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因縁の相手と双子アイドルとして活動することになった件について  作者: 竹間単


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13/28

◇第13話 【side 梁取湧人】


【side 梁取湧人】



 河原でダンス練習をさせてみたところ、宮坂のパフォーマンスはボロボロだった。

 これまでやってきた基礎的なステップの一つ一つは出来ているのに、それらが組み合わさるとこうも対応できないとは。もう少し形になると思っていただけに、この結果には驚いた。


「どうして出来ないんだ? 一つ一つのステップはこれまで出来てただろ。それを同時にやるだけだぞ?」


「同時にやる『だけ』と言いますけど、その『だけ』が難しいんですよ。一般人にとっては」


 そういうものだろうか。上半身と下半身で別々の動きをするものなんていくらでもある気がするし、日本に住んでいるなら義務教育でそういったものに触れてきたはずだ。

 例えば、水泳のクロール。上半身では手で水をかいて、下半身ではバタ足をする。

 例えば、縄跳び。上半身では縄を回す動きをして、下半身では縄を跳ぶ動きをする。

 そういった上半身と下半身で違う動きをする運動は、体育の授業でいくらでもやって来たはずだ。


「難しいって言われても、『同時にやれ』としか説明できないぞ。だって同時にやるだけなんだから」


「湧人君って他人に教えるの、向いてないですよね?」


「じゃあ逆に教えてくれよ。なんでこれまで出来てたものを同時にやるだけで、いきなり出来なくなるんだよ!?」


 俺に尋ねられた宮坂は、少し考えてから口を開いた。


「ピアノを弾くときに、右手だけ左手だけでは弾けるのに、両手で一緒に弾くとなると弾けなくなるのと一緒ですよ」


 ピアノで例えてきたか。残念ながら、ピアノの話をされても俺にはピンとこない。


「俺、ピアノはきちんと弾いたことがないからよく分からないな。そういうもんなのか?」


「僕だって両手が必要な曲は弾いたことがないですけど、なんかニュアンスで分かりません!? ピアノに限らず、片方ずつは出来るのに両方いっぺんには出来ない、あの感覚!」


「分からない。だって俺はそんな問題にぶち当たったことがないから」


 強がりではなく、事実だ。俺には宮坂の言うニュアンスだの感覚だのが分からない。


「壁にぶち当たらないなんて、同時作業の天賦の才があるんですね!?」


「同時作業の天賦の才って何だよ。ピンポイントだな、その天賦の才」


「マルチタスクをこなせるのは才能ですよ。仕事で重宝されます。湧人君、普通に就活をした方が良いんじゃないですか?」


「なんでだよ!?」


 双子アイドルとして成功するビジョンが見えているのに、就職活動をするのは意味が分からな過ぎる。

 俺は生涯、芸能活動で食っていきたいのだ。


「……って、就活の話はどうでもいいんだよ! それよりもどうしようか、この状況」


 宮坂のダンスは酷いありさまだとはいえ、まだ初日だからこの先どうなるかは分からない。こういうものはある日突然、飛躍的に成長をするから。今はボロボロでも、続けていればいきなり踊れるようになるかもしれない。問題は、何が成長に繋がるレッスンか、だ。


「一小節ずつ細かく区切って練習をすれば何とかなる……か?」


「僕に聞かれても分かりませんよ……」


 宮坂に尋ねてみたものの、彼は肩をすくめるばかりだった。


「まあ考えても答えは分からないんだ。とりあえずやってみよう。ライブまで二週間近くあるんだから、毎日練習したらそのうち形になるだろ!」


「どうでしょうね!?!?」


 絶対に形にならないとまでは言わなかったものの、宮坂は形になるとも思っていないようだった。





「今日はこんなもんかな」


「ああー、疲れた! もう一歩も動けない!」


 日も暮れかけてきた頃、レッスンの終了を告げると、宮坂が河原に寝そべって空を見上げた。体力が底をついたのだろう。

 何度も「そんなダンスは出来ない」と言いつつも、なんだかんだこの時間まで投げ出さずに練習をしたガッツは評価できる。


「最初はどうなることかと思ったが、初日にしては頑張ったんじゃないか?」


 俺も宮坂の隣に寝転んで空を見上げる。夕焼け空は綺麗なオレンジ色をしていた。


「頑張りましたよ、ええ! 初日から明らかに飛ばし過ぎです! 明日は全身が筋肉痛ですよ!」


 自分の横に寝そべった俺に向かって、宮坂が文句を言う。しかしそれは仕方のないことだ。だって。


「スピードを上げてレッスンしないと間に合わないと思ったんだよ。お前がマイナススタートだったから」


「あれはゼロスタートと言うんです。湧人君の基準で考えないでください!」


 確かに宮坂は運動神経が悪いわけではない。別に良いわけでもないが。たぶん成人男性の平均くらいだろう。

 しかし平均だと、芸能界では生き残ることが出来ない。優れていても埋もれてしまうのが芸能界だ。平均の能力で生き残るには、それを補って余りある強大な運が必要になる。

 そのため、技術を身に着けることと強運を得ることのどちらが簡単かという話になってくるが……どうやって身に着ければいいのか分からない強運よりも、技術を身に着ける努力をした方が効率が良い。

 だから宮坂には早いところ、平均よりもずっと優れた人間になってもらわないといけないのだ。


「こんなに大変なら、双子アイドルの約束なんてしなければ良かったです!」


「約束を取り消すなよ!?」


「一度した発言を取り消そうとは思いませんけど、湧人君に協力してるんですから、もう少し僕に優しくしてほしいものです」


 宮坂がジトっとした目で俺のことを見つめた。


「優しくはしてるだろ。俺の家に住ませてやってるし、食事代だって俺が出してるんだから。お前は実質ヒモ生活してるだろ!?」


「僕は、双子アイドルになるという湧人君の夢に協力してるんですから、そのくらいの対価はもらって当然だと思います。僕は僕の人生を湧人君に貸してるわけですからね。その利息ですよ、生活費は」


 そう言われると弱い。確かに今の俺は、宮坂の人生を借りているようなものだ。


「……って、俺と同じ顔に整形したお前も悪いんだからな!? 自業自得でもあるからな!?」


「否定はしませんよ」


 そう言って、宮坂が溜息を吐いた。

 角度のせいか、宮坂の顔には影が差しているように見える。




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