2-4 竜との模擬戦
歩は薄暗い廊下を歩いていた。闘技場へと繋がる道の先から、光と熱狂が伝わってくる。
石床と靴がコツコツと音を立てている。一音奏でる度に、奥から届く光と歓声が強くなっていき、嫌が応にも緊張感を高まらせた。
肩口には、鼻から炎をもらしながら目をギラつかせているパートナーの姿。手垢のしみている棍棒を左手で握りしめ、鼓動の昂りを慰めるように息を吐いた。
「緊張しているのか?」
「少しね」
「良い塩梅だ。相応の張りを持たせて己を律せよ」
偉ぶった言葉だが、アーサーにとってはこれが激励なのだろう。これから苦手な竜と戦うというのに、アーサーには日頃との差異は見えない。いつものように胸を張っている。
頼もしく思いながらも、苦笑と共に返答した。
「お前も働けよ」
「応」
左足が、出口から差し込んでくる光の影を踏んだ。
一度息をすってから、一歩外に踏み出す。
踏み出た瞬間、全身を眩い光と怒号が包んだ。大気を震わせる振動は腹の底まで伝わり、内臓から気分を高まらせていく。ぎゅっと握りこんだ棍棒から、自分の鼓動が伝わってきた。
周囲を見渡すと、三百六十度観客がひしめきあっていた。ほとんどは学生だったが、一部ゆったりと座席が配置されたところで、見慣れぬ姿がある。おそらく貴賓席であろう席には、スーツやドレスといった、歩には馴染みのない服装ばかりが見えた。その中に先程の馬鹿貴族、ハンスの姿もあった。おそらくキヨモリの品定めが目的だろう。だれも、アーサーのことなど見ていないように思えた。
すっと正面を見据えると、そこには対戦相手の姿。
「少し遅いんじゃない?」
「主役は遅れるもんさ」
「覚悟を決める暇になったであろう? 負け惜しみの準備はできたか?」
「笑止ね」
アーサーは竜と対面しているというのに、余り変わりはない。それでアーサーが相当の覚悟を持ってここに挑んでいるのだとわかり、歩は負けられないと思った。
対戦相手を見る。
唯の姿は直前にあった時と変わりない。歩のものと似た戦闘服を身にまとい、装飾過多気味の剣を左手にだらりと垂らしていた。
その隣のキヨモリはというと、少し変わった姿だ。
四肢の爪に黒革のサポーターを付けるまではいいのだが、何故か身体をぐるぐる巻きにするようにも拘束具が付けられている。特に、翼はその下で折りたたまれ、それのせいかキヨモリは心なしか苛立っているように見えた。
歩の疑問を察してか、唯が説明を始めた。
「爪は勿論のこと、空を飛ぶことも禁止されたけど、ま、いいハンデじゃない?」
キヨモリを見やった。
これほどの巨躯が高速で空を駆け抜け、その力をぶつけてきたら、歩などミンチ状になってしまうだろう。それは確かに必要な措置だが、すこし悔しさも残る。
だが、気が楽になったのは事実だった。
ごくり、と唾を飲み込んだとき、拡声されて少しひび割れた担任の声が聞こえてきた。
「本日の最終戦を始めます。目、金的等急所は不可。悪質とこちらが判断した場合、没収試合となるので注意してください。時間は無制限、気絶、降参により勝敗を決します」
ルールは模擬戦とほぼ同じだ。
「両者、礼」
軽く頭を下げてから、すぐに上げた。
唯が数歩下がり、キヨモリが前に出てきた。苛立ちの混じった双眸が歩を捕えている。歩はそれを真っ向から受け止めると、腰を落とし両手で棍棒を構えた。
観客席との間に、膜のようなものが広がっていく。おそらく観客を守るためのもので、みゆきのパートナーである、イレイネと同タイプの能力持ちがやっているのだろう。
これで場が整った。
一息深く吸い込み、一気に吐いた。
アーサーが飛び上がる。
「それでは、始め!」
「キヨモリ、行け!」
先手はキヨモリ。巨体で地面を揺らし咆哮を上げながら、驚くべきほどの速度で迫ってくる。前傾姿勢で突っ込んでくると、黒革で包まれた右腕を単純に突き出してきた。勢いはすさまじく、正面から受け止めると、棍棒のほうが折れてしまいそうだ。
軽く屈みながら、歩もまた前進した。相手の左脇の横すれすれを通るように身体を流し、キヨモリの右腕だけでなく身体からも全身を避けさせる。さながら闘牛士のようにキヨモリをやり過ごし前に出ると、後方からはキヨモリがたてた轟音が響いてきた。
身体を半回転させて、キヨモリの様子を見る。
黒革を付けたはずの爪が地面に溝を掘りつけ、粉じんが巻き上がっていた。地面についた傷は、模擬戦で見たことがない深さだ。
やはり――竜。
段違いの力だ。
竜がこちらを向いた。ゆったりと身体を回転させるその姿は、思ったよりも鈍い。
――十分、つけ込む隙はある。
歩は、キヨモリが加速を付ける前に仕掛けた。勢いに乗られると、あの体重ではどうやっても力負けしてしまうし、歩の棍棒など弾かれてしまいそうだからだ。
ただし、逆に考えると速度がなければ、キヨモリの巨躯は重りとしてのデメリットが強い。
案の定、突っ込んだ歩への迎撃は遅かった。
振るわれた左の爪を屈んで避け、柄の部分で全霊の一撃を差し込んだ。
が。
まるで成果は上がらない。柄の先はほんの数ミリ程度しか入りこまず、キヨモリはただ苛立っているだけで、なんら痛痒に感じていない。ぶ厚い皮膚と筋肉が歩の棍棒を完全に上回っているのだ。
何事もなかったように、キヨモリはぐるりとその場で回転を始めた。
一瞬戸惑ったが、すぐに狙いがわかり棍棒を左半身に添えるように構えたのだが、その上から襲ってきた衝撃は予想以上だった。
振るわれたのは極太の尾。その太さ、しなやかさ、そして自重を使った遠心力による一撃は、四肢での一撃よりも上かもしれない。
なんとか棍棒を間にさし込んだのだが、威力は尋常ではなかった。
耐える間もないほど一瞬で、真横に弾き飛ばされてしまった。
すぐさま観客席との間に敷かれた膜に激突。膜が柔らかい分、衝撃は吸収されたのだが、それでも痛みで身体が動かせない。
わっと観客が湧くのが聞こえてきた。見世物になっている気分だ。
膜の上をずるりとすべりおち、全身で砂の味を分からされた。
くらくらしつつも身体を起こすと、仁王立ちするキヨモリの姿が見えた。向かって右には勝ち誇る唯の姿。
「降参しない? キヨモリはこれ以上手加減できないわよ」
つまり、精一杯の手加減をしてこれか。
――舐められている。
口に砂が入っているのも構わず、ギリと歯を噛んだ。
目前に刃、前傾視線のキヨモリ。目は真っ赤に燃えあがっており、今にもこちらに突っ込んできそうだ。
そんなパートナーに対し、唯はふとももの辺りを撫でながらなだめるように言った。
「飛べないのがそんなにストレス? ごめんね、我慢して」
キヨモリの苛立ちは飛べないのが原因か。自分はまるで関係ないのか。
歩は気合を入れるかのように腹から大声を出した。
「行くぞ」
「懲りないね」
すっと両足に力を込め、地を這うように駆ける。
応じるようにキヨモリが前に出てきた。唯は手を引き、後方に下がって行った。
歩の狙いはそこだ。
正面からキヨモリが迫り、歩もまた一直線に駆けるという、剣豪同士の真っ向勝負のような形。
それを歩はただのワンステップで変えた。
愚直なまでに真上から振り下ろされた爪をあっさり避けると、そのまま脇を駆け抜ける。
視線の先は、だらりと剣を下げたままの唯。驚きで目を見開いている。キヨモリに比べ、彼女のほうがまだやりやすいに決まっている。不意を突けば、勝負をつけられるかもしれない。それが狙いだ。
そのまま息をつかせぬよう、神速で棍棒を振るった。
が。
あっさり受け止められた。
両腕でしっかりと構えた剣で、真っ向から防がれたのだ。
力を込めるが、唯の持つ剣はすこしぶれるだけで、一方的には程遠い状態だ。歩と唯の力は拮抗していた。
「私も竜使いですから」
そうだ。人はパートナーとリンクしている。竜のパートナーたる唯に、相応の力が備わっていて当然なのだ。歩からしたら、戦闘に参加しないのが不思議なほどだ。
驚愕してしまったためか、意表をつかれ、さっと棍棒をいなされる。そのままたたらを踏んでしまい、隙を晒してしまったのだが、唯は仕掛けてこず二歩引いていった。
ただ、一言告げてきた。
「キヨモリ、ブレス」
咄嗟に身体を投げ出そうとしたが、遅かった。
「がっ」
背中の中央辺りを、強烈になにかが突き抜けた。再度宙の人となり、今度は地面に鋭角に突っ込む。右肩から突っ込んだのだが、砂利でがりがりと削られるのが伝わってくる。
勢いがおさまり身体を動かせるようになると、よろめきながら立ち上がる。手をついたときに、右肩から腕にかけてみえたのだが、手首の部分からだけ出血していた。戦闘服の堅牢さが有難かったが、晒されていた手首部分の皮は大部分がはげており、肉が見えていた。
ふっと視線を正面に向ける。キヨモリは大口を開けた態勢のまま固まっており、唯はその隣まで移動しているところだった。キヨモリの口からは薄く煙のようなものが立ち上り、そこからなにかが放たれたのがわかる。
「空気の圧縮弾はどうだった?」
答えられない。なんとか立ち上がりはしたのだが、息がうまくできないのだ。肺を衝撃が突き抜けたせいだろう、ヒューヒューとかすれた音しか出てこない。
――これが竜。
十分戦力になりうる唯は最小限しか動かず、あくまで基本は竜任せ。圧倒的な力を持つものはリスクを背負う必要はなく、ただ相手を受け止め、捻り潰すだけ。
最強であるが故にできる、最も安定して実力の差を決する戦い方だ。
片膝をついたままの歩に対し、唯が言った。
「降参は?」
歩は首を振る。
「仕方ない。キヨモリ、決めて」
再度キヨモリの突進。
再度同じ技。腕を振り上げ、振り下ろすだけのシンプルな一撃。
故に最強。
足が言うことをきかず、避けられそうにない。なんとか頭上で腕を交差し、せめてものクッションと化した。
肉がわなないた。受け止めた力はあっさり突き抜け、頭に、首に、腰に、足に、そして地面へと次々と伝播。地面が陥没した。
額より少し上の辺りが切れ、目の間をつうと血が流れていく。
なんとかその状態で持ちこたえた。竜の膂力を考えれば、それだけでも考えられない成果だ。
だがその状態から、竜が口を開けるのが見えた。
先のブレスを思い浮かべたが、避けようにも上から押さえつけられた形でなかなか動けそうにない。その上、なんとか真横にずれたところで、今の状態ではまともにバランスが取れるはずもなく、倒れ込んだところにキヨモリが迫って終了。
絶望が頭をよぎったとき、アーサーの声が聞こえてきた。
「歩、突っ込め!」
頭上からパートナーの声。
ほぼ反射で上へ張り詰めた力を抜き、身体を屈ませながらキヨモリ側に身体を倒す。
避けるのではなく、捨て身で己の全力を込める。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
全身を振り絞り、ただ前へ。上から身体を抑えつけていた圧力がなくなった瞬間、いままで経験したことがないほど、身体が加速した。歩を抑えつけていた力が、弦を引き絞った弓のように作用したのだ。
矢たる歩はただ前に突き抜けるだけ。
棍棒の先をキヨモリの腹につきたてる。先程の一撃はまるで効果がなかったが、今度はかなり奥まで入った。様々な要因が重なっての、会心の一撃だからだろう。
ブレスを放とうとしていたキヨモリの顎が上がるのが見えた。無防備に喉元が晒された。
この機を逃しては、歩に勝ち目などない。
キヨモリが後ずさったため、棍棒を支えているだけで腹から得物が抜けて、それをそのまま上に跳ね上げた。丁度喉の辺りにぶち当たった。
キヨモリの口を強制的に閉じられる。すると中で収縮していた暴風が荒れ狂い、口の中から目に見えるほどの風が漏れだした。
「ギャアアオオオオォォ!」
「キヨモリ!」
唯がはっきりとうろたえていた。こんなことは初めての経験なのかもしれない。なにしろ、この学校で唯一かつ特別の存在だったのだから。
更に追撃をかけようと、かなり無理をさせた全身にさらに鞭打とうとしたそのとき。
はっきりと、空気が凍るのがわかった。
「歩!」
アーサーの声が聞こえてきたのは、歩が弾き飛ばされて行くのとほぼ同時だった。
爪の先が腹にめり込み、会場を覆う膜に再び叩きつけられる。柔軟性のあるはずの膜が悲鳴をあげ、観客席に座った女子学生の目と鼻の先まで持って行かれた。
腹には相当の鈍痛。骨にヒビでも入っているのではないかという錯覚すら覚えた。いままでのキヨモリとはまるで違う。
膜が序々に収縮し、会場内に押し戻されて行く。砂地に滑り落ちていった。鈍痛がやまない腹に手を当てながらどうにか着地した。
前を向くと、そこには怒り狂ったキヨモリの姿。
その目には燃えあがるものが見え、ギラつき、明確な意思を歩に叩きつけてくる。
ばちん、と音がした。
その身体を拘束していた黒革が次々と弾かれて行く。バチバチバチバチと加速度的に音は増し、最後の一音が響いた後。
ばさ、と翼が広がった。
一気に会場が狭く感じてしまうようになった。
まさか、飛ぶ気か!?
「キヨモリ! だめ!」
唯の叫びは、キヨモリの羽音で消された。
二度、三度はばたくと、足が地を離れ、一気に飛び上がった。
上空で何度も旋回し、飛び回る。飛ぶ姿は、先程までのどこか鈍重な姿とは似つかわしくないほど、優雅でなめらかだ。膨大な質量を持つ生き物が自由自在に空を飛びまわるその姿は、種族の頂点にふさわしい。
これが……竜。
『竜は飛んでこそ竜』という、担任の言葉が脳裏をよぎった。
「歩!」
少しぼうっとしていると、アーサーの声が響いてきた。
そういえば、アーサーは大丈夫なのか? 勇壮なキヨモリの姿を見て、竜を苦手とするアーサーは気が気でないのではなかろうか。
そう思い、アーサーを見る。
「馬鹿者! 我でなく、やつを見ろ!」
むしろ闘志が燃え上がっているようだ。竜が苦手ではなかったのか。
だが、考えている暇はない。
疑問をよそに置きひとまず気を取り直すと、キヨモリの姿が近付いているのがわかる。
咄嗟に身体を転がしその場を離れると、数瞬前に自分がいたところから暴風が襲いかかってきた。
二度身体を回転させ、片膝をついて起き上り、自分のいたところを見ると、そこには三本の大きな溝が走っていた。溝だけでなく、表面の土が削り取られているのは、指が完全に地面をもぐりこみ、手のひらぎりぎりまで抉ったが故だろう。
背筋が凍った。
羽音を探る。音は上空からで、キヨモリはふたたび飛びまわっているのだろう。
先程から唯が叫んでいたが、聞こえていないのかまるで降りてくる気配がない。
上空で飛びまわるキレたキヨモリに、歩に何ができるのか。
「歩! 唯! 退け!」
雨竜の声が聞こえてきた。
同時に、キヨモリの身体に何かが巻きつくのが見えた。
「中止だ! ここは俺にまかせて退け! もうそこに着く!」
まきついている半透明の綱の先は、観客を守っていた膜。そこから伸びた綱はキヨモリの身体を次々と拘束していき、飛行に支障をきたし始めたキヨモリが墜落し始めた。
指示に従い歩は逃げようとした。その前にパートナーの姿を確認しようとしたところ、逃げ始める姿が確認できたのだが、地面の上に茫然と佇む唯の姿が見えた。
駆けよって腕を手に取る。唯は無抵抗で、完全に我を失っていた。
そのまま入口へと引っ張って行こうとしたとき。
咆哮が鳴り響いた。
「ウォォオオオオオオオオオオオオ!」
キヨモリが咆哮と共に、全身の筋肉を振動させるのが見えた。翼を展開させようとしているようだ。拘束していたはずの綱は一息で無残に散らばされ、ぼたぼたと砂地に水たまりのようなものを作った。
キヨモリは、そのまま滑空。進む先は歩の方。
「っ!」
咄嗟に唯を弾き飛ばし、巻き添えにせずにすんだのだが、歩はキヨモリの手に掴まれてしまった。
そのまま地面を削りながら、キヨモリは着地。背中で地面を抉りながら、歩は必死でこらえていた。
止まった時、完全に歩は磔にされていた。脇の下からしっかり掴まれており、びくともしない。
キヨモリの顔を見ると、瞳は自分に集中していた。口の中ではブレスの気泡。
完全に狙いは歩。
背中は地面で衝撃を抜けさせることもできず、拘束されたままで満足に動けない。
受けられるはずも、避けられるはずもない。
――あきらめるしかないのか。
唐突に響いたのは、アーサーの声。
「歩! 呆けるな! 前を見ろ!」
声がした方を向くと、アーサーが唯の顔の辺りで留まっていた。
唯はなにがなんだかわかっていないようで、眼が虚ろだ。アーサーは彼女を正面から見据えている。
何をしようとしているのか。
目端で、もう極大まで大きくなっているキヨモリのブレスが見えた。
もう時間はない。
アーサーは、いつものように響く低音の声で、いつになく慈愛のこもった口調で言った。
「平唯。耐えろ」
ぼわ、と炎が巻き起こった。
それはアーサーの口から出ており、それほどの力があったのかと驚いたが、それが唯に向かってのものだとわかると驚愕した。
唯の悲鳴が会場に響いた。
「きゃあぁ!」
キヨモリの力が緩んだ。これまでいくら唯が叫ぼうとも、届かなかったキヨモリが聞いたのか?
しかし、悲鳴が特別大きいわけではない。むしろキヨモリに向かって叫んでいたときのほうが、声量としては大きい。
そこで気付いた。
パートナーだ。唯の危機はキヨモリにつながり、キヨモリの危険は唯に繋がる。命が繋がっているからこそ、何よりも優先して届く声なのだ。
それで、キヨモリの注意が歩から消えた。
この機を逃してはならない。
棍棒を両手で握り、不自由な態勢から竜の手に見舞う。人差し指と中指の中間辺りには竜の急所がある。竜使いたる歩はそれを熟知していた。これ位密着して、じっくり狙えるのであれば、そこを正確に突くのが可能となる。
突いた途端、歩を拘束する力が抜けた。
すかさず棍棒を支点に抜けだすと、身体を起こし、態勢を立て直す。
腰を低く構え、両腕で棍棒を持ち、相手との間合いを測る。
万全の状態。
狙いは竜の首元。そこもまた急所だ。
「ウェアアアアアァァァァァ!」
的確に捉えた。
歩の巨人をも倒す一撃が正確に入った。竜の強固さは巨人を大きく上回るが、どうなるか。
ぼん、と何かが弾けるような音がした。
キヨモリの口にあった圧縮空気が抜けた音だった。
竜は声にならぬ声を上げ、倒れた。




