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DDS ~竜殺しとパートナー~  作者: MK
一章 幼竜殺し
11/33

2-4,5 キメラと事件




――十二年前


「×××君、本日の食事だ」

「はい。食べるよ」


 隣にいた自分のパートナーに許可を出した。×××の脇のあたりまで背丈が伸びたキメラは、牙をむき出しにする。

 目の前には本日の生贄。翼の折れまがった鳥型のパートナー。

 生贄を前にして、やることは一つ。

 ばりばりぐちゃぐちゃごくごく。

 骨を砕き、肉を咀嚼し、血を嚥下する。

 もう手慣れたもので、この程度の大きさなら、私とキメラの二人で十分もかからない。

 今回は七分で済ませられた。

 予め用意してあったタオルでキメラの口をぬぐった後、自分の口元と手を綺麗にする。


 汚れたタオルをどうしようか迷っていると、キメラに変化が訪れた。

 背中がばきばきと音を立てながら割れ目を作る。中からは血みどろの肉の塊が出てきて、二つに広がった。

 そのまま大きく伸びていき、扇のような形を描きだす。それは今食べたばかりの鳥の翼に似ていた。食べた相手の能力を奪ったのだ。質量すら変化させる驚愕の能力だが、もう見慣れたもので、ただの日常と化している。


「それでは、これで終了でいいですね」

「ああ」


 キメラの背中に再び割れ目ができ、中に翼が戻っていく。バキバキバキと音をたててはいるが、その顔に苦痛の様子はなく、もう慣れきったものという感じだ。最初の十度目まではキメラの能力に戸惑ったが、今はもうどうとも思わない。ただそうあるだけだ。


 あっさりと翼は背中に収納され、割れ目が閉じる。手にしたタオルで軽く拭うと、そこにはもう傷口すらなかった。キメラは、手に入れた能力をこうして収納し、自由にコントロールできるのだ。

 タオルを手にしたまま出口に向かったところ、『おじさん』の声が聞こえてきた。


「おつかれさま」


 『おじさん』の声は、嘲笑の色を帯びていた。




 初めてこの施設に連れてこられてから、三年が経っていた。

 キメラは勿論のこと、心なしか×××の背丈も伸び、年月は順調に経過しているのが実感できる。三年間、全く施設外に出たことのないキメラでも年をとっているようだ。

 『食事』を終え、殺風景な施設の廊下を歩いていると、『おじさん』から声をかけられた。


「×××君、今日の講義はまた後日でいいかね? 少し用事があってな」


 作り笑いを浮かべて答える。


「いつも教えていただけているだけ有難いです。正直なところ、私も丁度仕事が溜まっておりましたし」


 ×××はこの施設内で、他の『実験動物』の一部を任せられるようになっていた。従順に従いつづけてきた結果、ある程度の信頼を得ることができたからだ。同じ『実験動物』の身ながら、×××はそれなりの自由と教育を受けられており、言うなれば、牢名主といった扱いだ。

 どうやら今日の講義はないらしい。知識を得るのは食事の次の楽しみなのだが、仕方がない。

 あらがっても何も好転しない。それなら尻尾を振った方がマシだ。


 『おじさん』は、形だけ取り繕った謝罪を述べた後、走って正面の大きい出口から出ていった。

 ×××もそちらに用があるので向かうと、出口のドアをあけたところで『おじさん』と同僚が話しているのが聞こえてきた。直角に曲がった角の先にいるのか、姿は見えない。


「そういや、×××に色々教えてるみたいだけど、大丈夫?」


 『おじさん』は豪快に笑いながら言った。


「ああ。でも大丈夫。パートナー喰いにまともな生活ができると思うか? あいつらは外に出てもいずれ耐えきれなくなり、襲いだすさ。そんな自覚もあるのか、抵抗する素振りもない」

「けど、闇討ちの方法だったり、戦術とか教えたりするのは流石に危なくないか? お前が被害者になっても知らんぞ」

「大丈夫だった。それにな」


 見えなかったが、『おじさん』の醜悪な笑みが頭に浮かんだ。なんとなくわかる。


「無抵抗なのも面白みがないだろう? 希望を持たせた方が、絶望も深くなるってもんだ。色んな事を知れば知るほど、自分の境遇に自覚が出る。そうした姿は、どうしようもなくみじめだと思わないか? ただ淡々と動くモルモットより、苦悩する姿の方がそそるもんがあるだろう? 不死鳥を食って臓腑を燃えあがらせていた時の顔なんて、最高だったぞ」

「相変わらずの悪趣味だな」


 ガハハという笑いが遠のいていく。その場を離れていったのだろう。

 そのままその場に立っていると、角の先から若い男が歩いてきた。おそらく、おじさんの話相手であった彼は、×××の姿を見ると、ぎょっと身体を強張らせたのが見えた。


 ×××は作り笑いを浮かべ会釈した。顔を上げると、若い男の表情は凍ったままだったが、何も言わずに隣を通り過ぎていく。

 先の角を曲がり、先程まで『おじさん』達がいたであろう廊下を歩く。

途中で△△△が身体を擦りつけてきたが、軽く首元を撫でるだけで済ませた。

こんなことは驚くまでもないし、悲しむことではない。

この場から逃げられるとも、キメラの宿命を避けられるとも、自分達がまともな扱いを受けられるとも、思っていない。

 自分達は実験動物であり、キメラなのだから。




 今日は『新入生』が来るらしい。

 時折、新たな『実験動物』が増えることがあるのだが、×××はそうした新入生の世話も任せられている。

 『おじさん』からの情報によると、新たな新入生のパートナーは×××と同じキメラだとのこと。パートナーが生まれた瞬間、捕まえてきたのも同じ境遇だと言われた。名前は□□□というらしい。


 ただ、それを聞いたところで×××のやるべきことは何も変わらない。


 時間の五分前になり、指定された部屋に向かう。真っ白な廊下をいくつか過ぎて着いた先は×××が二年前に連れてこられた部屋だった。

 一分前に到着、そのままその場で待つ。廊下を挟んだ先にはシャワー室があり、そこには着替えや大量のタオルが置いてある。×××の役目は、血まみれになることも少なくない『新入生』の身づくろいを補助することだ。


 突然、ドアが開いた。廊下側からはドアが付いているが、中からは隠しドアになっているのを経験からわかっていた。

 出てきたのは、ぱっと見少年か少女かわからないが、十二歳にしては大人びて見えた。

 全身血まみれで、顔の表情もどこか虚ろだ。

 足元にはパートナーと思しきキメラ。犬をベースに、背中にこうもりのような羽、尾が二股の身なりだった。

 とりあえず、話かけてみる。


「大丈夫? とりあえず、身体綺麗にしようか。そこシャワー室だから、中に入ろう」


 反応がない。足元にいる□□□のキメラはなにやらこちらを睨み、唸りはじめ、敵対心を露わにしていた。脇に控えていた×××のキメラも、威嚇するように唸り始める。

 □□□が、動いた。

 いきなり飛びかかってきたのだ。

 奇声を上げながら×××に迫り、足元のキメラも狙ってきている。

 ×××はキメラを無視して、するりと身をくねらして避けた。□□□が反対側の壁に頭から突っ込み、鈍い音を立てたところに、首筋に手刀。おじさんの講義の一貫として武道も習っており、その中でこれも教わったのだが、×××の成功率はそれほど高くない。

 それでもなんとかなったらしく、壁からずるりと落ちて行き、地面に突っ伏した。


 ふっと息をついたところ、悲鳴のようなものが聞こえてきた。音のした方をむくと、×××のキメラがもう一体のキメラを締めあげているところだった。尻尾の蛇が身体にまきつき拘束していた。蛇の部分から赤く長い舌のようなものが出し入れされている。

 □□□とそのパートナーの無様な姿を見て、×××はため息をついた。




「はい、ココアでよかった?」

「すみません」


 温かいココアを手渡すと、□□□は申し訳なさそうに身を縮めて受け取った。


 あの後、まだ気を失ったままの□□□をシャワーにぶちこみ、服を脱がせ、綺麗にした。同性なのが幸いした。

 その後、気を失ったままの□□□の身体の湿り気を拭いとり、多少てこずりながらも服を着せ、談話室に連れていった。

 その間、□□□の小さなキメラは×××の大きなキメラが拘束したままだった。

 談話室に寝かせて数分たったころ、□□□は目を覚ました。再度襲い掛かってはこなかったが、警戒しているのは明らかだった。当然だ。狼狽しているようにも見えた。

 それが無くなったのは、□□□が×××のキメラに気付いたときだ。そこからは割と素直に応対し始めたのは、ある種の仲間意識が芽生えたからだろう。同じ『キメラ使い』に。

 そこで、小さなキメラを解放し、□□□に渡した後、一通り状況を説明した。説明を終えて、ふと飲み物を出していないことに気付き、買って渡した、というわけだ。


 □□□は黙ってココアを飲んでいる。心なしかほっとしているように見えた。


「何か質問ある? できることなら答えるけど」

「あの、なんでもいいですか?」

「答えられることなら」

「あの、その、貴方の生い立ちを聞きたいんですけど」


 意表を突かれた質問だったが、別にいいと思い、なんでも答えた。微妙に忘れている部分もあったが、□□□はまあ満足したようだった。

 ×××が語り終えると、代わって□□□が話し始めた。

 □□□の場合は、孤児だったらしく、一人で十二歳の誕生日を迎えたとのこと。そこで生まれたのがキメラで、すぐに昏倒させられて今に至ると。

 それだけでなく、自身の生い立ちに関しても話は及んだ。五歳の時に両親を亡くし、施設へ。施設の暮らしは随分辛いものだったらしいが、明るく語った。


 一通り話終えたところで、□□□は言った。


「僕達、仲間ですよね? 境遇も似てますし、パートナーも同じで」


 そうだね、と×××は答えた。確かに少し親近感が湧いてきたところだ。自分の境遇を話したのも、仲間意識を強化したかったからかもしれない、と思い始めた。


「僕、この後どうなるんですか?」

「多分、私と同じだろうね。色んな魔物やらパートナー喰わされて、能力手に入れて、データ取られて。おとなしくしてれば手荒くされないし、それなりに自由も与えられるから、そう悲観することもないよ。ここを出ることはできないけど。私の場合だとそんな感じ」


 □□□は考え込んだ後、尋ねてきた。


「外に出る可能性はないんですか?」

「できない。私の場合、戸籍も死亡扱いにされてるしね。□□□はまだなってないだろうけど、それも手続きだけの問題だから」

「そうですか……」


 この施設内でその手続きの一端が行われることを×××は知っていた。流石にその仕事が回ってくることはなかったが、『おじさん』に聞いたことがある。なんでも、その書類を提出したら、属している組織が手続きしてくれるらしい。その書類の提出は、週末にまとめてやるとも言っていた。

 □□□は再び考え込みはじめた。×××が手にしたココアを飲み終えたころになって、ようやく口を開いた。


「あの、僕の服どうしました?」

「ここにあるよ。はい」


 血まみれになった服を渡す。

 自分の起こした惨劇を思い出したのか、身体をビクつかせながら受け取ると、中を探り始めた。上着の内ポケットに手を突っ込み、そこからなにやら取り出す。

 それは□□□のIDカードだった。本人の名前と性別、生年月日、そしてパートナーの名前が書かれており、自分の戸籍を証明するものだ。


「これ、持っててもらえませんか? もう何の役割も果たせませんが、それでも持っていてほしいんです」


 象徴みたいなものだろう。相手に自分が存在した証明を持ってもらうことで、相手との絆を深めると同時に、仲間意識も強固なものにする。

 会ったばかりの自分にそこまで仲間意識を持つのはどうかと思ったが、これからの生活が不安で、仲間を作りたいのだろう。同じキメラ使いであることも、それを助長している。

 まあ、落ち着いたころに返せばいいかと思い、受けとってポケットの中に突っ込んだ。□□□は嬉しそうに顔をほころばせた。


「そういえば、まだ名前つけてありませんでしたね。×××さんのキメラは、なんて名前なんですか?」

「付けてない」


 今に至っても、自分のパートナーに名前を付けていないのは自分位だろう。なんとなく付けるのが面倒で、それを求められることもなかったため、なあなあで済ませてきた結果、×××のパートナーは無名のままになっている。

 それを聞いて、□□□は憤慨した。


「そんなのかわいそうですよ! 付けてあげましょう! 僕なんて生まれる前から決めていたのに」

「生まれる前から決めてたの?」


 えへへ、と照れながら、□□□は言ってきた。


「はい! 実はIDカードにもう書いちゃってるんです。待ちきれなくて」


 呆れたが、自分が淡泊なだけか、とも思った。

 これを機に名前をつけるのもいいかもしれない。

 自分のパートナーを見る。

 キメラだ。

 キメラに、名前などいるのだろうか?


 その時、突然怒号が鳴り響いた。

 同時に警報。電灯が赤い緊急用のものに変わった。


「あれ!? なんですかこれ!?」


 □□□の困惑する声が聞こえてきたが、それは×××も同じだ。

 避難経路がぱっと思いつかず、壁にかかった案内板に目をやった瞬間。

 何かが崩れる音がした。

 首筋に衝撃が走り、続いて全身が叩かれる。

 意識はあっさりと無くなった。




 頬に冷たい感触がして、手を伸ばした。

 そこにいたのは自分のキメラ。目を覚まさせようと頬を舐めていたようだ。

 起き上って目に移った光景は、悲惨だった。

 ところどころ怪しい炎が立ち上り、形のあるものは全て壊れている。炎に焼かれてパチパチと弾ける音がしていた。炎以外に動く影は見当たらない。


 随分と呆けた後、ふと自分の身体を見回してみた。至る所から出血し、どこが痛いのか分からない位痛覚が悲鳴を上げていたが、ぱっと見てわかる重い傷はない。

 なぜ、自分だけ無事なのか。

 はっと気付き、キメラを見てみると、全身血まみれだった。特に背中の傷は酷い。おそらく自分を庇った時の傷だろう。能力を出し入れするときに見せる、異常な復元力でも回復しきれていない。


「大丈夫?」


 キメラはクゥーンと鳴いた。その声は悲痛なものが籠っていたが、声そのものに濁りはない。×××に纏わりついているのだが、その動きも健康そのものといった感じだ。知らない内に、随分と強くなっていたようだ。


 ひとまず立ち上がり、空を見上げてみた。

 三年ぶりの夜空は、こんなときながら美しいと思った。


――これから、どうするか。

 外に出たところで、自分の戸籍はもうない。戸籍がない人がどうやって暮らしていくかなんて、全くわからないし、もし自分の戸籍が残っていたとしても、再び連れ戻されるのはわかっている。キメラ使いなのだから。


――どうしようもない。


 とりあえずその場を離れようと瓦礫の上に足をかけると、そこに、小さなキメラの姿があった。腹が裂かれ、目は白く濁っている。死んでいるのは明らかだ。

 となると、□□□も死んだはずだ。パートナーと人は、命を共有している。

 ほんの数時間だけの関係でしかなかったが、仲間のことを思う。最後のほうは随分と人懐っこい顔をしていた。


 そこでふと思い出し、ポケットを探る。

 そこには、□□□のIDカードがあった。



ごめんなさい、△△△とか呼ばせてたのに、キメラに名前つけてないとか言ってました。まじアホでした……ハア

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