◆第11話 【side 宮坂明宏】
「お前には、まずはメンズ地下アイドルとして、ライブハウスのステージに立ってもらう!」
無事に梁取湧人の家への引っ越しを終えた僕に、彼がそう宣言をした。
「2,5次元舞台のオーディションを受けるんじゃないんですか?」
「ゆくゆくはそのつもりだが、その前にお前には度胸を付けてもらう必要があるんだ」
「度胸、ですか」
「いくらふてぶてしいとは言え、お前は一般人だったんだ。ステージに立ったときの緊張感を知らない。あの緊張感を知らないまま本格的な活動を始めるのは危険だ」
「なるほど……」
彼の言うことには一理ある。これまでアイドル活動をやったことのない人間が、いきなりステージに立つなんて無謀だ。何事も本番の前に練習が要る。
地下ライブハウスを練習の場扱いするのはどうかと思うけど。あそこだってステージには違いないわけだし。
「一人でも観客がいるなら、地下ライブハウスも練習ではなく本番だと思いますよ」
「お前、何言ってんだ? 当然だろ。ステージはいつだって本番だ。規模なんて関係なく、すべてのステージ全力で挑むべきだ」
「あれ? でも今、本格的な活動の前に度胸を付ける練習として地下ライブハウスのステージに立つ、って言いませんでした?」
「練習なんて一言も言ってねえよ! まずは小さいステージで度胸を付けるって言ったんだ。スモールスタートってやつだよ。リスクの少ないステージから始めようって話だ。もちろん失敗するつもりはないがな」
どうやら梁取湧人は、地下ライブハウスを練習の場所だとは思っていなかったらしい。
思い返してみると、彼は地下ライブハウスでもいつも全力だったっけ。周りから浮くくらいには。
「あそこも本番の場なんだから、お前も練習気分でステージには立つなよ。どんな規模であれ、観客がいるなら本番だ。本番で全力が出せるよう、これからビシバシ鍛えるからな!」
あっ、藪蛇だったかも。
梁取湧人のプロ意識に火を付けてしまったみたいだ。
「それでは今日からはライブ用のレッスンを始めるということですね?」
「その通り。お前には披露する予定の歌とダンスを覚えてもらう。とはいえ、これまでの基礎練習をやめるわけじゃないからな?」
「えーっ!? これまでの基礎練習に、さらにライブ用のレッスンが加わるってことですか!? どっちか一つにしましょうよ!?」
「文句を言わない! ちんたらやってたら年齢を重ねちゃうだろ。若いうちに固定ファンを付けておきたいから、やることを詰め込まないと! もちろんどっちも手は抜かないからな!?」
子役として活動していただけあって、梁取湧人は芸能活動に関してはストイックな部分がある。ここでワガママを言ったとしても聞き入れられることはないだろう。
「分かりましたよ……ライブのときの衣装はどうするんですか?」
「俺が前に着てたものを貸す。本当は双子らしく同じ衣装の方が良いが、時間も予算も無いからな。衣装は妥協すべき点だろう。そのマイナス分は、パフォーマンスで補えばいい」
「無い袖は振れませんからね」
「……ということで、河原に行くぞ!」
いきなり梁取湧人が変なことを言い出した。今までの会話の何が河原に繋がるのかまるで分からない。
「『ということで』って何ですか!? 話が繋がってませんよ!?」
「しっかり繋がってるぞ。他人に見られるかもしれない河原での練習は、度胸を付けるのにもってこいだからな。あと、レンタルスタジオが予約でいっぱいだった」
「それっぽいことを言ってますけど、後者が理由でしょう?」
「なんでもいいだろ。ほら、さっさと着替える!」
梁取湧人は僕の腕を掴んで立たせると、用意していたレッスン着を押し付けてきた。
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