あいつは馬鹿か? マゾか?
-ーマグシットが教官に告げた説が作用したわけではなかろうが、盗賊団は壊滅した。
ウォーエズ子爵令息の危惧は見事的中し、カロンナも所属していた。こともあろうに、地位は首領。
団員は二十人ほどであり、全員が男で、大半が冒険者ギルドを除名されたならず者。ピピエ男爵令嬢は身分を隠していたそうだ。
なお、カロンナ本人は冒険者ギルドを除名される以前に、登録すらしていなかったとのこと。
冒険者としての職を得ておいて違反かまして除名されるのも愚かだが、選択肢を自分で消すような愚か者だとは思わなかった。
壊滅のきっかけは、欲。
野郎共を従え、あちこちの村やら屋敷やらを襲い、楽に入る戦利品やそれまでにない成功体験に酔いしれるカロンナ。リベンジの要求が鎌首をもたげた。
自分を捨てたマグシットと、原因となった二人の冒険者。どうせなら、この三人を一度に叩きのめしたい。そう目論んだピピエ男爵令嬢は考えた。
適当なところを襲って誰かを人質にとって、以上の三人の身元を交換するように交渉する。
以上の作戦を象ったが、問題はどこを選ぶべきか。
思案にくれていたところに、とある情報が入った。
マグシットを連れて、カロンナが行こうとした廃寺。そこには床の下に宝が隠されており、トレジャーハンターたちが一攫千金を狙って押し寄せている、と。
点を線で繋げられた。
あそこにモンスターがウヨウヨいたのも、それを倒そうとした冒険者たちが現れたのも。
モンスターは廃寺を侵入者から守る番犬代わりで、あの忌々しい女冒険者コンビは財宝を手に入れるためにいたのだと。
隠されたお宝。さらに仕返ししてやりたい女どもがいるかもしれない期待に、カロンナは胸を躍らせた。
部下たちを引き連れ、一心不乱に目的地に直行した首領。
でも、彼女たちが目にした光景は、予想外のものであった。
宗教関係でありながら、王都に建てられた教会とは違う、原色を使用した派手な外観の建造物はまあいい。王都周辺の人間には馴染みない宗教と聴いているから。
問題は、昼間だというのに人っ子一人いない上、何者かが踏み込んだ形跡が見られないのだ。噂を信じるならば、人間がその場で行動を起こした証が大なり小なり残るはずなのに。
それに、一ヶ月程前にモンスターと冒険者の大立ち回りを拝んだ女としては、動物の鳴き声すらしないのに違和感を覚えた。
皆で手分けして探索していたら、一人が変わったものを発見した。建物の入り口に縄がかけられ、札が貼られていたのだ。
ためらいなく除け、用意しておいたランプに火をつけ、中に入る。
カビと尿と他の何かが入り交じった臭気が、鼻腔を殴り付けた。
ハンカチで鼻と口を押さえても、目がシパシパする。刺激の限界を超えた瞳から、涙が溢れてきた。
だが、カロンナは見逃さなかった。ホコリやら何やらが積もった床に、足跡が残っているのを。
奥へ進む靴底スタンプをしるべに、脚を動かす盗賊団。
足跡は正体不明の像の脇で止まった。先には下に向かう階段が。
石造りのきざはしを降りていくと、それまでの悪臭が嘘のように、澄んだ大気に洗われた。
一番下に着いたカロンナたちを迎えたのは、大量の金貨や貴金属の類いであった。
歓声を上げてお宝を持ち去ろうとしたら、上から誰かの声が。
冗談じゃない。これは自分たちのものだ。
打って出ようと指示をしたカロンナだが、相手は狡猾の一言に尽きた。
何かが階段の上から転がってきた-ーと悟ったときには、すでに遅し。猛烈な眠気に蹂躙された。
再び目を覚ましたら、警邏隊の詰め所で尋問される羽目になった……といった次第である。
カロンナが口を割るやもしれないとピピエ男爵に頼まれ、彼女が囚われた牢に向かったマグシット。ピピエ男爵令嬢の長口上を聴き終え、本心を漏らすのをこらえた。
-ーあいつは馬鹿か? マゾか?
もちろんピピエ男爵の前では言わなかった。
愛娘が犯罪者に堕ちて平気な父親はいない。
マグシットは息子だが、ゲーンも同じだろう。
むしろぶん殴りそうだ。マグシットはつい右頬を押さえていた。




