3-0 幼竜殺し?
「なんだあれは! クズに負ける竜など、竜ではない! とんだ無駄足ではないか!」
ハンス=バーレは憤慨していた。
わざわざ全国七位の実力を持つ彼が足を運んだというのに、そこにいたのは竜と名乗るのもおこがましいクズと、そのクズに負けるただの木偶の坊だったからだ。
会場で木偶の坊が暴走したところで落胆し、その場を離れようとパートナーの背に乗ったはいいが、いざ飛び上がって見えたのは、人に昏倒させられる木偶の坊の姿。
竜が人に負けるなど、あってはならない。名目上、相手が竜使いであったとはいえ、パートナーは竜とは名ばかりのE級生物である。そんなものは竜使いとは呼べない。
またがった己のパートナーに視線を合わせた。
ハンスが乗ってもびくともせず、空を悠々と飛ぶ翼竜。全国七位の空戦能力を持つ竜。勇壮に翼をはためかせ、大空を駆ける王の中の王。
――これこそ竜なのだ。
あのような、雑種とは違う。あれは、全くの別物なのだ。
そう考えても憤りは収まらない。
忌々しさは増すばかりだ。
苛立ちを隠せずにいると、正面からなにやら飛行する物体が見えた。
よく見えないが、大きな翼ではばたいている。大きさは先程の木偶の坊と同じ位か、かなり大きめだ。
舌うちをして、喉を張り上げた。
「そこ! 道を開けよ! 我は竜であるぞ!」
正面の影は序々に大きくなっているが、まるで避ける様子がない。
なんたる不遜。
野良の魔物かとも思ったが、背中にはその主人と思しき姿がある。マントを全身に巻きつけており、顔どころか髪すらも見えないのだが、大きさや影の形からしておそらく人であろう。それも不遜な行為である。
――我は貴族であるぞ!?
そう叫ぼうと息を吸った時、気付いた。
正面のパートナーの異形な影。
その姿は竜のようでいて、竜ではない。ハンスにとって、竜使いにとって最も唾棄すべき存在。
ハンスは幼竜殺しを思い出した。事前にもらっていた情報と、なによりハンスの勘がささやいた。
――やつだ。
無意識のうちにハンスの口元が歪んだ。
これだ。
「我はハンス=バーレ! 貴様を誅滅せしめる竜使いの名だ!」
返答がないが、それに対して思う物は何もない。
こいつを殺す。それが竜たるものの役目である。
ハンスは、腰元の宝剣を抜き取り、相方たる翼竜、ミッヒに命じた。
「ミッヒ、やつを殺せ!」
足元で流れる景色が加速する。目の前の不埒者の姿がよく見える。
その背には、全身をマントのようなもので覆った、おそらく人の姿。
ハンスは宝剣を振り上げ、顔を喜色に染めた。
その瞬間、視界が赤い炎で包まれた。
炎が全身を舐める、と思った直後、足元がぐらつき身体の態勢が崩れる。同時に足場になっているパートナーも落下し始めるのが分かった。
なにかしくったか。
ちっと舌うちをして重心を下げ、パートナーの身体に張り付かせる。炎が周囲を満たしていたが、竜使いたるものこの程度の炎はぬるま湯にすぎない。
炎の嵐から抜け落ち、空が見えたと思ったら、そこに何か赤黒い液体が舞っていた。
なんだろう、と思い手を伸ばす。
冷たい感触がつき手を引っ込めようとしたとき、その手がぐらりとゆらめく。続いて嗅覚が、ゆらぎすぐに薄くなっていく。なんとか嗅ぎとったのは、妙な鉄臭さ。
赤黒い液体は血だ。
宙を舞っていた血液の量は、ハンスの身体を絞っても出てくる量ではない。
そしてそれは、自分の足元から出ている。
つまりミッヒがやられたのだ。そうなるとつまり自分の命も……
ハンスの意識はそこで消え失せた。




