切り捨て
結界の内側で、気配がざわめいた。
人の数が増えている。
いや、正確には――質が変わった。
「……面倒なのが来たな」
誰かが呟く。
声は、はっきりとした形を持たない。
この場に集まる者たちは、互いに顔も名も知らない。
ただ、目的だけを共有している。
「二人だ」
別の声。
「一人は確実に“上”だな」
「もう一人も、浅くはない」
短い沈黙。
ここは練習場だ。
試しの場所。
成功率を測るための、捨て場。
本命を動かす場所ではない。
「割に合わない」
判断は早かった。
「ここは切る」
「囮は?」
「そのまま残せ」
感情はない。
ためらいもない。
使っていた人間数人。
宝貝を扱わせていた駆け出し一人。
いずれも、重要ではない。
「どうせ、使い捨てだ」
「回収はしない」
「記録だけ残せ」
場に張られていた結界が、わずかに揺らぐ。
完全に解くことはしない。
だが、守る意味も失われる。
「……次は?」
「別の場所だ」
「同じ条件で」
「いや」
一瞬、間が空いた。
「次は、もう少し深い所を使う」
それは、学習が一段進んだことを意味していた。
「仙人が二人、動いている」
「なら、こちらも段階を上げるだけだ」
声は淡々としている。
恐れも、焦りもない。
ただ、計算だけ。
「本命は、まだだ」
「今は、切り捨てでいい」
結界の奥で、宝貝の動きが乱れ始める。
生命力の流れが、不安定になる。
――そして、放置される。
この場は、もう“守られる場所”ではない。
だが、それでいい。
混在は、そういうものだ。
失敗は、失敗として切り捨てる。
次の場所で、また試す。
それだけ。
この公園に残るのは、陰気と、使い捨てられた痕跡だけだった。




