軽視と違和感
放課後。
校舎を出ると、空はもう夕方の色だった。
私は、そのまま恒一のところへ向かう。
迷うほどの距離じゃない。
でも、一歩踏み出すまでに、少しだけ時間がかかった。
「……恒一」
呼ぶと、すぐに気づいてくれる。
「どうした?」
いつも通りの声。
だから、余計に言いやすかった。
「今日、学校で聞いた噂なんだけど」
私は、朝、ひなたから聞いた話を簡単に伝える。
場所。
症状。
はっきりしない原因。
恒一は、途中で遮らずに聞いていた。
「……なるほど」
短く、そう言う。
「情報としては、十分だ」
その横で、清磬が小さく首を傾げた。
「噂だろう?」
声は平坦。
「確定情報ではない。
現時点では、重要度は低い」
言っていることは、間違っていない。
でも。
その言い方に、胸の奥が少しだけ引っかかる。
「ただの噂でも」
私は、思わず言葉を足していた。
「場所は、昨夜の地図と重なってる」
清磬は、一瞬だけこちらを見る。
それから、また恒一に視線を戻した。
「偶然の可能性も高い」
「……清磬」
恒一が、静かに名前を呼ぶ。
声を荒げない。
でも、はっきりとした調子だった。
「切り捨てるには、早い」
清磬は、言葉を止めた。
数秒、沈黙。
「……そうか」
納得した、というより、受け入れた、という感じ。
でも、ほんの少しだけ、動きが硬くなる。
分かりやすい変化じゃない。
けれど、長く一緒にいる人なら、気づく程度の。
「記録には残しておく」
そう言って、清磬は視線を落とした。
その仕草が、どこか拗ねているように見えた。
本人に、その自覚はない。
ただ、判断が修正されたことが、面白くなかっただけ。
その時。
紙兵の一体が、静かに戻ってきた。
床に降り、その場で形を崩す。
恒一が符を拾い上げ、目を通す。
「……一致したな」
声が、少しだけ低くなる。
「噂の場所。
昨夜、異常反応が出た区域と同一だ」
清磬が、顔を上げる。
「……そうか」
今度は、即答だった。
否定はない。
不満も、もう表に出ない。
「優先度を上げよう」
判断が、切り替わる。
私は、静かに息を吐いた。
見鬼として感じた違和感。
学校で聞いた噂。
紙兵が持ち帰った情報。
全部が、ようやく一つにまとまる。
その横で、清磬は自然な動作で恒一に近づいた。
さっきよりも、ほんの少し。
理由は、特にない。
ただ、そうしたかっただけ。
私は、その距離を見ていた。
誰も何も言わない。
宝貝も、沈黙したまま。
でも。
今夜から、もう“ただの噂”ではなくなる。
それだけは、確かだった。




