37 終わった……!
「勝ったか……!」
オレ達の通行を封じていた結界が解ける。それと同時にオレとアイは謁見の間へ入り、倒れているアップヒルへ駆け寄った。
「大丈夫か……?」
「気を失ってるみたい……って、何か……あっ! 魔王城が崩壊してる!?」
ガラガラと壁や天井が崩落を始める。……いや、これは……変化してる?
「まずいぞ、この城は魔道具だったんだ! 早く脱出しないと永遠に閉じ込められる!」
何でも入っているアップヒルのかばんへ手をつっこみ、何か役立ちそうなものを引きずり出す。
これは……
「ヘリコプター!?」
「ええいよく分からんが乗れ! 脱出する!」
アイがアップヒルとアップヒルが握っていた、切断された黒い剣をヘリコプターへ載せる。オレが電源マークが書いてあったスイッチを押すと、ぴこんと状況に似合わない音を立ててヘリコプターの液晶画面が点灯した。同時に羽も回転を始める。
『ハジメマシテ! アナタノ運転ヲサポートスル――』
「言葉が分かるならさっさと飛ばせ!」
『了解デス!』
ヘリコプターに搭載されたAIが元気のよい挨拶を返して扉を閉め、飛行を開始する。
『瓦礫ガ危ナイノデ、魔法デ障害物ヲ破壊シナガラ進ミマスネ!』
ばんばんと小規模な『エクスプロージョン』を発射し、落ちてきた瓦礫や変化した壁を破壊しつつ進むヘリコプター。……ただ、ヘリコプター搭載のAIにしてはかなり運転が下手で、ぐらぐらと横に揺れまくっていて酔いそうだ。
「へただなっ! 代われ!」
オレが運転席に座り、ハンドルを握る。ヘリコプターの操縦経験なら何度もある!
AIに操作させるよりもかなりスムーズかつ快適にヘリコプターが進行していく。
「わあ! ユーくんってヘリコプターも乗れるんだ!」
アイが驚いて口を開けている。そんなに意外だろうか。
十分もすれば、すべての壁を突破してヘリコプターは魔王城の上空へ飛び出た。
「ん……んん……」
アップヒルが唸っているが、目を覚ます様子はない。
「このままギルドに帰るぞ! ……それに、ラリルの報告もしないといけない」
……そう。ラリルは死んだ。
オレとアイが戦闘を終えると、ラリルは右腕以外の四肢をすべて失った状態で倒れていた。右手に、アップヒルへ突き刺したレコードみたいなディスクだけを握っていたが、オレがそれを取ると満足そうに笑って消えた。文字通り、ゆらめく炎のように一瞬で消えてしまったのだ。
「ここに来る途中に準備はしてるって言ってたし……ラリルがいなくなってもギルドは大丈夫なようになってるのかな」
「……そうだろうな。魔王城に攻め込むとか言い出した段階で、このことは予想して用意を済ませておいたんだろう」
魔王城の城下町を離れ、下の景色は森に塗り替わる。
――こうして、オレたちの魔王討伐は幕を閉じた。
* * *
……結局、魔王の名前は聞けなかったな。まあ、いいけど。
「んー」
僕はゆっくりと起きた。魔王を倒してから……どうなったんだっけ。頭が重くて何も思い出せない。
がんばって上半身を起こすと、どうやら僕はギルドマスター室に寝かせられているらしかった。部屋の中には誰もいないが、棚に並べられたこのギルドやラリルくんのトロフィーは少し悲しげに見えた。
……あの時ラリルくんの声は聞こえなかったし、やっぱり死んだのだろうか。あのレコードを残して。
かちゃりと静かに扉が開き、アイが部屋に入ってきた。
「ん……あっ! あー! アップヒルが起きたよ! 誰か! 誰かーっ!」
そして騒ぎながらすぐに来た道を戻っていくアイ。僕が目を覚ましたのがそんなに驚くことかな、と思っていると、入れ替わりで雄太郎がやって来た。
「みんな心配したんだぞ。もう五日もずっと目を覚まさなかったしな……」
「え、そんなに?」
ああ、と頷く雄太郎。
「魔王を倒したから、とりあえず国から褒章も出てる。あの長ったらしい式はもう終わったが、それに出なくて済んだのは運が良かったのかもしれないな。お前の取り分は全部かばんに突っ込んである」
「ありがと。……ラリルくんは?」
雄太郎は言いづらそうに視線をそむけたが、僕が頷いて話を続けるよう言うと正直に話してくれた。
「あいつは死んだ。レコードをオレが受け取ると満足そうに笑って、消えていった。死体も残ってない」
「……そう……」
沈黙がしばらく場を支配していたが、ただな、と思い出したように雄太郎が話を再開した。
「お前は見てなかったかもしれないけど……安心しろと。またいつか会えるとレコードには刻んであった。あいつの事だから、なんかの魔法で逃げのびたかもしれないな」
だと、いいけど。当分会えないのは、多分間違いない。
試しに手を握って『オール・アバウト・イット』を発動させてみる。が、何も起こらなかった。ラリルくんも、魔王みたいに神に近しい存在だったりして……本当にありえそうだ。
次に部屋に入ってきたのは、そらちゃんとギルガメッシュくんだ。ギルガメッシュくんは僕の元へ駆け寄るなり、大声をあげて泣き出した。
「うぇえーん! しんぱいしたんだよ! おねえ! うわああああん!」
こら、服が涙でびしょびしょになっちゃう。
そらちゃんは僕のそばに座っていたが、目に涙がたまっている。
「泣いてもいいのに」
「……ん」
ごしごしと涙を腕で拭うそらちゃん。かわいいなあ。
次にやってきたのはジョンとウナだ。ジョンのパーティメンバーで僕とかかわりがあったのはその二人だけだけど、一応残りの三人らしき人もついて来ている。
「よかったわねー! ぐすっ、心配したのよ、みんな……」
ダイブするように僕の元へ飛び込んできたウナだが、パーティメンバーの一人が魔法で引っ張ってそれを防ぐ。ウナはうなだれた。なんちゃって。
「はーっ、はーっ……アップヒルぅ……大丈夫……?」
アイが走って戻ってくる。その後ろにはギルドの受付嬢さんが五人ほどついて来ていた。みんな知り合いで、やさしい人たちだ。
「大丈夫。ちょっとお腹すいたかな?」
「おっ! じゃあみんなでご飯行く? いろいろあったけど、みんなでパーッと騒ごうよ!」
「そうだな。たくさん食べて元気取り戻すんだぞ」
「……おねえちゃん、こないだのみせがいい」
よし、じゃあみんなで食べに行こう。つらいことは忘れて、パーッと飲み明かそうか!
はい! お疲れさまでした!
これで第一章は終わりになります。とりあえず、三章までは構想ができていますのでだいぶ長くなると思います。構想と言えないまでもぼんやりしたイメージなら七章まであります。
ぜひ、これからも『猫又でーす、異世界にいまーす。』をよろしくお願いします!
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