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因縁の相手と双子アイドルとして活動することになった件について  作者: 竹間単


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◇第8話 【side 梁取湧人】


「……こんな感じです、僕の歌は」


 歌い終わった宮坂に、俺は黙って拍手をした。下手な感想を言うと、せっかくの歌が陳腐になる気がしたからだ。


「え、拍手? ありがとうございます」


「お前に発声方法を教えようとか思っててごめん。釈迦に説法だったわ」


 先に宮坂に歌ってもらってよかった。発声方法を伝授してからこの歌を披露されていたら、一生の恥になるところだった。


「って言うか、お前なんでこんなに歌が上手いんだよ!? 俺と同じ顔なのに!!」


 羨ましすぎる。何をどうやったらこんな曲が歌えるようになるのだろう。その才能を半分、いや五分の一で良いから分けてほしい!


「歌に顔は関係ないと思います。それに、これは整形で作った顔ですし」


 宮坂が自身の顔を触りながらそう言った。

 一方で俺は、身体の内から湧き上がってくる笑みを抑えられなかった。


「……これは本格的にイケるかもしれないぞ」


 戦略を間違えなければ、イケる!

 もしもどちらかが歌う必要が出てきたら、宮坂が歌えばいい。踊る必要が出てきたら、俺が躍ればいい。完璧だ。


「歌を歌う場面ではお前が歌ってくれ。俺が口パクだったとしても、お前が生歌ならどうにかなるだろ。代わりに俺は踊るから!」


「双子キャラならデュエットさせられるんじゃないですか? 片方が口パクはそれこそ違和感があるような気がします。それに踊るとなったら二人で一緒に踊るのではないかと。詳しくは知りませんけど」


「まあその辺は演出の考えることだ。とにかくその歌は、オーディションで武器になる!」


 これで絶対に勝てる。もう勝っている姿が見える。


「そうですかね? ありがとうございます」


「ちなみにだが、お前はどこのボイトレに通ってるんだ? 俺もそこに行きたい」


「いえいえ。僕はただの一般人ですから、ボイストレーニングになんて縁がありませんよ」


 ボイストレーニング無しであの歌声かよ。なんだそれ。

 と言うか、こいつはヘビースモーカーだった。それであの歌だなんて信じられない。神様は不公平だ!


「一般人がそのレベルの歌を歌うなよ。全国の歌手が泣くぞ」


「あー、僕はボイトレには行ってませんけど、カラオケが趣味なのでよく歌ってはいますよ。だから何もせずにこの歌、というわけではないんです」


「……それ、ボイトレに行っても歌が上手くならない俺への嫌味か? それともフォローのつもりか?」


「今の、フォローになってました?」


「なってねえよ!」


 悔しさで顔を歪めながらツッコんだ。

 こんなに歌の上手い一般人は……あれ。一般人って何だっけ。宮坂は何をしている人だっけ。

 ふと宮坂のプライベートを何も知らないことに気付いた俺は、宮坂に質問をぶつけてみることにした。


「お前は普段、何をしてるんだ? 大学生なのか?」


「いいえ、フリーターでした。大学に通うお金は無かったので。事故を機に元の職場は辞めちゃいましたけどね。顔が変わってるので復帰できるわけもなく」


「ふーん。じゃあ今はどうやって稼いでるんだ?」


「スキマバイトですね」


 スキマバイト……隙間時間に数時間だけの仕事をするアルバイト。スキマバイトでやって来るアルバイトは、ロクに仕事が出来ないという話をよく聞く。それゆえにスキマバイトは底辺の人間がやるものだと言われがちだ。

 実際はきちんと仕事の出来る人も多数在籍しているのだろうが、ロクに仕事の出来ない人たちが足を引っ張ってスキマバイトの評判を下げているのが現状だ。

 だから宮坂自身の仕事が出来る出来ないは関係なく、スキマバイトをやっているというだけで良くない印象を持たれてしまう。そして今の宮坂は俺と同じ顔をしている。これは由々しき事態だ。


「お前さ、俺と同じ顔でスキマバイトはやめてくれよ。底辺みたいだろ」


「スキマバイトをしてるだけで底辺だと決めつけてくる人間の評価なんて気にする必要がありますかね? 職業によって底辺だの底辺じゃないだのと判断をするのは、馬鹿馬鹿しすぎる価値観ですよ」


「正論だが、現実は正しく出来てない。馬鹿馬鹿しい価値観で生きてる人間の方が多いくらいだ」


「悲しい時代に生まれましたね」


 もしかすると未来では、職業差別は無くなっているのかもしれない。しかし俺たちが生きているのは未来ではなく現代だ。職業差別が良くないことだとしても、街は良くない価値観で生きている人たちで溢れている。


「職業差別は良くないと俺も思うが、現代日本はそうなってる。だから俺と同じ顔でのスキマバイトはやめてくれ」


「そうは言われましても、働かないと食べていけませんから。正社員なら良いんですか?」


「これから一緒に双子アイドルをやろうって言ってるのに、就活しようとするなよ。アイドル活動が出来なくなるだろ」


「はあ。ではこの顔面を活かして、パパ活、ママ活をすれば良いんですか?」


「もっとダメに決まってるだろ!」


 冗談で言っているのか、本気なのか。

 俺と同じ顔でそんなことをするのは、何よりもダメだと分かるはずなのに。そんなもの、いくら今の俺に仕事が無いとはいえ、一応は芸能界に身を置いている以上、バレたら炎上は避けられない。




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