名前をつける人
放課後の空気は、少しだけざわついていた。
理由は、分かっている。
清磬が、恒一の隣に立っている。
それだけ。
肩が触れるほど近い距離。
当然のように。
最初からそこが自分の場所だと言わんばかりに。
清磬は、何も言わない。
視線も、表情も、いつも通り。
踏み込んでいる自覚すら、たぶんない。
それが余計に、胸を締め付ける。
私は、少し離れた位置からその光景を見ていた。
何も言えない。
言う理由も、資格も、見つからない。
――ズルい。
心の中で、そう思う。
でも、誰が?
何が?
分からないまま、立ち尽くしていると。
「……ねえ」
ひなたの声がした。
いつの間にか、隣にいる。
私は顔を向けない。
「今のさ」
ひなたは、前を見たまま続ける。
「取られたって顔してる」
心臓が、きゅっと縮む。
「……え?」
「大事にしてた物」
ひなたは、軽い調子で言った。
「誰にも触らせたくなかったやつ」
その一言で、全部が繋がった。
苦しかった理由。
目を逸らしたくなった理由。
胸が潰れそうだった理由。
私は、何も言えない。
でも、否定もできない。
ひなたは、ちらっと私を見る。
「別に悪いことじゃないよ」
肩をすくめて、そう言った。
「気づくの遅かっただけ」
清磬は、まだ恒一の隣にいる。
当然のように。
それを見ている自分が、確かにいる。
私は、ようやく分かった。
これは、不安でも、依存でもない。
――失いたくない、だった。




