◆第4話 【side 宮坂明宏】
「……お前、何でも知ってるんだな」
そう「梁取湧人」は芸名だ。
昔、何かのインタビューで本人が言っていた。本名で芸能活動をすると私生活に影響を及ぼすから、とステージママである母親が彼の芸名を決めたらしい。
「そういえば、お母さんはまだ湧人君の芸能活動に関与してるんですか?」
「お袋は死んだよ」
「あっ……申し訳ありません。僕としたことが、きちんと情報を拾えてなかったみたいです」
梁取湧人の母親は、少なくとも子役時代には生きていたはずだ。いつ亡くなったのだろう。
もしかすると彼が事務所を退所した理由の一つに、母親の死が関係しているのかもしれない。あのステージママが、事務所を辞めることを許すとは思えないから。
とはいえ梁取湧人はすでに成人している。母親の許可が下りなかったとしても自分の意志だけで勝手に退所した可能性もある。
さすがにこの辺のことを突っ込んで質問することは出来ないけど。
「知らなかったとはいえ、亡くなったお母さんのことを話題に出してしまうなんて、僕はファン失格です。もっとリサーチをしておくべきでした」
「いや、お袋のことまで知ってたらいよいよ怖いからな!? すでにだいぶ恐怖を感じてはいるが」
梁取湧人が顔を引きつらせた。顔を引きつらせていても美しいのだから、梁取湧人の顔面偏差値はものすごい。
「あー……過去の俺の話はこの辺にしよう。それよりも今後について話し合うために、お前を家に呼んだんだ」
そうだった。僕は梁取湧人に双子アイドルとしてのデビューを依頼されていたのだった。彼と会話が出来たことに舞い上がって忘れていた。
「いつまでもお前って呼ぶのも変だよな。お前の名前は?」
「まだ名乗ってませんでしたっけ? 大変失礼いたしました!」
がばっと頭を下げる。名乗りもしないで家にお邪魔をして会話までするなんて、不審者にもほどがある。
「謝罪はいいから。名前は?」
「宮坂明宏です。漢字だと、こうです」
僕はスマートフォンに自身の名前を入力して、梁取湧人に見せた。
すると梁取湧人は少し考えてから、ぽんと手を叩いた。
「宮坂明宏……じゃあ芸名は、明を残して『梁取明人』でいっか。それとも付けたい芸名とかある?」
「いいえ! 湧人君に芸名を考えてもらえるなんて光栄の極みです!!」
「ああ、それと双子って設定にするなら、本名も揃える必要があるよな。名乗ることはないだろうが、一応。『高取明』でいい?」
「素敵な名前をありがとうございます!!!!!」
「そんなに感謝するなよ。テキトーに付けただけなんだからさ。あとは……年齢は当然、俺と同じ二十二歳だな。ちなみにお前の実年齢は?」
僕が名乗ったにもかかわらず、梁取湧人は僕のことを「お前」と呼んでいる。
「湧人君と同い年の二十二歳です」
「ふーん。あと揃えるべきなのは誕生日と血液型と……」
「湧人君の誕生日は十月三十日。さそり座で血液型はB型ですね! 一卵性双生児設定なら血液型を揃えた方が良いですよね! でも実際の僕はA型ですので、輸血の際はご注意ください」
「だからお前、怖いって」
「推しの誕生日と血液型を覚えてるファンは多いですよ。普通です、普通。勝手に誕生日を祝ったりもしますからね。事務所へプレゼントを贈るファンもいますし。誕生日とバレンタインは、プレゼントチャンスなわけです。ちなみに僕は、湧人君があまりチョコを好きではないこともリサーチ済みなので、チョコ系のものを贈ったことはありません。何より事務所を退所してからはプレゼントの贈り先が無くなってしまったので、贈れてませんでした。ライブハウスで湧人君本人に直接渡すことは出来ますけど、男がいきなりプレゼントを渡してきたら湧人君が嫌かなと思ったので」
僕が早口で述べると、梁取湧人がまた、綺麗な顔を引きつらせた。




