幕間 新大陸の引力
雲一つない青空の下、一席の大きな船が海の上にぬっと出現した。正確には、隠蔽の魔法を解除したのだ。
船長であり、探検隊のリーダーであるハブレコ・ブラッシオはほくほく顔で甲板に座り、トロピカルジュースを飲んでいる。
今回の、新大陸の探検及び情報収集。着いてみるまでは本当に新しい大陸などあるのかと、皇帝からの命を受けてなお疑っていたが、来てみればなかなか面白いところだった。見たこともない食べ物もたくさんあったし、冒険者という制度も面白かった。
そして、今回の成果は情報だけではない。
「ハブレコ船長! 『あの子』が目を覚ましましたよ!」
「なんと! すぐ向かうぞ!」
情報源になるかと思って、幅広い年代の奴隷も買ってきていた。ちなみにその支払ったお金は、船員たちががんばって冒険者稼業をして稼いだものだ。
しかし、連れてきた人の中に一人だけ奴隷ではない者もいる。
それがその『あの子』だ。
ハブレコが『あの子』の眠っている部屋に入ると、『あの子』は頭をかきながら不愉快そうな目でハブレコを睨んだ。
ぼさぼさの金髪、緑の瞳。頭につけているゴーグルがトレードマークの、背の低い少年だ。外見年齢は十歳にもなるかどうか。
「なんだよ、人攫いかよ……だりぃな。おいハブレコとやら」
ハブレコは内心驚く。自己紹介する間でもなく名前を知っているとは、読心術でも身に着けているのか……とも思ったが、先ほど船員が自分の名前を呼んでいたのを思い出す。
しかしそれに続いた言葉で、ハブレコは本当に絶句することになる。
「新大陸に着いたら勝手に逃げさせてもらうぞ。このオレ様を利用しようとか、傲慢不遜にもほどがある」
ルレロ・ロフトヴァイン――気まぐれで傲慢な、最強の存在。
固有魔法『ウィズ・ワン・バウンド』……発動対象に絶対有利な状況を創り出す。
* * *
薄暗い森の中、ひとりの白髪の少女の前で大勢の盗賊たちが血をぶちまけて息絶えた。その真上には、真昼のはずなのに太陽の隣に白い月がある。
木々を縫って森の奥から、少女を追うようにさらに二人が現れる。
「わー!? ちょっとしろちゃん何やってんの!? まずは話聞こうよ!? 会話だよ会話! それをしないからみんな戦争するんじゃん!」
悲鳴をあげるように少年が叫ぶが、その背に負ぶわれている黒髪の少女がたしなめるように言葉を紡ぐ。
「まあまあ、盗賊は殺すに限るんですよ。こういう中世ファンタジーだったら、盗賊を倒すと報酬も出るじゃないですか」
「あー、やっぱり転生しちゃったのかな!? でも死んでないから転移!?」
しろと呼ばれた少女は、騒ぐ二人を横目でちらりと見ると、疲れたように地べたに座った。
菱暮慧――日本からの転移者。
固有魔法『ガード』……発動中は一切の攻撃が通用しない。
ミラ・クリスタ――慧の知り合いの天使。
固有魔法はないものの、ありとあらゆる基本的な魔法を使用可能。
しろ――慧の知り合いの猫耳少女。
固有魔法『マイ・アメイジング・ワールド』……視界に入れた生物の未来の時系列を自在に操る月を出現させる。
* * *
賑やかな街。その建物の上を、次から次へ飛び乗っていく猫が二匹。
茶色の猫が街を観察するように見下ろしながら、とんでもない勢いで屋根を飛び移る。それを追いかける灰色の猫は、ついていくだけでせいいっぱいのようだ。
「す、すみません……休憩しませんか……?」
「アンタは本当に貧弱ね。こんくらいついてきなさいよ男なら!」
「ぜー、ぜー……男女差別は、このご時世、ダメなんですよー……あひゃっ!?」
灰色の猫が足を滑らせて屋根から落下する。地面に衝突して「にゃっ」と鈍い悲鳴をあげるのを見て、茶色の猫が大きくため息をついた。
アレリア――地球とはまた別の異世界出身の猫。
固有魔法『サンダルフォン』……交戦中に、戦況の優劣を逆転させる。
ロペロ――アレリアの彼氏の猫。
固有魔法『ファウスト』……あらゆる情報を取得し、最適解をはじき出す。
こんにちは。新キャラぞくぞくですね。
実はルレロくん以外はかなり前からいたキャラではありますが……。菱暮慧とミラは昔の作品、しろちゃんはTwitter、ロペロとアレリアはYouTubeが初出です。
あと、ルレロくんの名字……なにか見覚えが。




