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女友達に付き合ったら人生が暗転した  作者: 北見晶


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5/12

“今まですみませんでした。あなたの幸せを祈っています”


「どうしろって言うんだ……」

 自室にこもり、ベッドに潜り込んだマグシットは青息吐息を漏らした。

 まさかホリーネアが婚約解消に動くとは、考えもしなかった。

 自分に惚れていると思っていたのに……


「どうすればいいんだ……」

 今になってわかる。ホリーネアがどれだけ自分に対して心を砕いてくれたか。ただヘラヘラ笑って、何もしなかったカロンナとは大違いだ。


 学園を卒業するまでは、家に置いてやる-ー

 つまり、卒業したら放り出されるわけだ。

 もし婚約解消書を渡さなければ、自分は伯爵家に婿入りできて、安泰な生活が待っていたのに。


 だいたい父も父だ、とマグシットは口を小屋根型にする。

 父親が頼み込んで結んだと知っていたなら、こっちだってそれ相応の礼節を持って絆を深めていた。

 友人に何言われても無視していた。


 友人-ー

 ウォーエズ子爵令息は、一瞬、呼吸を忘れる。

 ホリーネアの悪口を言っていた彼ら、婚約者がいると聞いた覚えはない。

 全身から血の気が引いてきた。

 まさか……これを狙っていたか?


 カロンナをマグシットにぶつけて、ホリーネアと婚約を解消させたら、自分はゲネラベディ伯爵家に婿入りする。

 上記の作戦が当たれば、人生は平穏どころかバラ色だ。

 マグシットの周りにいるのは、同じ子爵令息もしくは格下の男爵令息。家を継げるかどうか、明言化された覚えはない。

 長男でなければ、騎士団に所属して騎士爵を得るか、平民に落ちるかの二択。ならば家付きの令嬢と婚約……なんて策略を練っても当然だ。

 婚約者を蹴落としてでも。


 マグシットは寝台から飛び上がった。

 自分は確めねばならぬ事柄がある。

 馬丁に頼み、ゲネラベディ伯爵家に向かった。



「一体何の用でしょうか?」

 元婚約者の屋敷に着いたマグシット、彼を迎えた侍女の声は氷より冷たかった。

「お嬢様はへイルム様と話をしております。どうか、お引き取りを」

「へイルム……?」

 ウォーエズ子爵令息の知らぬ名前である。

「失礼ですが、へイルム様の家名を教えていただけませんか?」

 侍女はわざとらしく肩をすくめたが、はぐらかしも沈黙もしなかった。

「エスタリイ公爵家の三男ですよ」


 公爵家の三男。

 マグシットの心に落ちてきた。同時に、清々しい風が胸裏に吹き抜ける。

 仲間と言いたくない輩がおいしい思いをする率が、格段に下がったため。

「そうですか」

 口元がやけに緩んできたが、引き締める。

「ゲネラベディ伯爵令嬢に伝えてください。“今まですみませんでした。あなたの幸せを祈っています”と」


 名残を惜しまず、馬車に乗るウォーエズ子爵令息。

 すぐさま乗り物は走り出した。



 自分が何をするべきかは定かでない。なれど、じっとしてはいられなかった。


 手間と時間がもったいなかったが、マグシットは自宅に帰ってきた。本当なら直接学園の訓練所に向かいたかったが、訓練着と模擬刀を用意していなかったので。


 目的地に着くと、誰もいない。

 孤独と言えば孤独だが、今のマグシットにはありがたかった。

 黙々と素振りを続ける。

 しばらく愚直に回数を重ねてきたら、肩と腕、そして足腰がきつくなってきた。疲労に白旗を上げ、座り込む。

 それでもたまらず、両腕を投げ出し、両足を開いて寝転がった。


 夏の空は、どこまでも澄んでいる。雲一つない蒼のキャンバスだ。

 神様がマグシットの影を掴んで貼りつけたら、溶けて消えるのでは。

 与太話めいた夢想を胸に、目を閉じる。

 風が静かに頬を撫でた。



 





 

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