幕間 SOSフロムルミネア
ルミネアの国王は執務室の扉が大きく開かれたのに驚いた。
国王の執務室内には、国王と側近の騎士二名、それと報告を伝えに来た名も知らぬ下っ端の兵士がひとり。大急ぎで来たらしく、肩で息をしている。
騎士が剣の柄に手を掛けつつ威圧的に尋ねる。
「何の用だ、いま国王は執務で忙しい。くだらない用だったら切り捨てるぞ」
「た、大変なのです! ラリル・ロフトヴァインという遠国のギルドマスターから手紙が……勇者を私怨のために罪なき者へ仕向け、果てはハザードまで呼び出したルミネアをこれから国際裁判所へ報告すると……!」
「な……!」
一気に青ざめる王。騎士も身に覚えがあったことなので、鎧で顔は隠れているものの体から血の気が引くのを感じた。
しかし王として、態度を保ったまま質問を返す。
「小癪な……! 今すぐこちらも裁判所へ提訴するよう大臣へ伝えろ! 理由はもちろん分かっているだろうな!? ラリルとやらがルミネアを侮辱したからだ! 相応の罰を受けて――」
泣きそうな顔で手をぶんぶんと降って言葉を遮る兵士。本来ならかなりの重罪だが、王も騎士もわざわざ指摘するほどの余裕がなかった。
「手紙には、ハザードだという黒い結晶もひとつ添付されていました! 吸収された魔力を調べれば勇者のものだと分かるし、勇者二人の証言も得られていると……!」
「ッ……!? バカな……!」
そもそも勇者二人を倒した直後にハザードまで破壊するとなると、無理に決まっている。騎士団を無傷で壊滅させたあの少女なら勇者程度は倒せるかもしれないが、世界で最強の勇者の魂を喰ったハザードを倒すのは無理がある。そう考えた王は唾を飛ばしながら次の指示を出した。
「ならば今すぐ鑑識に回せ! 勇者を喰ったハザードなどそう簡単に倒せるはずもない、討伐隊を組んだという情報もないのだろう!? それならばデマに決まっているだろうが!」
「も、もう調べている途中で、そろそろ結果が出るかと……!」
続いて慌ただしい足音が聞こえ、研究者のような身なりの男が息を切らしながら入ってきた。
「鑑定の結果を報告します、無礼をお許しください……! 魔力の質が、間違いなく勇者のものと一致したと……!」
王がうめく。八方塞がりか――そう思った時、騎士のひとりが王に近づいて耳打ちした。
「『あの方』に連絡をされては……?」
はっと驚いたような顔をした後、王は「その手が有ったか」と下卑た笑みを浮かべた。事情を知らない兵士と研究者がすこし引いているが気にする者はいない。
すぐもう一人の騎士が人払いをし、扉を閉じる。室内には王と騎士だけが残り、王は執務机の小さなくぼみに指をはめて回す。
小さな低い音が響き、机が割れて中から水晶が現れた。居住まいを正し、それに話しかける王。
「アイアン様……今お時間は大丈夫でしょうか?」
水晶にはモザイクのようなものがかかっていたが、次第に鮮明になり一人の少年――『アイアン様』の映像が映し出される。
先端だけが白い金髪、水色の瞳。服装は白いシャツに白い蝶ネクタイで、外見の年齢はまだ十にも満たないだろう。そして頭の上には一対の猫耳があった。
『やあキング。まずい事になったみたいだね~』
いよいよ面白くなってきたぞ、とでも思っていそうな笑みを湛えたアイアンは手に持っていたりんごをそのままかじる。
「もう知っておられましたか……アイアン様は何でもお見通しでいらっしゃる」
『まあね~。で、心配しなくていいから~。きみと、事情を知っているきみの部下はきちんと責任をもって保護させてもらうよ~』
「おおお! 感謝いたします、アイアン様!」
騎士は、誰に対しても威厳を損なわずに――というよりは傲慢と言うべきか――接する国王が家臣のように服従するアイアン様のことを思い出した。
最初の頃は、アイアン様の外見もあいまってあまり信頼も尊敬もしていなかったのだが、今では騎士たちも彼に心から服従している。
「いつ頃助けに来ていただけるのでしょうか? 事態はかなりまずいのですが……」
『今日中に向かわせるよ~、きみも乗りたがっていたでしょ~。アレ』
王が嬉しそうにピンと背筋を伸ばし、口をぱくぱくさせる。「子供か子犬にしか見えないよ~」とアイアンは苦笑した。
その後二言三言交わすと通話が終わり、王は騎士たちに命令を出す。
「今すぐ全員を集めろ!」
「「はっ!」」
――ルミネアの事情を知る者が全員、その日のうちに『ヘリコプター』によって回収された。勇者及び調査員がルミネアを訪れた時は、人も財宝もすべて無く、もぬけの殻だったという……。
ごめんなさい。まだ二章はじまらなかったです。
きちんと覚えてたぞ、アイアン様の存在ちゃんと忘れてなかったからね。この作品のラスボス的存在になりそうな気がする。




