説教と段取り
店内に流れるジャズは、やけに落ち着いていた。
午後の喫茶店。
客はまばらで、話し声も低い。
その一角で、立花恒一は深く頭を下げていた。
「――大変ご迷惑をお掛けし、申し訳ありません。師姉」
向かいの席に座る女は、腕を組んだまま、じっと彼を見下ろしている。
天羅萃華――萃姉。
コスプレめいた衣装に身を包み、派手なアクセサリーを揺らしながらも、その目だけは笑っていなかった。
「補導」
一言。
氷のように冷たい。
「アンタね、何やってんのよ。
仙人が、警察に、補導。
しかも未成年扱い」
恒一は顔を上げない。
遠くの席の客がチラチラとこちらを窺っている気配がしたが、姿勢を崩すわけにはいかなかった。
「……弁解の余地もございません」
「でしょうね!」
テーブルが、軽く鳴る。
拳ではない。指先で叩いただけだ。
「いつからこっちに来てたの?」
「三日前です」
「拠点は?」
「用意していただいていた場所に」
「はあ……」
萃華は額に手を当て、長く息を吐いた。
そこからは、早かった。
何が問題だったのか。
何がまずかったのか。
どうすべきだったのか。
一つ一つ、逃げ場を潰すように問われ、
恒一は一つ一つ、誠実に答えた。
言い訳はしない。
責任を外に押し付けない。
結果、説教は一時間を超えた。
「……まあ」
コーヒーを飲み干し、萃華はようやく腕を解いた。
「生きてるし、被害も出てない。
今回は、ここまでにしとくわ」
「ありがとうございます」
恒一は、もう一度頭を下げた。
会計は、当然のように彼が払った。
全額だ。
店を出る時、萃華は振り返り、釘を刺す。
「次やったら、本気で締めるから覚悟しなさい」
「肝に銘じます」
姉には、勝てない。
夜。
拠点として用意された部屋に戻ると、玄関先に人影があった。
スーツ姿の男。
表の人間ではない。
「ご無事で何よりです」
男は軽く会釈し、封筒を差し出した。
「ご希望通り、多少調べられても問題のないものを用意させていただきました」
恒一は受け取り、中を確認する。
戸籍。
身分。
住所。
完璧だ。
「……助かります」
その声は、少しだけ疲れていた。
男は一瞬、間を置いてから続ける。
「ただ、その……一つ、問題がありまして」
恒一は顔を上げる。
「なんでしょうか」
男は、言いにくそうに視線を逸らした。
「――どうしても、学校に通っていただく必要がありまして」
夜が、静かに更けていく。




