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因縁の相手と双子アイドルとして活動することになった件について  作者: 竹間単


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18/28

◇第18話 【side 梁取湧人】


【side 梁取湧人】



 宮坂は俺の指示したことにいちいち文句を言ってくるものの、最終的には従うから、案外扱いやすい。

 このまま宮坂の手綱を俺が握っていればすべて上手くいく……と、思っていたのだが。


「ナンネン、タッテモ、アナタノ、コトガ、ワスレラレナインダ」


「ダメ。もう一回!」


「ナンネンタッテモ、アナタノ、コトガ、ワスレラレ、ナインダ」


「なーんで棒読みになっちゃうかなあ!?」


 オーディションの予行練習と思って、ネット上で拾った簡単な台本を読ませてみたところ、宮坂は想像を絶する大根役者だった。


「なんでって、セリフを言うことなんて小学生の頃の学芸会以来ですから。そのときは褒められたんですけどね。声が大きくてイイネって」


「小学校の学芸会は、声が大きければ褒められる特殊な催しだからな!?」


 俺たちが明日行くのは舞台のオーディションだ。声が大きくてもセリフが棒読みでは、貶されることはあっても決して褒められることはない。


「もっとこう、役になりきれよ! 演技なんだから!」


「役になりきれと言われても、この台本は三ページしかありませんよ。たったこれだけの文字数でこの人がどんな人物なのかを理解することは無理では?」


「そこはこう、なんとなく分かるだろ!? 失恋を引きずってる男なんだよ、そいつは!」


「なんとなくと言われましても。失恋を引きずってる男なんてこの世の中にたくさんいますから、この人がどういう人間かを理解する手助けにはなりません」


「こだわりの強いエキストラみたいなことを言うなよ!? その男がどういう人間かは、なんとなく想像すればいいの! どんな人間だろうと、そのセリフを言うときは大体同じような顔をするもんだろ? その平均値をとるんだよ!」


 棒読みをやめればいいだけのことが、どうしてこんなにまどろっこしい話になるんだ!?

 宮坂は理屈っぽい性格なのかもしれないが、それに付き合わされる俺の身にもなってほしい。

 ずっと自分の感覚でやってきた俺は、理屈で役を考えたことなんてないのだから。説明が難しいこと、この上ない。


「平均値……なるほど」


 宮坂は頷くと、もう一度台本に視線を落とした。

 もしかして、今の説明で棒読みが直るか!?


「よし、もう一回読んでみろ!」


「ナンネンタッテモ、アナタノコトガ、ワスレラレナインダ」


「変わってねえじゃねえか!」


 俺は額に手を当てつつ天を仰いだ。



   *   *   *



 オーディション当日。

 俺の指示通りに、宮坂はスタッフに対して愛想よく挨拶をしていた。

 ここまではいい。問題はここからだ。


「この役は双子ではないけれど、どうしてこのオーディションを受けに来たのかな?」


 舞台演出の男が、当然の疑問を俺たちにぶつけてきた。

 これに俺が流暢に答える。


「俺たちをダブルキャストで採用していただけたらありがたいと思って、今日ここに来ました。出演料は一人分で構いません。二人で舞台に立つのは明人の練習のためでもあるので」


「彼は舞台に立ったことがないのかな?」


「はい。俺はずっと芸能界にいましたが、明人はついこの前まで普通の企業で働いてたんです。な、明人?」


「あ、はい。初心者ですけど、頑張ります」


 舞台演出の男は、俺と宮坂を見比べてから、うんうんと頷いた。


「顔での違和感は無いな。ダブルキャストでも舞台の邪魔にはならなさそうだ。ただ二人に稽古を付けるとなると、こちらとしても労力がかかる。即戦力になる程度の実力は無いと困るよ」


「「頑張ります!」」


 俺と宮坂は同時に返事をした。

 宮坂には昨日、オーディションでは絶対に「出来ない」とは言わずに「頑張ります」と言うように伝えていたからだ。

 もしも変な条件を吹っ掛けられた際には俺がストップをかける。だから宮坂は愛想良くしていればいい、と。

 俺のオーディション講義が良かったからか、舞台演出やスタッフからの好感度は上々に見える。

 あとはオーディションに受かるだけだ。


「それでは台本を読んでみてくれ。まずは湧人君から」


「はい! どうか俺について来てほしい。幸せにすると誓うから」


 俺は感情を込めてセリフを読んでいった。

 この役の男の人間性は分からない。だが、人間性は分からなくても感情を込めることは出来る。

 とはいえ決してテキトーにやっているわけではない。

 俺は感覚で、役を掴み、セリフに感情を込めることが出来るのだ。


 俺が台本を読む間、舞台演出は朗らかな顔で俺のセリフを聞いていた。

 こうして俺の番は何事も無く終わったが、次に宮坂が台本を読み始めると、舞台演出の顔がどんどん険しくなっていった。


「ありがとう、君たちの実力は分かった。残念だけれど、ダブルキャストは無理だね。あまりにも棒読みが目立ち過ぎる」


「やっぱりですか……」


「湧人君だけを合格にした場合、役を受ける気はあるかな?」


「……すみません。ありがたいお話ですが、今後は二人での活動だけに注力するつもりなので、お受けできません」


「そうかそうか。まあ、そもそも湧人君を合格にするかも、他の役者を見てからの判断だったけれどね」


 当たり前のように、俺たちはオーディションに落ちた。

 この短いオーディションが、宮坂の経験値になったかどうかは分からない。




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