52 ジークフリートくん
「その子が? もう一人いるって言ってた子?」
「そう。ジークフリートくんだよ」
シアンがなぜか物珍しげにジークフリートくんを観察する。じろじろ見られているジークフリートくんは不愉快そうな顔をすると、一瞬で姿を消した。
探知魔法にもぜんぜん引っかからないし、ほんとにどうやって隠れてるんだろうか。ジークフリートくんの隠蔽という能力は僕をはるかに超えている。
ただ、イエローは何か感じるらしくくるくると首を回して周囲を眺めていた。そして、いきなり両手を伸ばす。
「確保っ!」
「うおっ!?」
突如、空間が陽炎のように揺らめいてジークフリートくんが姿を現す。残念ながらイエローの手はジークフリートくんの頭一つ分ほど左にそれていたが、よほどびっくりしたらしい彼は僕の後ろに回り込んできた。
「……なんなんだ、あいつ。こうがくめいさいがみやぶられた……?」
「光学迷彩なんだね、あれ」
イエローは少し残念そうな表情を浮かべる。
「惜しかったわねー」
「もしかして魔法以外に特殊能力持ってたりする?」
「いや、ぜんぜん。でもその子の居場所はなんとなーく分かったわ。……と、魔法と言えば、そうよ! あれ、何?」
あれというのが何を指しているのか分からなかった僕が「あれ?」と聞き返すと、イエローはいきなり左手をリボンに変える。
「さっきこれ、真似したでしょ。どうやったの?」
左手リボンがしゅるしゅると宙を舞い、猫や鳥などの形を次々とつくる。すごく器用だ。
「僕の魔法が真似できる魔法だからね」
「……ほんとに?」
「ほんとに」
静かにこくこくとイエローは頷いたが、無言で口の端へ右手を持って行って、もう片方の端へすっと動かす。静かにしろってこと?
「それは言わない方がいいわね。別の大陸から来たなら知らないんでしょうけど……コピー系の魔法は、人に言わない方がいいわ」
僕が聞かなくてもなぜかを説明してくれるらしい。シアンがどこからともなく小さなホワイトボードを取り出してイエローへパスする。
「有名な昔話があるのよ。英雄が邪神を打ち倒す昔話がね」
ヨクト・フュータニィという英雄が、今より一万年ほど昔にいた。
その頃は、バッドビートと呼ばれる邪神が北の世界を支配しており、その支配領域は徐々にヨクトの住むこの大地の近くへまで侵食してきている。バッドビートを討伐することができなければ、その大地も支配領域へ飲み込まれ、草木は枯れ、水は穢れ、人々は狂ってしまう。
そこで、王はヨクトをはじめとする人類最強の者たちを集め、バッドビートの住まう北の最果てへ送り出した。
旅路は厳しく、バッドビートに洗脳された刺客や操られている配下の悪魔たちが次々とヨクトたちへ襲い来る。仲間たちは旅の途中でひとり、またひとりと死んでいってしまった。
いよいよ世界の最果てにある漆黒の城へとたどり着いた時には、バッドビートを討伐する仲間はヨクトと賢者のふたりだけしか残っていなかった。
それでも、世界を救うためにヨクトは賢者とともにバッドビートのいる城へと乗り込む。
ヨクトは決意を新たにし、城内を防衛する悪魔どもを蹴散らしていく。そうしてヨクトはなんとかバッドビートと相まみえることができた。
苦戦し、多くの傷を負いながらも、ほとんどたくさんいた仲間たちの思いと、故郷の住民たちの願いを力に変えてふたりはついにバッドビートを倒すことに成功する。
しかし、世界最強の魔法使いである賢者でさえもバッドビートの魂を完全に破壊するには至らず、結局その北の最果てに封印することしかできなかった。
――そして、バッドビートが持っていた魔法、それが『コピー』の魔法だったのだ。
「つまり……」
「つまり、コピーできるなんてひけらかせばアップヒルとバッドビートがどうにか関連付けられるのが必至なのよ」
被害は僕だけでなく、僕と仲良くしているシアンやイエロー、およびそのクロザキ家にまで悪評が回ってしまうらしい。やはりクロザキ家でも敵対しているやつらは大小いるわけで、そういうところが喜んで僕をバッドビートの化身だとか言い出すのが目に見えると。
ちなみに、イエローのような有名人が街中をうろついていると、すぐ敵対者のスパイというか監視みたいなのが放たれるらしいので、僕と仲良くしているのは完全に筒抜けになるようだ。
「しかも最近はその封印の効力が弱まって来たって観測結果も出てて……おおっぴらに疑われるようなことはしちゃダメよ」
なるほど。
「りょーかい。じゃあ僕の魔法は『スラッシュ・リボンズ』で」
「余計怪しまれるじゃない! もうちょっと別ので……」
「『スペシャルズ』?」
試しにルビー、ダイヤ、サファイアを具現化させてみる。
「……まあ、いいかしらね?」
「うん、いーんじゃない♪」
シアンの声がした方を向くと、そらちゃんといっしょにしゃがんで、最奥部の地面をいじくっているようだった。
「なにやってるの?」
そらちゃんがこっちを向いて、小さなツルハシのようなものを掲げてくれる。
「ここのじめんがきれいだからさいくつする」
確かに、そこに転がっているおにぎりくらいのサイズの青い水晶はとても美しかった。宝石として売るのも十分できるだろう。
そしてさらに、もうひとつ注目すべき点がある。
「魔道結晶……」
そう、これはこの前ラリルくんのために作ってあげた魔法を刻み込める宝石、魔道結晶の役割を果たすこともできそうだった。しかも僕の作った物よりかなり質がいい。
「ほんとに? これこんなにすごいの? ……なら国に報告すれば、褒章がたくさんもらえるね……!」
しかし、そらちゃんは首を振ってそれを否定した。
「じぶんたちでほる。おねえちゃんがみつけたから、おねえちゃんのもの」
「まあ、確かに貰える褒章よりこれを全部採掘して売った方が金額が多そうね。私にもツルハシ貸して」
「ん」
そしてイエローとギルガメッシュくんも採掘に参加する。
「ジークフリートくんは?」
「おれはさぎょうはしょうにあわねえ」
胸ポケットからたばこを一本取り出し、魔法で火をつけるジークフリートくん。試しに僕の魔法のライトの光量を落としてみると、洞窟の暗さと水晶の輝きもあいまってジークフリートくんはとてもカッコよく見えた。
「よーし、僕も掘ろうかな! ツルハシ!」
魔法でツルハシを具現化させようとするが、ひとつだけでは『スペシャルズ』は発動しないのを思い出す。
「……斧とシャベル?」
道具という共通点でダイヤモンドの粒子を配合したすごく強いツルハシを作り出す。勢いよく地面へ叩きつけると、僕の頭くらいのサイズの水晶を取ることができた。
いや『スペシャルズ』もダメでしょって指摘は聞きません!!!! 絶対に!!!!!!!




