◇第9話 【side 梁取湧人】
「親の援助は無いのか? 貯金は?」
「成人した息子に援助なんてしてくれませんよ。そもそも援助が出来るような生活状況だったら、大学の入学金を払ってくれたでしょうし。それにフリーターの稼ぎでは貯金なんか出来ません」
「そうだよなあ。でもスキマバイトは困るんだよ。俺と同じ顔なんだから」
「ちなみに湧人君はどうやって稼いでるんですか?」
ここで「アイドル活動で」と言えたらカッコよかったのだが、そうではない。宮坂相手に見栄を張る必要は無いから、正直に話してしまおう。それに嘘を吐いても、俺のファンである宮坂には、俺の出演スケジュールを把握されているだろうから、稼げていないことがバレバレだ。
「俺は基本的に、依頼されたイラストを描いて稼いでる感じだな。これなら顔バレする心配が無い」
「湧人君、イラストが描けるんですか?」
「公表はしてないがな。絵のタッチで、梁取湧人がイラストで稼いでるってバレたら嫌だし」
もちろんイラストレーターや漫画家ほど絵が上手いわけではないが、それでも依頼が来るレベルのものは描けている。プロと比べると質が劣る分、料金を安く設定していることも依頼が来る理由だろう。
主なイラスト依頼は、TRPGで使用するキャラクターの立ち絵を描いて欲しいというものだ。おかげでやたらと、剣を持った人間だの銃を持った人間だののイラストが上手くなってしまった。
「湧人君、絵が描けることをアイドルとしての売りにするつもりはないんですか?」
「言っただろ。バレたら嫌だって。ファンにはアイドル活動だけで食べてるって思われたいんだよ」
「湧人君ってプライドが高いですよね」
「プライドもあるが、夢を見せるアイドルが現実を見せちゃダメだからな」
偶像が泥臭い姿を見せてはいけない。
あえて泥臭い活動を見せて応援したくなる心理を突く戦略のアイドルもいるが、俺はその意見には賛同できない。
アイドルとは、芸能人とは、キラキラ輝く存在なのだから。
たとえ蓮の花のように、身体の大部分が泥にまみれていたとしても、観客に見せるのは美しい花の部分だけが良い。
それこそが、俺の目指すアイドルだ。
「武士は食わねど高楊枝というやつですね」
「まあな。それが俺の芸能人としての品格だ。アイドルを始める前から、俺はこの気持ちを貫いてきたんだ」
「そういうの、良いと思いますよ。譲れないものの無い人間は、薄っぺらく感じますから」
宮坂が、俺に向かって微笑んだ。
自分と同じ顔をした人間に微笑みかけられるのは奇妙な感覚だ。
「ただ、困りましたね。働けないと生活が出来なくなります」
「お前には俺みたいな、家で稼げる感じの特技は無いのか? SE的なことは出来ない?」
「出来ません。だから僕は外に出て働くしか方法が無いんです。衣食住が確保できなくなりますから」
衣食住、か。
宮坂に衣食住を失われるのは、俺も困る。そんなことになったら、双子アイドルとしてやっていけない。
「……お前、俺の家で一緒に住む気はないか?」
気付くと俺は、そんな提案を口走っていた。
「ええっ!?」
当然、俺の提案に宮坂は唖然としている。それはそうだ。俺自身だって唖然としている。
しかし考えれば考えるほど、この案は良いような気がしてきた。
思わず口走った言葉だったが、なかなかのナイスアイディアだ、俺。
「同居するなら家賃がかからないし、情報のすり合わせも簡単だ。一緒に筋トレや台本の読み合わせも出来る」
「いえいえ。湧人君のお世話になるわけにはいきませんよ!? イラスト依頼だけで二人分の給料を得るのは難しいでしょうし!」
「俺を誰だと思ってる。子役時代のCMのおかげで、貯金はある!」
これは本当のことだ。とはいえ貯金を切り崩してばかりでは将来が心配だったため、イラストを描いて金銭を稼いでいたのだ。
「子役時代に稼いだお金をきちんと貯めておいてくれたんですか!? 良いお母さんだったんですね!?」
「厳しくはあったがな。いわゆるステージママだったから」
あまりの厳しさに子役を辞めようと思ったことは一度や二度ではない。しかし今となっては良い経験だったし、良い母親だった。
「……ってことだから、今週中に荷物をまとめて俺の家に持ってくること。異論は認めない!」
「あの、一つだけ聞いても良いですか?」
宮坂が手を上げながら質問をした。
「湧人君の家、ヤニは吸えますか?」
「吸えるわけないだろ!!」




