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因縁の相手と双子アイドルとして活動することになった件について  作者: 竹間単


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◇第14話 【side 梁取湧人】


「お前には、何か夢があったのか? 俺の計画に付き合わなかった場合に、その時間を使ってやりたかったこと、と言うか……」


「僕には湧人君のような夢はありません。でも高尚な夢が無かったとしても、ただ毎日を生きてるだけだったとしても、幸せはあります。僕はそういう小さな幸せを拾いながら、日々を生きていきたいと思ってました」


 この世界で暮らしているのは、大きな夢を持って生きている人ばかりではない。

 それどころか宮坂のように小さな幸せを拾いながら毎日を生きている人の方が多数派だろう。会社員として仕事をして、誰かと結婚をして、子どもを育てて……。


「宮坂って結婚はしてないよな?」


 ふと疑問に思って尋ねると、宮坂がぎょっとした顔で俺のことを見た。


「してるわけがないでしょう!? 結婚をしてたら、ある日突然顔を変えることなんて出来ませんよ。病院でもとの僕の顔について証言されるでしょうし」


「そりゃそうか」


 あらためて、まったくの他人である僕の顔に整形をした宮坂の度胸がすごい。ライブハウスでライブをして度胸を付けようと言ったが、宮坂はすでに肝が据わっているような気がする。

 ……いや、重要な決断をする度胸と、観客の前でパフォーマンスをする度胸は、別物かもしれない。

 子役時代に、カメラが回った途端に委縮する大人たちの姿を、嫌と言うほど見てきたから。

 自分から望んで芸能界に入って来た人たちですらそうなのだから、俺に付き合わされて芸能界に入ることになった宮坂には、絶対にライブ出演の経験が必要だ。


「結婚はしてないとして……お前、彼女はいるのか?」


 俺とそっくりな顔をした宮坂に尋ねた。

 自分で言うのもあれだが、この顔をしていると、女が勝手に寄ってくる。宮坂のもとの顔は知らないが、今この顔をした宮坂には恋人がいても不思議ではない。


「そんなことを聞いてどうするんですか」


「どうするって、アイドル的には重要な問題だろ。恋人の有無は」


「ああ、そうでしたね。僕はこれからアイドルをやるんでした」


 俺の発言を聞いた宮坂が、どこか他人事のように言った。


「おいおい。もっとアイドルの自覚を持ってくれよ。女性関係で炎上するのはごめんだからな!?」


「自覚を持てと言われても、僕はまだ何もしてないですからね。こうして湧人君と一緒にレッスンをしてるだけで」


「それでも、だ。アイドルにとって恋愛は、致命傷になり得るんだからな」


 恋愛禁止を掲げるアイドルグループがあるくらいだ。アイドルにとって恋人の有無は、とても重要な意味を持っている。


「湧人君は、アイドルは恋人を作っちゃダメ派ですか?」


「いいや、そんなことは思ってない。ただし厄介な恋人なら、別れた方が良いとは思うがな」


「厄介な恋人?」


「SNSで付き合ってることを自慢したり、物や服で匂わせをしたり、そういう類の人のことだ」


「ああ。いますよね、そういう人」


 恋人のそういった匂わせ投稿から、恋人バレをするアイドルは少なくない。そのような自己顕示欲の強い恋人は、アイドルにとって危険なのだ。


「そういう人って、相手が困ることに気付かないんですかね? それとも相手の事情なんか考えようとしないんでしょうか?」


「相手のことよりも、自分の自慢したい欲が勝っちゃうんだろうな。私は人気のあのアイドルと付き合ってます、って言い触らしたいんだよ。だから恋人を作るにしても、そういう人とは付き合うべきじゃない」


「その意見には同感です。アイドルうんぬんを抜きにしても、付き合う相手は選ぶべきですね。相手のことを思いやれない人と付き合っても、良いことなんか無いですから」


 宮坂は思い当たることでもあるのか、遠くを見ながらそう言った。

 整形をしたと聞いて勝手に宮坂のもとの顔が不細工だったような気がしていたが、誰かと付き合った経験があるのなら、もとの顔も不細工なわけではなかったのかもしれない。宮坂は事故で顔面が潰れたために整形をしただけなのだから。


「……で、どうなんだ? 恋人はいるのか、いないのか」


「同居してずっと一緒にレッスンもしてるんだから分かるでしょう? そんな相手、いませんよ」


「良かった。ちなみに俺も今は恋人がいない」


「知ってますよ。伊達に長くファンをやってるわけではないですから」


 やっと体力が回復したのか、宮坂が上体を起こしながら言った。宮坂に合わせて俺も身体を起こす。


「そろそろ帰りましょうか。体力が回復して来たら、急激にシャワーが浴びたくなりました」


「そうだな。明日のためにも早く帰宅して身体を休めよう」


「まさか明日もこれをやるつもりなんじゃ……」


 怯えた目をする宮坂に、淡々と告げる。


「毎日今日と同じような練習をして、二週間で何とか形になるか否かギリギリってところだな」


「毎日これをやるんですか!?」


「当たり前だろ。ライブで下手なパフォーマンスを見せるわけにはいかないんだから」


「僕たちが目指してるのって、2,5次元舞台で活躍するアイドル俳優なんですよね!?」


「そうだが……お前は一度、2,5次元舞台を観た方が良いな。ああいうのは演技をするだけじゃなくて、普通に歌って踊るぞ」


「うげえ」


 宮坂が潰れたカエルのような声を出した。

 それを無視して宮坂の腕を引っ張って立ち上がらせる。


「ほら、帰るぞ」


「本当に明日もこれ、やるんですか?」


「やる。絶対にやる」


「……ギブアップをしちゃダメですか?」


「ダメだ。最初のうちは練習をすればするほど上達するんだから、もっとモチベーションを上げろよ」


「モチベーションと言われても」


 うんざりとした顔をしている宮坂を、何とか鼓舞しようと頭を捻る。


「例えば……河原でダンスの練習なんて、青春っぽいとは思わないか?」


「僕は河原でダンスをするような青春は送ってきてないので、ピンとこないです」


「俺だってそんな青春は送ったことがないが……だからこそ、青春が遅れてやって来たのかもな」


 これは宮坂を鼓舞するためだけの言葉ではない。俺は本当に、最近毎日が楽しいと思っている。夢に向かって着実に進んでいる気がするから。成人している俺だが、ある種の青臭いきらめきを感じているのだ。


「これが青春と呼ばれるものなんですかねえ」


「少なくとも俺は、爽やかな楽しさを感じてるぞ。こうしてお前と切磋琢磨していくのは」


「……まあ、一人でやるよりはマシですね。一人だったらこんな疲れる練習、一日だって出来ませんから」


 俺の言葉を聞いた宮坂が苦笑した。


「一人じゃ出来ないけど、一緒なら出来る。うん、青春っぽいな!」


「これこそが青春なんだと言われると……そんな気がしないこともないかもしれません」


「だよな!? よし。あの夕日に向かって走るか!」


「それは普通に嫌ですけど!?!?」



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