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地仙譚~百年を生きる仙人は現代で怪異を祓う~  作者: taka
第13章 見られている夜
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まだ浅い場所

 現地は、想像していたより静かだった。


 夜の公園。

 街灯はあるが、奥まった場所は影が濃い。


「人の気配は、薄いな」


 恒一が周囲を見回す。


「昼間は、利用者が多いはずだ」


「だからこそ、夜に偏る」


 清磬は即答した。


「邪仙が直接関与しているなら、

 人目は避ける」


 二人の会話は、短く、要点だけを掬い取って進む。


 足取りは自然。

 警戒はしているが、過剰ではない。


 ここは、戦場ではない。


「紙兵の反応は?」


「この辺りで弱い残滓が検出された」


 清磬は、足を止める。


 公園の端。

 植え込みと、使われなくなった遊具。


 子どもの笑い声が残っていそうな場所。


「直接的な呪力はない」


 清磬は、地面を一瞥して言った。


「だが、精神的な干渉の痕跡がある」


「夢か」


 恒一が呟く。


「あるいは、覚醒しかけの感覚」


 どちらも、確定ではない。


 だが、危険でもない。


「ここは、まだ“浅い”」


 清磬の評価は冷静だった。


「本体が来ているとは考えにくい」


「同感だ」


 恒一は頷く。


「様子見だな。

 今日は、深入りしない」


 二人は、それ以上進まなかった。


 調べるべき痕跡は、記録した。

 必要な情報も、持ち帰る。


 それで十分だった。


 清磬は、自然な動作で恒一の隣に立つ。


 肩が、ほんの少し近い。


 無意識だ。


 夜の静けさの中で、それが当たり前の距離になっている。


「……問題は」


 清磬が、ぽつりと言う。


「“誰が見られているか”だな」


 恒一は、その言葉に一瞬だけ目を伏せる。


「そうだな」


 ここにはいない者の顔が、二人の間をよぎる。


 だが、名は出さない。


「今日は、これで戻る」


「了解した」


 調査は、成功でも失敗でもない。


 ただ、“視線が動き始めた”ことだけが、確実だった。


シーン7 練習場


 公園に足を踏み入れた瞬間、恒一は気づいた。


 空気が、重い。


 夜気に紛れてはいるが、それは自然な冷え込みとは違う。


「……陰気が溜まってるな」


 呟くような声。


 普通の感覚なら、せいぜい「気味が悪い」と感じる程度だろう。


 だが、ここまで近づいて、今まで気づかなかったのは異常だった。


「結界がある」


 清磬が即座に言った。


 視線は、地面ではなく、空間そのものに向いている。


「かなり明確だ。

 感知を意図的に鈍らせている」


 恒一は、ゆっくりと周囲を見渡した。


 街灯の光。

 遊具の影。

 夜の公園としては、特別なものはない。


 それが、逆に不自然だった。


「このレベルの陰気なら、

 本来はもっと早く気づく」


「そうだな」


 恒一は頷く。


「つまり――」


「隠している」


 二人の言葉が、重なる。


 清磬は、足元に視線を落とした。


 植え込みの縁。

 目立たない場所に、雑に配置された痕跡がある。


「宝貝だな」


 しゃがみ込み、確認する。


「生命力を、少しずつ抜く構造」


 恒一も覗き込んだ。


「……粗いな」


 制御が甘い。

 回路が単純。


 効率も、精度も低い。


「体調を崩す程度で済んでいるのは、

 この宝貝の出力が低いからだ」


 清磬は淡々と続ける。


「だが、雑だ。

 調整が下手だな」


 褒める余地は、ない。


 恒一は、少しだけ眉をひそめた。


「結界と、これは別物だな」


「同感だ」


 清磬は即答した。


「結界の構文は洗練されている。

 だが、この宝貝は――」


 言葉を選ぶ必要もない。


「不慣れだ」


 稚拙。


 技術も、運用も。


 知識だけをなぞって、形にしただけの痕跡。


「仙人モドキ、か」


 恒一が低く言った。


「本物が、場を用意して」


「下に試させている」


 清磬が続ける。


「ここは、本番ではない」


 公園という場所。

 人の出入りがあり、生命力は集めやすいが、致命傷は出にくい。


「練習場だな」


 恒一の声に、重みが乗る。


「失敗しても切れる場所」


「学習用だ」


 清磬は冷静だった。


「成功例を集めている段階だろう」


 二人は、同じ結論に辿り着いていた。


 結界は高レベル。

 中身は低レベル。


 この不釣り合いが、何より雄弁だった。


「嫌なやり方だ」


 恒一は、そうだけ言った。


 怒りではない。

 嫌悪に近い感情。


「ここで止めないと、

 次は“本番”になる」


「だろうな」


 清磬は、公園全体を見渡す。


「だが、今はまだ浅い」


 邪仙は、まだ表に出てこない。


 だが――


 確実に、動いている。


「今日は、ここまでだ」


 恒一は立ち上がる。


「これ以上触ると、

 向こうに“気づいた”と教えることになる」


「了解した」


 清磬も立ち上がった。


 二人は、公園を後にする。


 陰気は、まだそこにある。


 だがそれは、“始まりの残り香”に過ぎなかった。

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