54 模擬戦
「ぎゃー!? いきなり攻撃はひどいよっ!!」
「それが大会前夜のスタジアムのルールなんだよ!」
今、僕はスタジアムの芝生の上を走り回っている。
状況を説明するとまず、扉を開けて入った瞬間、炎のでっかい弾丸がぶっ飛んできたのである。
なんとかそれを躱すと、次は近くにいたおじちゃん及びほか五名ほどが魔法を乱発したり剣で攻撃を仕掛けてきたのだ。そしていまそのひとから逃げている。
魔法メインの人もいるあたり明らかに剣技大会では無いのだが、どういうことだろうか。
「ルールってなに!? ルールってどゆこと!?」
「隙ありだーッ!」
「ぎゃああー!」
風のドリルが僕の背に直撃し、途轍もない爆風が発生して僕はふっとばされる。
スタジアムの屋根に僕が衝突すると、バキリと骨が折れ、視界が黒く塗り潰された。
「あえ……?」
失神するにしてはダメージは軽いと思ったのだが。
しかし、すぐに視界が開けて僕は芝生に座っていた。結界が張られているようで、今度は攻撃を仕掛けてこない。
「……状況説明求む。誰か」
ちらりと横を見ると、眼鏡をかけた黒髪の少年が座っている。
少年は僕の視線に気づかないふりをしていたが、僕が回り込んで目線を合わせると、気まずそうな顔で重い口を開いてくれた。
「えー……ここは……スタジアム、です……」
それは知ってる。
「も、模擬戦中は、誰でも、自由に誰かを攻撃していいってルール、なんです……受けたダメージが増えると、か、回復されてここに、もどされるんです……」
なるほど……。なんで、このおどおどした少年はここに入ってしまったのだろうか。僕と同様受付に騙されたにしても、登録をしたわけだろう。……わからない。
それ以上は少年は会話をしたくないようで、僕に背を向けて体操座りをし、壁に向き合ってしまう。
僕が横を見ると、そこにはホログラムのように浮き上がった文字があった。
「えーと……なるほど」
人の名前と、『K/Dレート』なるカウントが載せられている。もろゲームだ。
一番下には僕の名前もあったが、当然レートは『0/1』の表記だ。トップのキル数はもう百を超えているのだが……順位をひっくり返してやるのも、おもしろそうだ。
かばんは受付に預けてきたので、隅に置いてある木刀をひとつ手に取り、振る。感触を確かめているとも言えるかもしれない。
「じゃあ、やってみようかな」
半透明の結界の外に足を踏み出すと、すぐに岩がぶっ飛んできた。
「甘いね」
そして、それを木刀でかち割る。真っ二つに斬るという芸当は難しそうだが、叩き割るくらいは可能だ。大小の破片が周囲に飛び散り、僕はその一つを野球の要領でかっ飛ばす。
音速をはるかに超えて飛んでいく岩の破片は、狙いを僕の風魔法で若干修正されつつも魔法の使用者である男の胸を貫いた。血は飛び散らず、その男の姿がぼやけて消える。まずは、一キルだ。
続いて飛びかかってきた男の剣も軽くいなし、周囲の人もろとも大規模な津波を起こしてスタジアムの壁に叩き付ける。
グキグキとかなり嫌な音が鳴った。
「せああああああ!」
「よっと」
放たれた炎の槍を適当にバックステップでかわし、お返しとばかりに木刀を投げ飛ばす。
魔法の行使者はかろうじて躱したようだが、その奥で別の人と戦っていた男がとばっちりを受けて消滅。
ついでに軽く雷を落とし炎の槍の人も巻き込んでキル数を稼ぐ。跳ね返ってきた木刀は、かっこよくキャッチ。すごいでしょ。
そんなこんな、ダイナミックなアップヒルの魔法攻撃ラッシュにより、あっという間に僕のキル数は五十を超えた。……これでもまだ五十だ。
僕が目を細めて、リスポーン地点のホログラムを遠くから眺めていると、いきなり背筋を寒気が伝う。
「『エクスプロージョン』!」
爆発で木刀の加速を手助けし、背後に向かって大きく振る。ちょうど、相手の木刀がそこに来ていたので迎撃することができた、のだが。
「なっ!?」
そこにいた眼帯の男は、力任せに僕の木刀を吹っ飛ばす。手が激しく痺れ、慌てて斜め後ろに引こうとしたが、足元からちょうどトルネードが出現し、僕は上空に巻き上げられてしまう。
トルネードはどんどん広がり、一種の空間を形成した。絶えず上昇気流が僕を上に持ち上げる狭い空間だ。そして、眼帯の男はトルネードの内部へ入り込んでくる。
「飯食い終わって来てみりゃ、また面白れぇやつが湧いてんじゃねえか」
湧くって言い方はどうにかならないのだろうか。これでは僕が虫みたいだ。
魔法で位置を調整しながらトルネードの中で男と僕が睨みあう。……正確には男は笑っていたが。
「えーっと……せやー!」
変な掛け声ではあるが僕の振るった拳は加速し、空気との摩擦で火花を纏う。ちょっと熱い。
男も自由自在にトルネードの中を動き回り、僕のパンチを簡単に躱す。続いて背後から攻撃してきたのを左腕で迎撃。
「『コンティギュイティ・フォールト』」
「!?」
木刀にぶつけた左腕、に五枚も張っておいた結界がすべてぶち破られる。慌てて左腕を引っ込め、『ウォーターガン』を飛ばして牽制しつつ距離を取った。
あれを喰らっていたら、間違いなくリスポーンだ。『コンティギュイティ・フォールト』……攻撃力強化の魔法だろうか。コピーしたものを分析しようとするが、なぜかできなかった。コピー自体は出来ているのだが……。
使ってみるのはよくないとイエローからさっき言われているし、試すのは無理そうだ。
「ほー……これを防ぐ結界か。相当腕がいいみてぇだな、面白そうだ」
次に首が飛ぶイメージが浮かぶ。
結界は役に立つか分からないので『エクスプロージョン』をとっさに使い、自分を床へ叩き落とす。
男は先ほどのイメージ通り、木刀を僕のいた場所めがけて大きく振っていた。もちろん魔法込みで。
「『ウォーターガン・フォール』!」
水の弾丸が男へ向かって飛んでいくものの、案の定それは躱されてしまった。
このトルネードは、かなり厄介そうだ……こちらは常に上に巻き上げられるのに、なぜか男は鳥のように空中を自由自在に動けている。
トルネードはどうやって消せばいいのか……ええい、力技で行くか。
「大地の怒りよ、我の元へ集い風となりたまえ……」
即興で詠唱を行うと、もう一つの竜巻が発生する。それは徐々に広がり……男のトルネードを完全に打ち消した。
何をしたのかと言えば、単純に反対方向に動くトルネードをそっくりそのまませいせいしただけである。
男は心底面白そうに唇を持ち上げると、すぐにつっこんで攻撃を仕掛けてくる。
「キック!」
「喰らえ『コンティギュイティ・フォールト』ォ!」
結界を僕の足に重ね掛けしまくって魔法を防ぎ、木刀を蹴る。
それだけでは足りなかったので、おまけに爆発もたくさん撃って男を吹き飛ばした。
スタジアムの壁――正確にはそこの結界――に勢いよくぶつかった男だが、いまいち確実に倒せた気がしない。
「『タイドルキャノン』!」
高圧の水でかめ○め波的なものを作り出し、男のいる場所めがけてぶっ放す。
隙を狙った別の人たちは、とりあえず岩をたくさんぶっ飛ばして倒しておく。甘いのだよ、僕が気付いていないとでも思ったか。
少しすると、先ほどの男がリスポーン地点に出現した。ようやく倒せたみたいで、一安心。
「待ったよー♪ ホテルはね、すごい豪華なところだからね! しかも安いし! さあ行こ!」
一位を僕の名前にしてからスタジアムの外に出ると、シアンとそらちゃんが待っていた。
「……どうだった」
「僕が強いことがよく確認できたよ! えっへん」
僕はすごくお腹がすいているので、そらちゃんを少し急かしつつホテルへ向かう。
妙に入り組んだ妙に細い道を迷路のように辿っていくと、五分ほどで大きな建物が見える。
「ここ?」
「ここだよ!」
なるほど、確かに豪華だ。
ホテルは色のやや違うレンガを規則正しく配置して作られた背の高い建物だ。周囲の建物は高くてもせいぜい二階建て、三階建て程度だが、ここは五階建てほどはありそうだ。
看板には筆記体みたいな文字で何かが描かれているが、字がうますぎて僕には読めない。雰囲気的にはカフェといった方が似合いそうな建物だ。
そして最大の懸念点である。
「……安いの? 普通にお貴族様が泊まっていきそうなホテルだけど……」
もちろんシアンとイエローは貴族に違いないので問題はなさそうだが、いちおう家を追い出された身であるし、お金は有限だ。
いくらあとでイエローが魔道結晶を売って換金するつもりだとは言えど、ここに泊まってしまえばすぐにお金が尽きそうである。
「大丈夫! 実はね、ここは剣技大会がある時は参加者一行を格安で泊めてくれるんだよ♪」
「なるほど」
三人で自分の部屋に入る。自分たちの部屋は四階に位置していて、とても広かった。まあ、六人も泊まるのだから広くなければいけないのだが。
東京の高級ホテルにも負けず劣らずの綺麗な部屋で、クロザキ家のような貴族の邸宅かと思ってしまうくらい綺麗だ。
部屋も四つほどあり、明らかに先ほど外から見たホテルのサイズには入りそうにないのだが、少し注意深く探ってみるとどうやらこのホテルには空間拡張の魔道具が設置されているらしい。
なるほどそれでこの広さを格安で提供できるわけである。……それでも大赤字な気がするが。公営なのだろうか。
「ベッド! いぇーい!」
「その前に、手洗いうがいね」
ダイブ・イントゥ・ベッドしようとしたところでイエローに捕まえられて洗面所へ連行される。
洗面所には蛇口代わりに魔力を流すと水が出てくる魔道具が設置されている。
簡単にこれの仕組みを説明すると、僕が流した魔力を大変効率よく自動で水魔法に変換してくれるものだ。わざわざウォーターなんとかを構築する手間を代わってくれる。
石鹸もいい香りがするし、お花が埋め込まれてあった。
「いやー、いいホテルだね! 僕ずっとここに泊まりたいかな」
「でしょう。実はこのホテルは領が設置してるホテルで……」
「あああああああ! そうだった!」
シアンがいきなり飛び上がってベッドに頭を打ち付ける。とはいっても柔らかいから痛くないだろう。
急な奇行にギルガメッシュくんが心配そうに顔を覗き込む。
「だいじょうぶ?」
「ここもまだクロザキ公爵領……ということは私たちがここに泊まると! パパにお金が行く!!」
「……なるほど」
いきなり家を追い出されたので、やっぱりパパのことは少し嫌いになったらしい。年齢的にはちょうど反抗期ではあるのだが、あんまりそれは関係なさそう。
悶えるシアンを置いておいて、テーブルに座った僕はイエローがとっておいてくれた夕食セットを食べる。
「……明日大会だから……早起きかな」
万全に起きれるかどうか少し心配な僕だった。
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