53 ホテルか宿
「ホテルと宿、どっちに泊まろうか?」
シアンが提案する。たいして違いはないように思えるのだが……感覚としては西洋風と和風といった感じだろうが、そもそもこの地に和風はなさそうだし。
クロザキ家も和風要素と言えばこたつ程度で、それも椅子に座るのがメインの西洋に合わせるために足を高くしていたから、異世界人であるケンジが日本文化をばらまいたわけでもなさそうである。
「それよりも先にどこかの街に行かなきゃいけないんじゃないの?」
イエローが麻袋の口を器用に縛りながら首をかしげた。
このリグマ洞窟最奥部の壁を構成する水晶はだいぶ掘られたが、まだ尽きる様子はない。
シアンの持っていた懐中時計によればもう日が沈みかけているようなので、いったんここで作業を終えて、また機会があれば掘りに来るつもりである。
そしてその産物として、一メートルくらいの高さのある麻袋が十個ほど並んでいた。当然、中身は魔道結晶だ。
公爵家の娘ということでイエローにはいい商人の伝手があるそうなので、そこで捌いてもらおうと思っている。パパからかなりの金額は渡されているが、お金はあるに越したことは無いのだ。
もちろん、僕も使えるので袋一つくらいは手元に残しておく。
「次の目的地は? 泊まるなら、できるだけ近い街の方がいいんじゃないかな」
僕がそう提案すると、シアンは「うん♪」とひとつ頷いてタブレットを取り出す。すぐにギルガメッシュくんとそらちゃんがそれを覗き込んだ。
「えー……『ロココ商店街二軒目の地下室四階』……なんでまたこんな変なところなんだろ」
目的地はここからさほど離れていない街の商店街のようだ。タブレットの示した詳細な情報によれば、『商店街で一位を争うほど売り上げの高い肉屋。もともとあまり人気はなかったが、最近は秘伝のたれをふんだんに使った串焼きの販売も開始したため急な成長を見せている』とのことらしい。
「くしやき? おいしい?」
「ギルガメッシュくん、干し肉より串焼きの方がおいしいと思うよ」
「それはない」
首を振って即否定するギルガメッシュくん。どんだけ干し肉好きなんだ。
「……あくしゅみ」
そらちゃんがふんと鼻を鳴らすが、ギルガメッシュくんは特に気にもしていないらしい。
「あじおんちがよくいうよ」
「……」
「あっ! こら洞窟の中で爆発魔法とかつかわないの! 崩落したらどうするの!?」
すかさず魔力を奪って魔法の発動を阻止する。この洞窟の上には大きな山があるのだし、崩落すれば周囲にかなりの被害が及びそうだ。……周りには畑しかないけど、潰れれば農家さんが悲しむ。
「えーと、とりあえずそこ行こっか」
「……ん」
僕がゴンドラでロココ商店街のある街へ皆を運ぶと、何かパーティーでもやっているのか街はかなりにぎわっていた。
空き地にゴンドラが着陸すると、そこを通りかかった人がシアンとイエローの姿を見つけて声を上げる。
「イエロー様だ! 祭りに来てくれたのかな!? サプライズゲストとか!?」
「それよりもあのちびっ子たち誰かしら? 特にあの帽子の子とかすごいかっこいい!」
やはり、ここは祭りがあっているようだ。上空から見ると奥の方に舞台があって、ちょうど男性のグループが歌って踊ってしていたし。
「ああ……家を追い出されたからすっかり忘れてた。明日から剣技大会があるから、今日はその前夜祭があるんだっけ?」
「そうね。飛び入りエントリーも問題ないっていうか大歓迎だから、アップヒルもやってみたら? あとジークフリートも」
なにそれ、楽しそうだ。
僕がゴンドラをかばんにしまい込みながら心を躍らせていると、ジークフリートくんはたばこに火をつけて大きく煙を吐いた。
「しょせんめだちたがりのつどいだろう。おれはいい」
「そう? じゃあアップヒルかな♪ 応援してるよ♪ ホテルは私達で見つけておくから……誰かー! この子を大会本部に案内してあげて!」
僕は「じゃあアタシが!」と立候補した、十五歳くらいの少女にひょいっと放り投げられ、お姫様抱っこされる。
楽しそう。楽しそうだが、僕も友達と一緒に新しい街を見て回りたかったのだが……ホテルが決まったあとでもよくはなかったのだろうか。
「はじめましてッス。向こうにあるんで本部は……ちょっと、飛ぶッスよ」
紫と水色の混じった綺麗な髪の少女がそう言った直後、いきなり大きく飛びあがる。
「わわっ」
僕たちの位置が街灯を越え、建物の屋根を越える。ついでのように空気を蹴って屋根の上に飛び乗ると、僕を抱っこしている少女は軽快な足取りで本部の方へ向かっていく。
「飛ぶなら言ってよ……」
「言ったッスよさっき。まあ、こうした方が楽なんで、人ごみを抜けるよりはね……出ない方がいいと思うッスけど、これで怖がるくらいなら」
そんなこんなで一分ほど走ると、かなり遠くにあったはずの本部に到着する。
本部は、大きなスタジアムが本部になっているようだ。たぶん、ここが剣技大会の会場にもなるのだろう。東京ドームくらいでかい。……僕は東京ドームをよく知らないけど。
「ホントに大丈夫ッスか? 使えるんスか、剣?」
「まあね。うまくはないけど……」
少し驚きの混じった顔で「フーン」と息をつく少女。
「じゃあいいッスかね。あーい、飛び入り参加者ッスよー! しかも見込みあり!」
スタジアムの扉を少女がバンと開け、そう大声で言う。
室内はまず広くて白い部屋があり、机があってそこに暇そうな受付のお兄さんが舟をこいでいた。それ以外に人はいない。少女の言葉で目を覚ましたらしいお兄さんは嬉しそうに僕に向かって手招きする。
「参加者だよね! いやあ、クェドが見込みありなんて言うのは久しぶりだなあ!」
少女の名前はクェドというらしい。久しぶり……ということは、この少女はこの大会の古参ということだろうか。道理でさきほど簡単に屋根に上ったり宙を蹴ったりしたわけである。
クェドの腕から降りて差し出された紙に必要事項を記入する。といっても名前と規約に同意するかとかそんな程度だ。
「じゃ、これが札だよ! 失くしたら参加できなくなるから、明日まで大切に取っておいてね!」
用紙と引き換えに差し出されたのは一枚の木の札だ。ちょうどスマートフォンくらいのサイズがある。それには赤い字で『アップヒル』と刻まれており、魔法パワーも感じられた。奥の机に置いてある大きな魔道具が読み取り装置らしかった。
ちゃっちゃと試合の説明を受ける。一対一で何試合もやるとか、一定のダメージを受けると意識があっても敗北になるとか、そんな感じだ。
クェドはもう役目を果たしたということでさっさと出て行ってしまっている。僕も外に出ようかと思ったら、受付のお兄さんが僕を呼び止めた。
「……あ、今はスタジアムで模擬戦をやってるから、見てきたらどうだい? 環境を見ておいた方がいいと思うよ!」
「いいの? じゃあ……えーっと」
壁にはドアがたくさんある。螺旋階段を昇れば高さ別に四つも階段があるし、同じ高さでもみっつ扉があった。
「一番低いところから入ってね」
「りょーかい」
お兄さんが悪だくみが成功した子供のような表情を浮かべていたのは、気のせいだろうか。
次回、長いです。戦闘します。いつもよりちょっと面白いかも。
乞うご期待!!!




