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――胃の話

 職員室の空気が、ようやく落ち着きを取り戻し始めた頃。


 田所は、椅子に深く腰を下ろしていた。


「……」


 何も言わず、ただ湯呑みを両手で包んでいる。


 ――頭が追いつかない。

 理屈も、感情も。


 そこへ、静かに近づく影があった。


「先生」


 恒一だった。


「少し、失礼します」


 そう言って、小さな包みを差し出す。


「……これは?」


「胃薬です」


 即答。


 田所は、反射的に受け取った。


「……市販のものか?」


「いいえ」


 一拍。


「巫蠱製です」


「……」


 田所は、聞かなかったことにした。


「効きます」


 それだけは、なぜか信じられた。


「……ありがとう」


 深く考える余裕はない。


 恒一は、静かに頭を下げて席に戻る。


 田所は包みを見つめ、

 小さく呟いた。


「……助かる」


 この一言に、どれほどの意味が詰まっているか、

 本人だけが知っていた。

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