◇第5話 【side 梁取湧人】
【side 梁取 湧人】
最初に出た感想は、怖い、キモチワルイ、関わりたくない、だった。
当然だろう。赤の他人が自分と同じ顔に整形をしていたのだから。
それでも「自分は梁取湧人の生き別れになった双子だ」みたいな妄想を垂れ流さずに、「梁取湧人のような顔になりたかったから整形で変えた」と白状しただけ、まだ自身の妄想を信じ込む狂人よりは冷静なのかもしれない。
……って、冷静なわけがあるか! 自分の顔を好きなアイドルと同じにするなんて正気じゃない!
しかし恐怖を感じるキモさだが、俺に舞い込んできたチャンスという点は確かだった。
「せいぜい利用させてもらうさ」
双子は芸能界で重宝される。双子の出てくる作品を作る際に、二人の他人よりも双子を使った方が作品のイメージを壊さないからだ。
だから宮坂の登場は俺にとってチャンスではある。
相当キモチワルいが。
それにデメリットは極小だ。
後々もし俺たちが双子ではないことが判明したら、俺は宮坂に生き別れの双子だと騙されていたことにすればいい。あいつは俺の昔からのファンらしいから、俺の評判が傷付かないようにスケープゴートになってくれと頼めば了承をするはずだ。
そうなるまでは、双子アイドルとしてせいぜい俺のために働いてもらおう。
「だからあいつがキモくても顔に出さないようにしないと。偽の双子だとバレるその日までは、仲良くやっていかなきゃだからな」
俺は宮坂の連絡先を表示させると、歌とダンスの実力を確認したい、とメッセージを送った。
* * *
レンタルスタジオで宮坂にダンスを見せてもらった。と言っても宮坂は素人だから、ただステップを踏んだだけだったが。
もしかすると宮坂は俺の真似をして歌ったり踊ったりしているのではないかと思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。彼はただ俺のことを観るだけのファンだったらしい。
そのため俺がまず見本のステップを見せて、宮坂に真似をしてもらった。
最初はまったくステップが踏めなかったものの、最後にはそれなりに形になったステップを踏むことが出来ていた。
「お前は決して運動神経が良いわけじゃないが、壊滅的ってほどでもないな」
運動後のストレッチをしながら、宮坂に話しかけた。
「湧人君の歌よりも見込みがあるってことですか?」
「ああん!?」
「すみません。つい本音が」
こいつ、案外良い度胸をしている。
「……俺だって、自分が音痴だってことは理解してる。ボイトレでも指摘されたし」
「ボイトレに通ってあれだったんですか?」
その通り、ボイストレーニングをした結果があれだ……って、やかましい!
「お前、本当に俺のファンなんだよな!?」
「すみません。その、湧人君のこと、歌以外は器用だと思ってるんです。演技も出来るしダンスも出来るし、お喋りだって上手だし。だからある意味で音痴なのは湧人君のチャームポイントと言いますか、人間らしい親近感と言いますか……」
宮坂的には俺の音痴はマイナスではないどころかプラス評価らしい。
しかし世間はそんな評価は下さない。
「音痴なのはオーディションで不利すぎる。お前が思ってるよりも、ずっとな」
他の能力がすべて同レベルで、音痴な人間とそうではない人間がいたら、誰だって音痴ではない方を選ぶ。もし俺がプロデューサーだったとしてもそうする。
「湧人君はこれからもアイドル業界で活動をするつもりなんですか?」
この質問に、首を横に振る。
「いいや、さすがの俺でも歌がメインの活動をするのは難しいと思ってる。と言うか、実際にやってみて痛感した。あの土俵でてっぺんまで駆け上がるのは、俺には難しい」
「でも湧人君が目指してるのは、双子アイドルなんですよね?」
「ちょっと違う。純粋なアイドルじゃなくて、アイドル俳優だな」
「アイドル俳優?」
ライブをするわけではないが、顔で売っている俳優。俳優でありつつ、演技よりもアイドル的な側面の強い存在。昨今、そういった俳優が活躍をしている。
「いいか、俺たちが狙うべきなのは、2,5次元舞台だ」
俺の言葉を聞いた宮坂が、目をぱちくりと瞬かせた。
「2,5次元舞台って、アニメとか漫画を舞台化したアレですか? コスプレをしながら演技をする感じの」
その通り。近年、2,5次元舞台が人気を博している。毎月どこかの劇場で2,5次元舞台をやっているのだ。普通の演劇よりも客入りが良く、グッズも売れて儲かるからだろう。
当然、2,5次元舞台が数多く公演されているということは、その舞台に出る役者も数多く起用されている。
俺たちが狙うべきは、そこだ。
「こう言うと語弊があるが、2,5次元舞台では演技力よりも、役者の華が重視される。もちろん演技力はあった方が良いが、役者のアイドル的な人気も必要なんだ」
「それでアイドル俳優と呼ばれるんですか」
「とはいえ2,5次元舞台で一番重要なのは、演技力でもアイドル的な人気でもない。原作キャラクターに似ているかどうか、だ!」
キャラクターが原作とかけ離れた仕上がりになって炎上した案件を何件か目にしている。原作ファンは特に、キャラクターと役者の一致を求めているのだ。
「2,5次元舞台についてはなんとなく分かりましたけど、どうしてそこを狙うんですか?」
ここまでの話でピンとこないとは、察しが悪い。
俺はストレッチを続けながら、宮坂にも分かるように理由を説明する。
「2,5次元舞台は現在、若手イケメン俳優の登竜門と化してる。だが、原作となるアニメや漫画にはよく登場するものの、俳優を引っ張ってくることの難しい役がある」
「背の低い役とかですか?」
俺は首を横に振った。
背の低い俳優は割といるし、成長前の子役を使うことも出来る。
「それなら逆に背の高い役……は、シークレットブーツで何とかなりそうですね。じゃあムキムキな役?」
「違う。双子だ」




