◇第7話 【side 梁取湧人】
煙草を吸いたがる宮坂を引っ張って、無理やりカラオケに入った。今日のところは最低限、宮坂の実力さえ分かれば十分だと思おう。本当は正しい発声方法も伝授したかったのだが、今日は諦めた方が良さそうだ。なぜなら宮坂があまりにもそわそわしているから。
宮坂の様子を見るに、彼はヘビースモーカーだったのだろう。それなのに初めて会ったときも今日も服に煙草の匂いが付いていなかったのは、彼なりに嫌煙家である俺に気を遣っていたのかもしれない。
これから一緒に双子アイドルとしてやっていくなら、何としてでも禁煙をさせなくてはならない。煙草を吸う俳優はたくさんいるが、俺に言わせればプロ意識が足りなさすぎる。芸能に携わる者にとって、喉は生命線だ。かすれた声しか出せなくなってしまったら、仕事を失くす可能性があるからだ。
まあ俺は喉を大切にしているが、仕事が無いけどな!
……自虐はやめておこう。虚しい気持ちになるだけだ。
「お前がこんなに帰りたがるんなら、レンタルスタジオで発声練習もしておけば良かったな」
宮坂と会話をしながら、カラオケの受付をする。その間も宮坂はそわそわし続けている。
「あの、湧人君。喫煙ルームには……」
「するわけないだろ」
俺は宮坂が言い終わる前に彼の意見を却下して、とっとと禁煙ルームで受付を済ませた。
個室に入るなり、宮坂にデンモクを渡した。今日は俺が歌う必要は無い。
「舞台のオーディションを目標にしてるのに、歌が必要なんですか?」
「お前、2,5次元舞台を観たことないだろ。歌う舞台がかなり多いんだぞ。2,5次元舞台だけじゃなくて、2,5次元ミュージカルも増えてきてるしな。双子アイドルとして成功したらオファーが来て、ミュージカルにも出ることになったりしてな」
「湧人君にミュージカルは無理なので、ミュージカルのことは考えなくて良いと思います」
だんだん宮坂による音痴イジリに、本格的に腹が立ってきた俺は、無言で宮坂の手の甲をつねった。
すると痛みを感じた宮坂がすぐに手を引っ込めた。そして俺のことをジトっとした目で見つめてきた。
「暴力反対」
「お前が余計なことを言うからだろ!?」
「僕はあり得ないことを考える時間が無駄だと言っただけです。湧人君に歌の仕事は無理ですから」
「お前って意外とズケズケ言うよな!? 俺だって傷付くんだからな!?」
俺が怒鳴ると、宮坂は我に返ったのかぺこぺこと頭を下げ始めた。
「すみません、すみません。ただこれは湧人君を貶してるわけではなくて、音痴というウィークポイントがより湧人君を魅力にしてるという意味で……あと時間は有限なので意味のあることに注ぎ込んだ方が良いかと思いまして……」
「ああもう、いいから。とりあえず歌ってみろよ」
俺は話を打ち切って、宮坂にマイクを手渡した。
まだ曲を入れていないが、マイクを渡されたら、とっとと歌うと思ってのことだ。
「では一曲だけ」
そう言って宮坂の入れた曲は、最近流行りのものだった。意外だったのは、女性歌手の曲だったことだ。しかもかなり難しい曲。最近の歌手は、一般人がカラオケで歌うことを考慮していない曲を出しがちだ。
「そんな曲、歌えるのかよ」
「まあ人並みには」
人並みレベルの人はそんな選曲をしないと思うが……別に良いか。とにかくお手並み拝見だ。
宮坂はマイクを口元へ持って行き、息を吸って……。
「上手っ!?!?」
思わず声が漏れてしまった。
だってあの難しい曲を、宮坂があまりにも軽々と歌うから。
えっ、何これ。どうやってこの高音を出しているんだ!? 低音だって安定しているし、テンポも少しもズレていない! それでいて機械的ではなく人間が歌っているゆえの息継ぎや強弱が効いている!
控えめに言って、プロ級だ!!




