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噂の温度
朝の教室は、いつも通りだった。
席に着く。
鞄を置く。
窓の外では、校庭に人が集まり始めている。
昨夜のことは、夢みたいに遠い。
でも、身体のどこかに、まだ残っている。
「ねえ、聞いた?」
前の席から、ひなたの声がした。
「何を?」
「◯◯公園の近く。
最近、体調崩す人多いんだって」
私は、ペンを止めた。
「ニュースにはなってないけどさ」
ひなたは、軽い口調のまま続ける。
「倒れたとか、気分悪くなったとか。
原因分かんないらしいよ」
騒ぐほどの話じゃない。
だからこそ、教室ではすぐに別の話題に流れていく。
私は、黙ってノートを見ていた。
昨夜、地図で見た場所。
紙兵が戻ってきた方向。
見鬼として感じた、言葉にならない違和感。
全部が、同じ一点に重なる。
「……そうなんだ」
それだけ言うと、ひなたは気にせず笑った。
「まあ、噂だしね」
そう。
噂だ。
今のところは。
チャイムが鳴り、授業が始まる。
宝貝は、沈黙している。
危険は、まだ形になっていない。
でも。
昨夜の“静けさ”が、確実に、こちら側に滲み出てきている。
私は、黒板を見る。
いつもと同じ一日。
そのはずなのに、世界の端が、少しだけ歪んで見えた。




