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因縁の相手と双子アイドルとして活動することになった件について  作者: 竹間単


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25/28

◇第25話 【side 梁取湧人】


【side 梁取湧人】



「お前、今、水川さんにモーションかけられてただろ」


 だから告白されるすんでのところで喫煙室から宮坂を連れ出した。

 しかし当の宮坂はきょとんとしている。


「モーション?」


「水川さんに告白をされそうになってた、ってこと」


「そうなんですか?」


「そうなんですかって、お前なあ」


 がっくりと肩を落とす。

 あれだけ露骨にモーションをかけられていたのに、宮坂は気付いてすらいなかったなんて。

 中高生ではないのだから、もっとしっかりしてほしい。


「恋愛関係の話は気を付けろよ。俺たちはこれからアイドル俳優として売り出していこうとしてるんだから」


「同じ芸能界の人なら、SNSで恋人匂わせをしたりはしないんじゃないですか? そんなことをしたらその人も叩かれちゃいますので」


「する人はするんだよ。炎上で名前を売ろうとしてるとか、単純に考えが足りないとかで。それに相手が匂わせをしなくても、第三者がツーショットの写真を撮ってSNSに上げることもある」


「へえ」


「へえ、って。はあ。本当にやめてくれよ。恋愛スキャンダルは」


 当事者意識の薄い宮坂にうんざりしていると、宮坂がさらに呑気なことを言い出した。


「そこまで気にするようなことですかね? 芸能人とは言っても、他人の恋愛でしょう? 他人の恋愛なんかどうでも良くないですか?」


「どうでも良くないんだよ! 恋人バレした途端に人気の低迷するアイドルは多いんだからな!?」


「すみません。僕、スキャンダルとは無縁の一般人だったので、そんなに気を遣うものだとは知りませんでした」


 一般人だとしても、感覚で分かるような気がするのだが。

 最初のオーディションのときもそうだったが、宮坂には空気を読むだとか感覚で掴むだとか、そういった能力が足りていない気がする。

 なるほど。だから水川さんのモーションにも気付かなかったわけか。

 これは……どうするべきだろう。

 この業界でやっていく上で、空気を肌で感じ取れないことは割と致命的な気がする。マニュアル通りの作業は少なく、ニュアンスだとか現場の空気感だとかが大切なのが芸能界だ。

 とはいえそういった感覚は一朝一夕で身に付くものではない。鍛えることも難しい。

 ……仕方がない。宮坂の隣にいることの多い俺が、出来る限りカバーをしていくしかないか。


「とにかく恋愛関係には気を付けてくれよ。そんなことで人気低迷はしたくないんだから」


「今の時点では誰も僕たちに注目なんかしてませんけどね」


「その油断が危険なんだってば。人気になったときに、時間差でスキャンダルを出されたりもするんだから」


「湧人君、やけに詳しいですね?」


「スキャンダルで消えていった人たちを間近で見てるからな。あれは怖いぞ」


 人気だったアイドルが、ある日突然干される。そして人目もはばからずに悪口を言われるようになる。

 そのアイドルにぺこぺことしていたスタッフが、スキャンダルを境に手のひらを返したようにそのアイドルを厄介者扱いする姿は、子ども心にクるものがあった。

 スキャンダル一つですべてが変わってしまう。そんな魔境が、芸能界だ。


「くれぐれも注意してくれよな」


「安心してください。僕は今、誰とも付き合う気はありませんから」


 それはありがたいことで。

 ありがたいついでに『今』だけではなくずっと誰とも付き合わないでくれるともっと楽なのだが、それは望み過ぎだろうか。


「湧人君。それで菖蒲沢演出はどこにいるんですか? 僕を探してるんですよね?」


「あんなの、お前を連れ出すための方便に決まってるだろ」


 あまりにも空気の読めていない宮坂に、俺は早くも頭を抱えてしまった。



   *   *   *



 稽古終わり、俺と宮坂は劇団員同士の飲み会を断って、二人で家へと続く道を歩いていた。

 飲み会のせいで宮坂がまた二日酔いになっても困るし、毎日飲み会に出席するほど俺たちには経済的余裕があるわけでもないからだ。


「どう考えても、俺たちは劇団のみんなのレベルに到達してない。このままだと実力が無いのに双子ってだけで役をもらったみたいだ」


 今日の稽古を思い出して俺が溜息を吐くと、隣を歩く宮坂は不思議そうな顔をしていた。


「みたいと言うか、その通りなんじゃないですか?」


「えっ?」


「だってそれこそが湧人君の作戦ですよね。需要と供給のバランスが崩れている『双子』を使って役をもらうって作戦。そのおかげで実力のかけ離れた劇団の舞台にも出させてもらえるわけですから、作戦大成功!って喜ぶべきなんじゃないですか?」


 確かに作戦通りではある。

 俺の見込んだ通り、双子の俳優には需要があった。

 しかし実際に稽古をしてみると、明らかに俺たちの実力が足りていないことが浮き彫りになってしまっている。

 いくら作戦通りだったとしても、観客に「あの人たちは下手なのに双子だから役をもらえたんだ」と思われるのは癪なのだ。


「湧人君は何が不満なんですか?」


「上手い劇団員の中に混ざると、俺たちの演技が浮くんだよ。実力が数段劣るから。俺たちにはもっと実力が必要なんだ」


「稽古中に演技が上達すればいいんですけどね」


「そんな呑気なことを言ってちゃダメなんだ。もっと、もっと上手くならないと……」


「湧人君?」


 決意を胸にがばっと顔を上げると、隣にいた宮坂がビクリと肩を揺らした。

 しかしそんなことは気にせずに、俺は心の内を声に出す。


「舞台に立てるこのチャンスを、パッとしない結果で終わらせてたまるか!!」



   *   *   *




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