36 最終決戦!
「ここかな……せいやっ!」
とりあえず、散々走り回った後でたどり着いた、これまでで一番大きな扉を蹴り飛ばす。看板には何かが書いてあるけど見てる暇はない。
扉の先は……うん、謁見の間かな。一番奥に大きな男が玉座に座り、その両そばに黒い甲冑を着た騎士が待機している。
光をほとんど反射しない、本当の黒色の髪。少しやせ気味で、見た目は人間と大して変わらない。紺のマントと漆黒の鎧を装着し、頭にはあまり華美でない王冠があった。少し悲し気な表情が雰囲気に似合っていて、悲劇のイケオジって感じだ。タイプじゃないけど。
「魔王だね?」
「来たか。勇者よ」
すごい速度で斬りかかってきた黒騎士を雑に腕を薙いで吹き飛ばす。魔王はそれを見て面白そうに笑った。
「僕は勇者じゃないよ。ただの一般人」
「いいや、魔王に対峙するのは勇者だ。勇ましき者と書いて勇者……文字通り、お前は勇者だよ」
そう言う解釈をすれば、僕も勇者なのかな。別にうれしくもないけどね。
「ちなみに名前を聞いても?」
「それはお前が勝ってからだ。わたしに勝てたのなら、名前を教えよう」
戦勝のご褒美を、わざわざ魔王直々に設定してくれるらしい。
魔王は自分の冠を外し、玉座の背もたれにカチリとはめ込んだ。
ちらりと横を見てみれば、もう騎士はふたりとも起き上がる気配はない。
「くく、心配するな。あの騎士はわたしが魔法で操っていただけ、ただの小手調べさ」
「なるほど」
魔王が腰を上げると、なんと玉座が変身ロボットみたいにガシャガシャと音を立て、一本の黒い大剣に変身した。漆黒の刀身に黄金のラインが走っており、禍々しくも神々しくもある。かっこいい。
「ほう、この良さが分かるか。お前とは趣味が合いそうだな……こういう形で出会ったのが悔やまれるよ」
「勝ったら、もらってもいい?」
「もちろんだとも。この城にある物なら好きなだけ持っていくといい。それが勝者の権利だからな」
やったね。ますます勝たなければならない。
僕はかばんに手をつっこみ、光り輝く純白の剣を取り出した。勇者が使ってそうな感じのやつで、これもかっこいい。けども魔王の持っている闇の剣の方がかっこいい気がする。隣の芝生は青いみたいな?
「それじゃあ、始めようか」
扉がなくなってぽっかりと穴が開いていた入口に強力な結界が張られる。生物を通さない透明な結界だ。どうやら、部下にも勇者たちにも邪魔されず僕とタイマンがしたいらしい。
まずは僕が先に飛び出す。
「せやぁっ! 『トレイン・レイン』!」
風で剣の力をさらに強め、全力で振りぬく。魔王も人間離れした反応速度でそれを受け止めると、電気で形作られた槍を飛ばして攻撃してくる。
まさに初見殺し。とてつもない包囲網と速度で僕を攻撃してくる。
「『インヘイル』!」
槍へ向けて『インヘイル』を使い、魔力を吸い取る。槍は、
「ぐっ!?」
ほとんど消えなかった。せいぜい表面がゆらりと揺らめくだけ。魔力を大量にぶち込むことによる『インヘイル』対策が行えるのは僕だけじゃないみたいだ。
おなかと右腕を貫いた電気の槍が僕の体を焼く。強引に『インヘイル』を強くして槍をなんとかかき消し、回復した。
しかし息つく間もなく魔王が剣で攻撃してくる。ヴォンと明らかに空を切る音ではない音を発しながら斬りかかってきた黒い刃は、僕の上半身を簡単に吹き飛ばした。
「うわお……」
すぐに自動で回復して飛びのく。
「服も自動で回復するんだね」
「そりゃ、美少女が素っ裸ってのはダメでしょ」
跳んできた衝撃波をステップを踏むように躱す。これは魔法によって形作られているのではなく、剣を振るった衝撃で発生した物理現象なので『インヘイル』では消せない。
かっこよかったので僕も真似しようと剣を振るったが、衝撃波は出なかった。どうやらあの黒い剣がサポートしているみたいだ。
「『エクスプロージョン・ラグナロク』!」
「いいねいいね!」
魔王は『インヘイル』を使わず、飛びのいて爆発を避ける。
ならばと同時に複数の『エクスプロージョン・ラグナロク』で魔王を囲むように攻撃すると、魔王はなんと魔法を斬り裂いてこちらへ向かってきた。それも黒い剣の能力だろうか。
「せいっ!」
黒い剣を僕の剣が弾く。魔王はにいっと笑みを深めると玉座の近くへ飛び退き、剣を構えなおした。
「お前の魔法もたくさん見せてもらったし、こちらも見せねば不作法かな?」
「使わないでくれてもいいんだけど」
「あいにく縛りプレイは苦手でね。『アース・イーター』!」
魔王が魔法を発動すると、ぐわっとその背後に黒いオーラのようなものが現れる。魔力で構成されたその黒い塊は、大きな口をひとつだけ持っていた。……なんか深海にいそうなやつだ。
「さあ、本気を見せてやろう!」
魔王が再び斬りこんでくる。大きな口を持つやつは魔王とは独立した生物のように僕へ噛みついてこようとする。……嫌な予感だ、食べられちゃいけないぞ、これは。
ふつうに攻撃は通じるようなので槍で大口野郎を貫き動きを押しとどめつつ、魔王の攻撃を防ぎ、反撃する。
「なかなか食べさせてくれないな。野生の勘かい?」
「まあ、そんなところかな!」
野生じゃないけど。全然野生じゃないけど。
「おりゃっ!」
魔王の首筋めがけて剣を振る。あれ、防がない? なら、斬れる――
「ぐっ!?」
右足に鋭い痛みが走り、剣を振る手が止まる。その隙を魔王は見逃さずに僕を地面へ叩き落とした。追って、右足の膝あたりへ激しい熱か何かを感じる。
僕はテレポート魔法で瞬時に少し離れた。そして、
「あれ……!?」
右足が、膝から下がない。どういうことだ、と思ったけど、どうやらあの大口野郎に食われてしまったみたいだ。回復もできないみたいなので応急処置として、瞬時に鋼鉄製の義足を生成して嵌めるもののあんまりしっくりこない。
大口野郎を操る魔王は「してやったり」といった感じの笑みを湛えている。その表情だけは、なんだか子供みたいだ。
「『アース・イーター』は、こいつが食べた相手の能力を奪う魔法。完全に強奪するのならすべてを喰らい尽くさなければいけないが、右足だけでもかなり不利だろう?」
……なるほど、義足の調整が難しいのはそのせいか。僕のコピーしたいろいろな魔法が、すべて精密性や威力が減ったと考えていいらしい。
「あれ……?」
そして『アース・イーター』はコピーできていなかった。どういうこと……?
「コピーができていないのかい? それは……そうだな。魔王という存在が、神に近いから……だろうね。お前のような存在では、この強大な魔法を支配するのに必要な『格』が足りないというわけかな」
な、何だってー……。
そして瞬時に斬りかかってきた魔王に僕は反応を返せず、吹っ飛ばされる。うわ、しっぽもかじられたし。
隅に追いやられつつも、剣を構えて魔王の漆黒の剣を防ごうとするが、先ほどと同じようにはいかなかった。魔王が本気を出してきたのか、それとも僕が思った以上に動揺しているのか。すくなくとも、このままでは負けてしまう。
「ええい『トレイン・レイン』!」
隅に追いつめられると吹っ飛んで逃げることもできず即死コンボになってしまうため、なんとか脱出しようとする。
「『トレイン・レイン』」
「わわっ!?」
しかし魔王が同じ魔法を反対方向に使ったため僕は押し戻されてしまった。『アース・イーター』で食べた僕の魔法を奪って使ったわけか。これまでコピーしてきた魔王軍やらなんやらの魔法も相手にわたってしまったらしい。
どうしよう。大口野郎はギリギリ封じているけど、本当にギリギリだ。少し間違えば、いや間違わなくても丸飲みされてしまう。
そう僕が激しい焦りを感じていた時。
「入れないよ! これじゃ渡せないじゃん!?」
「なら投げるしかないだろ!」
勇者たちの声が謁見の間の入口付近から響き――大きくカーブを描いて飛んできた黒い何かが、僕の頭に突き刺さった。
なんだろ、これ。レコードかな……? でも、頭に半分くらい刺さっているのに痛みや不快感は何もない。
「っ……」
魔王がこれを警戒したらしく、警戒して距離を取る。
とりあえず、このレコードをぐいっと手で押して、頭の中に完全に押し込んだ。それと同時に脳内へ大量の情報が流れてくる。これは『フィーバー・アンド・フレンズィー』に似ている……でも、もっと温かい。ラリルくんかな? ラリルくんの助けだろうか。
「……うん。理解したよ。ありがとう、みんな」
ラリルくんは……魔法を託してくれたんだね。これまで教えてくれなかった魔法の名前と使い方をこのレコードに刻んで、僕に届けてくれたらしい。
「『オール・アバウト・イット』! 僕に『平常時の僕の平均』を適用する!」
義足を取り外す。同時に、食われたはずの足としっぽが再生し、僕の体に力がみなぎってきた。奪われた魔法も戻ってきて、魔王が目を見開いて驚いている。
「さあ、反撃だ!」
地を蹴って飛び出し、魔王へ斬りかかる。魔王は大剣ではじこうとするが、
「『インペリアル・コート』っ! 斬り裂けぇええええっ!」
豆腐を切断するように大剣が真っ二つになった。なあに、魔法で修復するくらい簡単にできるさ!
「っ!? なんだその魔法は!?」
狼狽える魔王へ、全力で剣を振るう!
「『オール・アバウト・イット』! ラリルくんが僕に託してくれた、魔法だあああああああああっ!」
残像を残して剣が空を切り――魔王の体が首と別れ、地へ倒れた。




