38 定期ミーティングと出発
数日後。
僕が眠ってから、次に気が付くと、この前来たあたたかな庭に寝そべっていた。リードだ。
とりあえず、風車小屋へ向かう。
「どうかした? 明日くらいから別大陸に向かう予定だけど……」
小屋の中では、リードが金色の飲み物をガラスのコップに注いでくれていた。いつ見ても美人だ。
「ごめんなさい、急に呼んでしまって。でも、有益な情報――というほどでもないですけれど、いい情報があるんですのよ」
有益な情報?
僕が席に着くとコップとクッキーが差し出される。
「鮮明では無いイメージですけど、あなたがものすごく喜んでいる姿が見えますわ。きっといいことがあるのでしょう、次の大陸は」
わお、いいニュースだ。
ジュースを飲んでみると、どうやらりんごジュースのようだった。はちみつもたっぷり入っている。きちんと子供向けにしてくれたらしい。
「簡単に予言みたいなことをしておきますわよ。……えー、あなたはすこし変わった少女と出会うでしょう。その子と喧嘩になっても、仲直りをすればいい未来が開けますわ。意地を張らないようにしてくださいまし」
「りょうかい」
「それと……」
リードは紅茶を一口飲んだ。仕草も全部上品だ。
「なにか分かりませんけれど、次の冒険ではわたくしの未来視の効かない謎の存在がたくさん関わってきますわ。くれぐれも、注意してください」
頷きつつさくさくとクッキーをほおばる。バターの素朴な味だ。
「このクッキーもリードが焼いたの?」
「ええ。おいしいでしょう?」
僕が笑顔で「うん」と返せば、リードはぱっと花が開くような笑顔を見せる。
それと同時に、部屋中にギギギと大きな音が響いた。
「おや、もう限界ですわね……。それじゃあ、よろしくお願いしますわ」
クッキーを全部口へ詰め込んで飲み込むのと同時に、僕の意識は暗転した。
「そういえば、日本には帰るの? 魔道具は見つかった?」
僕がギルドからかなり離れた広場で出発の支度をしながら、手伝ってくれているアイに尋ねる。
アイはちょっと複雑そうな顔を浮かべながらひとつ頷いた。
「魔道具は拾ったし、帰れるみたいなんだけど……。この世界に戻ってこれないって思うと、ちょっとどうしても気が引けちゃって。どうしようか迷ってるんだよねー」
なるほど。
僕が魔道具を見せてと頼むと、アイはポケットからひとつの結晶を取り出す。灰色の結晶に水色のぼんやり光るラインが入った、手のひらサイズの立方体だ。ふむ、予想はしていたけど複製は無理そうだ、複雑すぎる。ラリルくんなら改良できるかもしれないけど。
「これからしばらく旅するから、預かっておこうか? 信頼できる人がいたら改良してもらえるかもしれないし」
「うーん……それはやめておこうかな。ちょっと怖い……ああいや! アップヒルの事を信頼してないわけじゃないんだけど……なんだかころっと悪い人に騙されそうな気がして」
これは貶されているのかな。悪人かどうかぐらい余裕で見抜けるよ、僕にかかれば……。
「……おねえちゃん、かってきた」
買い出しに出ていたそらちゃんが戻ってくる。魔王討伐の報奨金で大量の金が有り余っているし、どうせたぶんここのお金は次向かう大陸では使えないので、いろいろと食品や役立ちそうな道具を買ってもらっているのだ。ギルガメッシュくんも別動隊で買い出しへ向かっている。
渡しておいた容量拡張の魔法が掛かっている手提げかばんの中を見てみると、どうやら食品が三分の一ほどで、残りは実用性のあるしっかりした道具だ。少しくらい好きな物も買ってきていいんだけどね――とも思ったけど、そらちゃんがおもちゃとかで遊んでいるのはあんまり想像がつかないな。
「おねえ、かえってきたよー!」
「子守りは大変だな……」
ギルガメッシュくんも帰ってきた。雄太郎はちょっとげっそりしている。この短期間で何があったのか気になるね……。
ギルガメッシュくんに渡しておいたかばんの中身はほとんどが乾燥させて塩をまぶした肉。保存食だ。
「いや、かばんの中に入れておけば時間が経たないようにもできるから……どうせならおいしい料理をテイクアウトしてきたりしてもよかったんじゃない?」
「しおにく、おいしいよ! おねえもたべてみてよ」
ひとつ受け取ってかじってみる。……まず硬い。かみちぎるというよりは、たぶん包丁とか剣とかで細く切るのだろう。風魔法のドリルをうまく使って噛み切る。
次に、猛烈に味が濃い。たぶん水につけて塩水を作り、それで塩分補給をするとかも兼ねているのだろう。口の中に魔法で水を作り出し、味を薄める。
「……あんまりおいしくないよ?」
「えー? そう?」
ギルガメッシュくんもひとかけら掴むと、それをいともたやすく噛みちぎり幸せそうに咀嚼する。どういう口をしてるのかねこの子は。
「いつ頃に出発する予定なんだ?」
「もう支度も終わったし、そろそろ出発するけど」
「そうか。じゃあ次の大陸でもがんばれよ」
うん。
雄太郎とアイは次の旅にはついてこない。冒険は疲れたらしいし、どうやら新しいギルドマスターに「頼むからここにいてくれ」と土下座までされたらしい。ちょくちょくいろんな場所を見て回って、魔人の残党とかも落ち着くまではここにいる予定だ、と雄太郎は言っていた。
荷物――と言っても暇つぶし用の本などだ――を熱気球へつめ込む。今回は長旅なので僕がゴンドラを運ぶと疲れる、ということで魔法による快速熱気球を使用する。かわいらしいハチをデザインした気球だがかなり大きいので、先ほどからこの広場のまわりにはかなりの人だかりがある。雄太郎たちが魔王を討伐したので英雄視されているのもあるだろう。
「じゃあ、行ってきます」
「うん! がんばってね!」
「死ぬなよ」
スイッチを押すと炎が点灯し、ゆっくりと気球は上昇を始める。
少し高度が上がったところで、聞き覚えのある声が響いた。
「あー! 遅かった! がんばれえええええええええ!」
ウナさんがめっちゃ大声を出している。その近くには目を回してへたり込んでいるアマルイの姿も。あ、ジョンくんたちもやって来た。
「言ってきまーす! ありがとう、みんなー!」
僕が手を振ると、本来何のかかわりもないはずの野次馬たちもみんな笑顔で手を振り返してくれた。なんかアイドル気分だね。
ハチの気球は、以前僕が画像生成AIで遊んでいるときに偶然生成されたかわいらしい気球がモチーフです。いちおう画像も僕持っているので、今度暇があったらここに載せておきます。




