下から潰す
夜明け前の空気は、澄んでいた。
恒一は縁側に腰を下ろし、湯気の立つ茶を手にしている。
清磬は、その少し後ろに立っていた。
言葉は、まだ出ない。
先に沈黙を破ったのは、恒一だった。
「……あの公園だが」
声は低く、抑えられている。
「技術が一つじゃない」
清磬は頷いた。
「結界、搾取宝貝、配置思想。
どれも統一されていない」
「人数は?」
清磬は、即答しなかった。
「断定はできない」
その言い方が、答えだった。
「複数の技術系統が混在している。
だが、必ずしも複数の仙人とは限らない」
「……一番厄介なやつだな」
恒一は、そう呟いた。
敵が見えないからではない。
敵の輪郭が固定できないからだ。
「おそらく、同様の場所が他にもある」
清磬は淡々と続ける。
「一箇所で終わる作りではない」
「実験場を、いくつも作っている」
「あるいは――」
清磬は、言葉を選んだ。
「“使われている”」
恒一は、視線を落とす。
「下は人間か」
「可能性は高い」
清磬は肯定した。
「搾取宝貝の扱いが稚拙すぎる。
仙人の水準ではない」
雑で、不慣れ。
だが、知識はある。
誰かに教えられているか、誰かの残したものを使っている。
「……人間を噛ませる計画か」
恒一の声には、嫌悪が滲んだ。
「切り捨て前提だろうな」
清磬は感情を挟まない。
「捕まっても、本体には届かない」
「だからこそ――」
恒一は、結論を出す。
「下から潰す」
清磬は、即座に頷いた。
「一箇所ずつ、確実に」
「場を壊し」
「使っている人間を捕まえる」
「吐かせる」
言葉は短い。
だが、方針は明確だった。
「本命には、まだ触らない」
「触れない方がいい」
清磬は言う。
「今は、まだ早い」
恒一は、湯呑を置いた。
「動き出すとしたら、向こうだ」
誰が、どこで、どの場を使っているか。
それが見えてからでいい。
「……長くなるな」
「だろうな」
清磬は、空を見上げる。
夜と朝の境目。
どちらにも属さない色。
「だが、急ぐ必要はない」
その言葉は、
自分に言い聞かせるようでもあった。
恒一は、何も言わなかった。
ただ、静かに頷く。
この件は、短期決戦ではない。
それだけが、二人の間で、はっきりしていた。




