いないことに心底安堵
一年後-ー
今年もまた、合宿が行われる。
だが、場所は変わった。
なんでも、とある高位貴族の所持していた別荘を、学園が買い取って改築したのだそうだ。
今まで使用していた合宿所から離れており、いろんな意味で安全である。
盗賊団の手下は強制労働所に収容されたが、カロンナは違う。修道院に身柄を引き渡されたのだとか。
辺境と呼ばれる場所でも、かなり過酷な地域に建設された修道院に。
修道女とは名ばかりの尼僧兵たちは、血の気が多いバーサーカーや対象がモンスターに移った殺人犯などの、戦闘力に長けて人間性がぶっ壊れた異常者ばかりと耳にしたことがある。
騎士としての教育を受けただけの元令嬢では、荷が重い通り越して発狂間違いなしだ。
“元”-ー
そう、カロンナは実家から勘当されてしまった。
もしあの時、自宅謹慎の最中訪れた彼女に会っていたら、何か変わっていただろうか。
マグシットは自嘲気味の笑みを漏らした。
変わっていたにしても、人生を棒に振るのは真っ平御免だ。
新たな合宿所での合宿一日目、教官からの説明によると特別講師が来るのだとか。
筋骨隆々で熊を倒せそうな大男だったらどうしよう……などと、不安が胸裏を満たす。
マグシットの内心を余所に、廊下と教室を繋ぐ扉が開かれ、何者かが入ってきた。
ウォーエズ子爵令息は息を呑んだ。
現れたのは、二人の女子。
一人は黒ずくめで笠を被ったスレンダー。
もう一人は褐色肌で銀髪のグラマー。
覚えている。自分とカロンナを助けてくれた冒険者だ。
「はじめまして、でもないか。前会った人もいるもんね。わたしはゴンシャン。姓はリグ、名はゴンシャン。よろしくね」
珍しい、とマグシットは思った。マグシットに限らず、周りの人間は、名乗るとき名前を先に言うため。
「ワタシはエージア。エージア・ビリングス。ゴンシャンとは違って、名前から先よ。よろしく」
エージアの名乗りは、聞き慣れたもの。
期待に満ちたざわめきが、教室内に反響する。
この場にカロンナがいたら、どんな反応をしていたか。いないことに心底安堵している自分がいた。
今回で完結です。ご笑覧いただきありがとうございました。




