◇第6話 【side 梁取湧人】
俺がはっきりそう告げると、ようやく察しの悪い宮坂にも理解が出来たようだ。
宮坂が納得した顔で頷いた。
「なるほど。原作キャラクターに似てる仕上がりを求める観客は、顔の違う二人の俳優を双子キャラにされるのは嫌かもしれませんね」
「そう。だからこそ本物の双子は強い」
俺たちは本物の双子ではないわけだが、顔がそっくりであることが重要だから今は置いておく。ありがたいことに宮坂は身長も俺と同じくらいだし。
「ミステリーはもちろん、それ以外でも双子の出てくる原作は多い。双子キャラは他のキャラたちと差別化が出来るからだろうな。だが、それに対して双子役のオーディションに応募する俳優は少ない。単純に双子が少ないからだ」
「確かにパイの奪い合いを考えると、双子は有利に働きそうですね」
「その通り。そして一度どこかの舞台に立ってしまえば、その後はオーディションすら要らない可能性がある。勝手に双子役のオファーが来るはずだからだ」
そうなれば俺たちの勝ちだ。舞台に立つごとに、次の役をもらうことが簡単になる。
「そんなに上手くいきますかね」
俺が明るい未来を想像してニヤけていると、宮坂が水を差してきた。
「最初のオーディションが難関だが、一度実績を作ればそのあとはトントン拍子にいく……って、お前、身体固いな!?」
ずっと見ていたが、宮坂はどんなストレッチをしてもぎこちない。相当身体が固いらしい。
「普通の成人男性なんてこんなものですよ。それにしばらく入院してましたからね」
「身体が固いと怪我をしやすくなる。これからは毎日、ストレッチを怠るなよ」
「分かりました。今やったことを、一人でもやればいいんですよね?」
「最初はそうだな。だが慣れてきたら、もっといろんなストレッチを取り入れた方が良いだろうな。あとストレッチとは別に筋トレもしろよ」
「筋トレですかー……」
宮坂は嫌そうな顔をしたが、やってもらわないと困る。宮坂には圧倒的に筋肉量が足りていないのだから。
「せっかく顔が同じなのに、お前はひょろい印象だ。俺と同じくらいになるまで鍛えろ」
「うーん……逆に湧人君の方がひょろくなるというのはどうですか?」
「なんで俺が苦労して得た筋肉を手離さないといけないんだよ。舞台に出るなら絶対に筋肉が必要になるんだから、今のうちから筋トレしとけよ」
「分かりましたよー……」
この返事は怪しいな。きちんと筋肉が付いているか、俺が定期的にチェックをした方が良さそうだ。
「あとはスキンケアもしろよ。せっかく俺そっくりの綺麗な顔面なのに、メンテナンス不足のせいで肌が荒れてる。もっとイケメンの自覚を持て。自分磨きを怠るな!」
「なんだか湧人君、口うるさいお姑さんみたいですね」
「お前が努力してないからだろ!?」
これは見た目を整えると同時に、宮坂の根性も叩き直す必要があるのかもしれない。
* * *
「あの、湧人君。今日はもう帰っても良いですか?」
レンタルスタジオを出た途端に、宮坂がそんなことを言い出した。
「このあとはカラオケで歌を披露する約束だろ」
「そうだったんですけど、僕もう疲れちゃって」
最初は俺のファンだし従順そうだと思っていたが、なかなかどうして宮坂はふてぶてしい性格をしている。
面と向かって俺に音痴だと言ってくるし、今はこうして俺の命令を無視して帰りたいと言ってくる。
「カラオケでは座れるんだから別に良いだろ」
「それはそうなんですけど、うーん……実は、うーん……」
宮坂は何かを言おうとしてはやめてを繰り返している。イライラすること、この上無い。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ!?」
「だって言ったら湧人君が怒りそうなんですもん」
「俺が怒るようなことを言おうとしてるのかよ!? そんなもんを焦らされたら、より怒るに決まってるだろ! とっとと言え!」
「まだ言ってないのに、もう怒ってるじゃないですか」
当然だ。疲れたから予定をキャンセルしてもう帰りたいなんて言われたら、怒るに決まっている。
もしこれが恋人や友人だったなら話は変わってくるが、利用したいと思っている相手に振り回されるなんて、絶対にごめんだ。
「じゃあ、もう怒ってるから早く言え! 言っても言わなくてもお前は怒られるんだから、早く済ませろ!」
「もう。それなら言いますけど……僕、ヤニが吸いたいんですよね」
「は……?」
一瞬、時が止まった。
ヤニが吸いたいと言うのは、あれか。煙草が吸いたいという意味か!?
「お前、根暗そうな雰囲気を出しておいて、煙草吸ってんのかよ!?」
「根暗が煙草を吸ったっていいじゃないですか」
予想外過ぎる。酒・煙草・ギャンブルをやらなそうな性格なのに。騙された!!
「やっぱり怒った。湧人君が嫌煙家なのは知ってます。だから言いたくなかったんですよ」
「俺が嫌煙家なのはどうでもいい。とにかく今すぐに喫煙をやめろ。喉に影響がある!」
「無茶を言わないでくださいよ。入院で強制的に禁煙してたのに、退院したら喫煙者に戻っちゃったんですから。僕に禁煙は出来ません」
「根性が無いだけだろ!? 死ぬ気でやめようとすれば、禁煙は誰にだって出来るはずだ!」
「だとしても今すぐには無理です。禁煙をするときには一気に煙草をやめるのではなく、一日に吸う本数を減らすところから始めるものですから」
悪びれもせずに言い切る宮坂に、俺は頭を抱える羽目になった。
宮坂の出現によって俺はまた芸能界に返り咲けると思っていたのに、前途多難だ。
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