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因縁の相手と双子アイドルとして活動することになった件について  作者: 竹間単


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◇第26話 【side 梁取湧人】


「だ、誰が殺したんですか!? この中に犯人がいるんでしょう!? ねえ、そうなんでしょう!? ねえ!?!?」


「ストーーップ」


 翌日の稽古で俺が熱の入った演技を披露したところ、菖蒲沢演出が渋い顔を見せた。


「湧人チャン、今日はどうしたの? 熱が入り過ぎてるわよォ。いつも通りには出来ないかしら?」


「みなさんの芝居に負けないように頑張ったんですが、ダメでしたか?」


 俺の問いに、菖蒲沢演出は困ったように眉を下げた。


「あのねェ、湧人チャンの役は犯人の片割れなのよ。序盤で目立ち過ぎたら怪しいことこの上ないわァ」


「あっ……すみません。その通りですね」


「じゃあもう一度、今の部分をやってみましょ。目立ち過ぎないように注意してね」


「はい!」


 俺はもう一度、同じ部分の芝居をした。先程よりも控えめに、いつも通りに。

 しかしすぐに制止の声が掛かる。


「ストーーップ!」


 菖蒲沢演出の顔が、困ったような表情からイライラしたものへと変わっている。大人のためはっきりと表情に出しているわけではなく、きっと宮坂には感じ取れない程度の変化なのだろうが、俺はそれを敏感に察知した。


「湧人チャン。アタシの話、ちゃんと理解してる?」


「目立ち過ぎないように注意したつもりなんですが……」


 俺は先程よりも演技を抑えめにしたつもりだったのだが、菖蒲沢演出の目にはそうは映らなかったらしい。

 もしかすると、この舞台で爪痕を残そうという気持ちが演技に反映されてしまったのかもしれない。


「今日の湧人チャンは演技が過剰よォ。『犯人が、自分は犯人ではないと主張するための演技をしている』って言うのが分かりやすくはあるけど、ここは物語の序盤なの。序盤で犯人が分かりやすい演技をされるのは困るのよォ」


「はい。すみませんでした……」


 もっと目立たないようにしないと……これ以上目立たないようにしたら、本当に目立たないまま終わってしまうのではないだろうか。

 そうなったら、次の仕事に繋がらない。

 舞台に出してもパッとしない華の無い俳優だと思われたら、誰も俺たちを使ってくれなくなるかもしれない。

 そう思うと、自然と焦燥感が襲ってくる。

 俺のそんな感情を察したのだろうか。菖蒲沢演出は、俺にもう一度同じ部分の芝居をさせようとはしなかった。


「どうして昨日まで出来てたことが急に出来なくなっちゃうんだか。気分のムラみたいなものかしらねェ」


 そう言って溜息を吐いた菖蒲沢演出は、遠くから芝居を見学していた宮坂をロックオンした。


「明人チャン、こっちに来て」


 嫌な予感に冷や汗が流れる。

 菖蒲沢演出に呼ばれた宮坂が、菖蒲沢演出の前に立つ。


「なんでしょうか」


「明人チャン。一度、藤堂雄一役をやってみてくれない? セリフは台本を見ながらでいいから」


「僕がですか!?」


「他に明人チャンはいないでしょ」


 菖蒲沢演出に促された宮坂が、藤堂雄一のセリフを口にする。

 先程まで俺のセリフだったはずの、藤堂雄一のセリフを!


「だ、誰が殺したんですか!? この中に犯人がいるんでしょう!?」


 宮坂の演技は、特段上手いと呼べるものではなかった。

 しかし菖蒲沢演出はこの演技に納得を示した。


「うん、自然ね。じゃあキャスト交代。藤堂雄一役は明人チャンでいきましょ」


 これに驚いたのは宮坂だ。分かりやすく目を見開いて口をあんぐりと開けている。


「そんな簡単にキャスト交代だなんて……湧人君は今日だけ調子が悪いのかもしれませんよ!?」


「公演期間中に『今日だけ調子が悪い』なんてことになったら困るのよ。それに彼の回復を待ってるほど稽古時間があるわけでもない。この機会に両方の役が出来るようになっておきなさい。出来て困るものでもないでしょ」


「……はい、分かりました」



 それから俺たちは、藤堂雄一役と藤堂雄二役を交代して稽古をした。

 表向きは両方の役が出来るようになっておくためということだったが、これ以降、宮坂は藤堂雄一役を、俺は藤堂雄二役を演じるようになった。

 正式にキャスト変更されたと思った方が良いだろう。



   *   *   *




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