比べてしまう、ということ
清磬は、迷わない。
そう思ったのは、ほんの一瞬の仕草だった。
恒一の隣に立つ時。
距離を詰める時。
言葉を選ぶ時。
全部が、まっすぐだ。
必要だから、そこにいる。
合理的だから、そうする。
迷いがない。
だから――
恒一の隣に立つ姿が、あんなにも自然に見える。
私は、それを見ている。
見てしまう。
清磬は、恒一の時間を奪おうとはしていない。
選ばせようともしていない。
ただ、並んでいるだけ。
なのに。
胸の奥が、きゅっと縮む。
「……」
自分が、何を感じているのか。
もう、分からないふりはできなかった。
羨ましい?
違う。
妬いている?
それも、違う。
もっと、嫌な感情だ。
比べてしまっている。
清磬と、自分を。
隣に立てる彼女と、
立てなくなった自分を。
その事実を、
清磬は何も知らない。
だから余計に、
自分の感情だけが、歪んで見える。
――ズルい。
また、その言葉が浮かぶ。
今度は、はっきりと。
清磬が、ズルいんじゃない。
恒一が、ズルいわけでもない。
ズルいのは。
守られて、
何も言わずに、
何も失わないままでいようとしている――
私だ。
幸福だった。
恒一が隣にいて、
何も考えなくてよくて、
当たり前みたいに守られていた。
一度、それを知ってしまった。
だから。
それが離れていく気配に、
こんなにも怯えている。
失いたくない。
でも、引き止める理由も、
権利も、
言葉もない。
だから私は、
何も言わずに、
心の中でだけ、
「ズルい」と思う。
それが、一番ズルい。
分かってしまった。
分かってしまったから、
もう、戻れない。
清磬の隣にいる恒一を見るたびに、
私は、
自分の弱さを、はっきりと自覚してしまう。
それでも。
まだ、言葉にはしない。
今はまだ、
胸の奥で、
そっと握りしめているだけだ。




