切っているとホーンラビットや蛇や蜘蛛、ボアたちのような小さな魔獣が出てくるのでそれはトゥラニア騎士団員が対処して行った。

お昼を過ぎた頃に一度小屋の方に戻って昼食を取ることにした。

小屋はとにかく壁は丸太が積み上がっていて、ドアと窓も取り付けられていた。

驚いたことに湧き水の泉の水は小屋が包囲された場面を考えて小屋からでなくても水が取れるようになっていた。

とって来た獲物の肉を焼いて昼食にする。もう自給自足ができそうである。

その後、俺たちは木を切る作業に戻り、順調に木を切って行った。夕暮れになって小屋に戻ると小屋は外観は完成していた。ゲイリーは若様、ついに本拠ができましたよ。」と涙を浮かべている。

中に入るときちんと床は引いてある。残念ながらベッドはつけられておらず、床で雑魚寝することになるが、それでも小屋に入れば雨露を凌ぐことができる。

その夜はみんなで宴会だった。宴会といってもお酒は瓶に一杯しかなかったので1人に一杯づつくらいしか回らなかったけれど。

オルジさんはここから見張り台までの道を馬車が通れるくらいに広げるために全力を挙げるべきだという提案である。

宴会の後、どういう風に開発を進めてゆくかについて新たに話し合いが持たれた。

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