事実チヤホヤは望んでいるが
カロンナが行方不明になっても、時間は動くしやるべきことはやるべきこと。マグシットたちは与えられた課題をこなす日々を送っていた。
ウォーエズ子爵令息としては、自分の迷惑にならなければどこで何やってても構わないが、身内はそうではない。事実彼の自宅にも、ピピエ男爵が押しかけてきたことがあった。
なんでとも思ったが、意味不明の高揚と全能感が剥げ落ちた身としては、むしろ今まで来訪しなかったのが不思議であった。
カロンナのことだ。マグシットとのことを尾ひれをつけてしゃべり、ともすれば恋人扱いしていてもうなずけるので。
ウォーエズ子爵とその息子が対面したが、ピピエ男爵はこちらが気の毒になるくらい低姿勢だった。どうやらホリーネアとの婚約解消について、思いの外責任を抱いていた模様。
いや、危機かとマグシットは考え直す。
ピピエ男爵は元は農夫であったが、珍しい果物の栽培に成功して男爵位を得たのだ。目新しい果物だとしても、腐ったり虫に食われたら売り物にならないし、世間で目を引く作物がバカ売れしても、一過性なら意味はない。
それに、身も蓋もなく表現するなら、ピピエ男爵家はぽっと出の新興貴族。ウォーエズ子爵家やゲネラベディ伯爵家のような、歴史があってあちこちに顔がきく家ではないのだ。
ピピエ男爵はウォーエズ子爵家に詫びた上で、訊いてきた。
カロンナの行き先に心当たりはないか、と。
マグシットとしては全然理解が及ばないが、微かに頭に浮かんだものがあった。
平民呼ばわりした冒険者のことである。
まさか、とは思う。だが言わないよりはマシかと思い、話してみた。
マグシットとカロンナが自宅謹慎になった件と、後日談について。
ピピエ男爵家は雷に打たれた如く静止した。
しゃべる最中、ウォーエズ子爵令息も自らの内で練り上がった説を消せなかった。
カロンナのことだから、あの冒険者に文句を言おうとして、冒険者ギルドに向かうのは明白だ。
マグシットには実感がわかないが、そこに容姿やら何やらで優れた男もいるはず。
だとしたら、お目当ての異性にアプローチするのは容易に想像がつく。
そうでなくても、責任転嫁の対象を探す可能性は高い。
制御されなかったがために、つい口舌を動かしていた。
「-ー口を慎め、マグシット」
父親であるゲーンに叱られるまで。
「ピピエ男爵、儂は別にマグシットがホリーネア嬢に婚約解消を突きつけた原因が貴殿の娘にあるやもしれぬが、それだけでないこともわかっている。ゲネラベディ家の判断にウォーエズ子爵家が口を出すことはできないしな。貴殿は娘の行方を掴むことを第一に考えたらどうだ? 冒険者としてやっていくにしても、貴族の義務ではなく権利ばかり行使してきた娘がそう上手く行くと思えないからな」
ウォーエズ子爵に締めくくられ、ピピエ男爵は去っていった。
「-ーそういえば、マグシット。お前は冒険者になって一旗上げようとは思わないのか?」
「待ってください! 卒業まで待つって言ったじゃないですか!?」
青天の霹靂に等しいゲーンの質問に、マグシットは声を荒らげた。
「別に今放り出すと意味で言ったわけじゃない。お前のことだからもしかしたらと思っただけだ」
「へ……?」
あまりにも予想外の見解に、マグシットは間抜けな声を発する。
「いや、なんでそうなるんですか? 言っちゃなんですけど、騎士科を卒業したら王国騎士になれないにしても、私設騎士団の道もありますし、騎士爵があるのとないのでは違うじゃないですか」
つい息子は父に本音を漏らしていた。
もし冒険者として生きていくしかないにしても、取れるものは取っておきたい。
「ふむ……たわけた言動ではあるが、少なくとも自分の実力はわかっているようだな」
ゲーンは納得した様子。
「“チヤホヤされたい”なんて理由で冒険者になっても、お前には無理そうだからな」
父の付け足しに、内心ドキリとした。
黒づくめ女子と銀髪褐色肌女子の秀でた容貌に、よからぬ妄想を企てた過去を振り返って。
事実チヤホヤは望んでいるが、マグシットだって自分をわきまえている。
まずは相応の力がなければ意味がない。




