それは婚約者がやってくれる。絶対に。
一ヶ月も経つと、カロンナ行方不明事件はすでに過去の出来事になっていた。
身内には悪いが、知り合いとしてはその程度の扱いだ。かつては友人ではあったが、すでに縁は切っているし。
「……そう言えば、知っているか? なんでもこのところ盗賊団が暴れまわっているんだそうだ」
夏の残滓も消え失せそうなある日、マナスがそんなことを告げた。
「盗賊団?」
マグシットは頓狂な声音で返した。
盗賊団。
国が孕む悩みの一つだ。
町を少し離れればいくらでも沸き出るし、規模はさまざま。小さければ冒険者パーティーで撃退できるだろうし、大きくても騎士団が動けばどうにかなるに違いない。
「騎士団が動けば潰せるんじゃないか?」
小石をウォーハンマーで砕くに近しい台詞と判じたが、つい胸裏を放ってしまった。
「それがその盗賊団の悪賢いところで、騎士団がなかなかいけないようなところを襲ったり、後ろ暗いところのある家を狙ったりするみたいなんだよ」
コヴァが声を潜めて付け足す。
-ー二人の与太話は、噂の域を出てはいない。でも、笑い飛ばすには不吉な要素を孕んでいた。
「それってこの一ヶ月辺りで、ってことか?」
ウォーエズ子爵令息の語調は、鉛より重く宵より暗かった。
「いや、そこまで詳しくは聞いてないって!」
ベイデス男爵令息は手を振って言った。
「そうか……」
マグシットはそう答えて黙り込む。
「もしかして、カロンナが親玉になって盗賊団率いてるとか考えてる?」
「ああ」
冗談の範囲と言わんばかりのオレント男爵令息とは対照的に、ウォーエズ子爵令息は本気をこめて短く断言した。
「俺の思い込みならそれでいいが、そうでなくても充分危険だからな」
逆に盗賊団とは無関係で、奴らを退治しようとして返り討ちにされる場合も思い浮かんだが、それはそれで危険だ。
味を占めて、貴族だけに標的を絞られるなんて事態が引き起こされたら、大変の一言で終わらない。
マグシットはすぐさま教官の元に、職員室に向かった。
教官はウォーエズ子爵令息の唱えを一笑に附さず、じっくりと聞き込んでいた。
なんでも、その盗賊団がこちらに降りてきているのだとか。騎士の卵たちが夏合宿で使った宿舎を拠点にする見通しも高いとのこと。
マグシットの胸はざわめいた。その近辺には、カロンナの食指が動いた廃寺があるはずだ。
-ーダメだ、ダメだ。
偏見はよくないと理解するも、どう情報を捏ね回しても、ピピエ男爵令嬢が関与しているとしか結び付かない。
整理できない頭を頸の上でもて余し、教室に戻る。
「ホリーネア様には伝えるか?」
マナスの質問に、
「俺が伝えることじゃない」
マグシットはためらいなく告げた。
それは婚約者がやってくれる。絶対に。
へイルムはホリーネアを愛しているから。




